夕暮れの恋
1.京華
「もうすっかり、寒くなったね」
秋風に髪を揺らして、夕陽を背から浴びる、マフラーを首に巻いた彼女はそう自分に語り掛けた。
「そうだね~、もう一年もあっという間に終わってしまうよね。もう16歳も終わってしまうよ~、時の流れはほんと残酷だよね~」
そういって、今年にあったことを思い出しながら感傷に浸っていると、優しくもまっすぐ透き通った声で返事が返ってくる。
「そんな、お年寄みたいな」
そう言いながら笑みをこぼしつつ、彼女は言葉を続けた。
「まあ、高校生活は残り二年しかないかもだけど、長く見ればまだまだ長いと思うよ」
それから、今日あったことを二人で話していると、もうそこまで来てしまった。
「じゃあ、また明日。気を付けてね」
そうして、彼女はいつも通り私に別れを告げる。しかし、今日のそれはいつもと少し違うように感じた。上手くは言い表せないけど、少し違った。何か少し寂しそうな気がした。
そう思えば、私はその手を握っていた。
「け、京華?」
2.京華
私がその人とあったのは高校の入学式の日のことだった。
「あれ? どこ行った」
「これかな? あの落としたものって」
そうやって、女の子の声が私の後ろから投げかけられた。
振り向くと自身と同じ制服を着た女の子がしゃがんだ私の後ろに立っている。
その人の右手にはこの学校の校章がつままれていた。
「駅で落としたのを拾ったんだけど、あの人混みで渡しそびれちゃって」
「あっありがとうこちゃいます」
少々人見知りの私は見事に出会い頭に噛んでしまったのでした。
しかし、同時に私はその人の制服にリボンがつけられていないのを見つけました。
「その、りっリボンはどうされたんですか?」
その人は、視線を落として数秒硬直した。
「あれ、あれれー!」
そう、話したこともない人の落とし物を拾って自分の物を落としてしまったのです。
1.涼楓
「もうすっかり、寒くなったね」
秋風に髪を揺られ夕陽を背から浴びている私は、風でなびくマフラーを抑えながら、その子に語り掛けた。
「そうだよね~、もう一年もあっという間に終わってしまうね~。もう16歳も終わってしまうよ、時の流れはほんと残酷だよね~」
まるでお婆ちゃんになったかのような言い回しに思わず笑いが込み上げてきた。
「そんな、お年寄みたいな」
そう言いながら私は言葉を続けた。
「まあ、高校生活は残り二年しかないかもだけど、長く見ればまだまだ長いと思うよ」
人生は長い、だから出会ったり別れたりを繰り返す。
そうやって、今日あったことを二人で話していると、もうそこまで来てしまった。
「じゃあ、また明日。気を付けてね」
そうして、私はいつも通りその人に別れを告げる。
また言いそびれちゃった、ただ言葉にするだけがこんなに難しいのかって自分でも嫌になる。
けれど、言ってしまっていたらこの友だちという関係すらもが終わっていたかもしれないと自分の気持ちを押さえて、落ち着かせる。
そうしていると、私は手を握られていた、その人に。
「け、京華?」
2.涼楓
私たちが初めて会ったのは高校の入学式の日。
「あれ? どこ行った」
冬服のブレザーの袖から伸びる透き通るように白い指はすらりと長く、何かを探しているようだった。その手の繊細な動きに見とれてしまった。自分もあんなに綺麗な手ならなぁ、とないものねだりをしているところで目的を思い出した。
私は、彼女に近づき、ポケットから駅で拾った何か、もとい校章を取り出した。そして、名前も知らない彼女に声をかける。
「これかな? あの落としたものって」
彼女は、私の声を聞き一瞬の硬直の後、こちらを振り向いた。ロングの黒髪が振り返りざまにアップルの香りを私に届けた。
「駅で落としたのを拾ったんだけど、あの人混みで渡しそびれちゃって」
「あっありがとうこちゃいます」
彼女は噛んでしまい、視線を少し泳がせながら、頬は紅潮していた。
そして、視線が一点に定まる。
「その、りっリボンはどうされたんですか?」
私は、視線を落として数秒硬直した。
「あれ、あれれー!」
こんなひょんな事から、私たちの友達という関係は始まった。ちなみにリボンのことは未だに話題にあげられ少し恥ずかしいのだけど、その話をしている時の彼女の楽しそうな姿を見ると、つい許してしまう。
3.涼楓
「何かあった? なんでも聞くよ、友達なんだから」
その言葉、話し方は、優しさを象っているようで、今日までの2人での思い出を想起させる。
しかし、「友達」という言葉に私の心の内にある物が否定されたように感じてしまう。
それが頭によぎる決して少なくない思い出を切り裂いていくようで心がズキズキと痛い。
耐えきれなくて、私は頭に散らばった言葉を繋げて、それを言い訳として発した。
「ご、ごめん、今日お母さんが仕事で遅いから夕飯作らないと。な、なんとも、何ともない……から……」
気づくと私の足は、進み出していて、一歩一歩進むたびにはその一歩は大きくなって、走り出していた。
ぐんぐんと沈む太陽に少しでも近づこうと地面を蹴るが、太陽は気にも止めず光を世界から奪っていく。
横断歩道に差し掛かり、歩行者信号は点滅を始めた。ちかちかと繰り返し、ついに赤く点灯し、それと同時に頬を大粒の涙が流れた。
そのまま走り続けるうちに、心が訴えかけてくる。
嫌われたくない、一緒に笑いたい、一緒に買い物に行きたい、一緒に話したい、一緒にいたい。
なら、どうして、どうして、逃げちゃったの……!
私は、走るのを止めた。
涙を拭い、周りを見ると高架下のようだった。
駅に行くつもりが、道を間違えていた。
「涼楓!」
その人、京華はわたしが、走ってきた方とは反対側から高架下に走ってきた。
「け、京華」
4.京華
「何かあった? なんでも聞くよ、友達なんだから」
涼楓は、この学校で最初に出来た友達だ。
私は、内気な性格から、中学校では友達といえるような関係を誰とも築けなかった。
だから、そんな自分を少しでも変えようと高校は自宅から遠い場所を選んだ。
そこで、私は最初に涼楓と出会った。
涼楓は、クラスになかなかなじめない私をクラスメートの会話に入れてくれた。
本人は何ともないことだと思っていると思うけれど、私はそれが純粋にうれしかった。
だから、涼楓が悩んでいるなら助けてあげたい。
そして、私の心の中にある涼楓に対しての感情が何なのかを知りたい。
「ご、ごめん、今日お母さんが仕事で遅いから夕飯作らないと。な、なんとも、何ともない……から……」
涼楓の顔は今にも泣きそうな顔だった。どうしたらいいのか、一瞬戸惑うと涼楓は、走り出してしまった。私に向ける背中は、夕日に向かって小さくなっていく。
その姿が以前の独りぼっちな自分の姿と重なって見えた。
気が付くとその背中を追っていた。
涼楓が横断歩道に差し掛かかった時、歩行者信号は点滅を始めた。
「間に合わない……なんてこと、ない」
止まりかけた足を、方向を変え動かす。
日が沈み、どんどん暗くなる中、足をひたすら動かした。
私は高架下に差し掛かると、そこには人影があった。
私の側にいてくれた人、私が側にいたい人、涼楓。
「涼楓!」
涼楓はこちらに振り向き、弱弱しい声で私を呼んだ。
「け、京華」
私は涼楓にそのまま走って近づき、その体を抱きしめた。
「京華!」
涼楓は紅潮し、ドギマギする。
「涼楓、お願いがあるの。聞いてくれる?」
5.涼楓
京華に抱きしめられ、余裕がない。そこに質問をされ言葉が出なくて、コクリとうなづくしか出来なかった。
私がうなずくのを見て、涼楓はゆっくりと口を開ける。
「私は涼楓の側にいたい。だから一緒にいてくれる?」
乾いた涙の跡をまた濡らした。
けれど、これは嬉し涙。
「う、うん! 私も一緒にいたい」
この気持ちはまた今度、絶対伝えるから。
「私たちズッ友だね!」
高架下を車が通り、車のライトが2人を照らした。
日は完全に沈み、落ちてきてしまいそうなほどの大きさの満月が夜空を昇っていた。
はじめてまして、結城輝夜です。
今回は初めて短編小説かつ初めての恋愛ジャンルに挑戦してみました。少しでも良いな思っていただけたなら、評価をいただけると幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




