*お前を許さない
彼氏のスマホについては、見る派と見ない派に分かる。
私は見ない派。
だって私は彼を愛しているし、彼も私を愛していると信じているから。
彼がキレやすいからってわけではない。キレやすくなくても見ない派だ。
でも気持ちが揺らぐこともある。
そんな時は大きく首を振ってその邪念を振り払う。
さて、困ったことになった。
私は彼の留守中に、合鍵を使って入ってきた。
彼の部屋に見知らぬスマホが置いてある。
スマホカバーからして女性のものだと思われる。
私は彼のスマホは見ない派だ。これは揺るがない。
でも、彼のじゃない誰のかわからないスマホについては、見ない派とは断言したことがなかった。
着信が来ている。
きっと持ち主だろう。
通話ボタンを押す。
「もしもしタクヤ? 急いでエッチだったからスマホ忘れちゃった」
軽そうな女の声がした。
「誰?」
私はつぶやく。
「げっ……」
その後ツーツーと通話が終了した。
私はただ茫然とそのスマホを見ていた。
タクヤが浮気をしていたというのか?
信じてたのに。
ガチャリとドアの開く音がした。
「ただいま」
タクヤが帰ってきた。
「ねえ、このスマホの女誰?」
私はタクヤに問いただす。
「あ?」
タクヤはあからさまに不機嫌になる。
いつもなら不機嫌になったと思ったらすぐに私は謝るけれど、今回だけは譲れない。
「ねえ! 誰なのよ!」
「うるせぇ!」
「教えなさいよ!」
私は自分でも驚くくらいタクヤに怒鳴り声をあげる。
そんな私を無視して台所にタクヤは行き、いつものように換気扇の下でタバコを吸っている。
「どういうことよ!」
「もううっせえよ」
タクヤは台所に置いてあった包丁を手にすると、私に向かって振った。
「え?」
私の喉から血が噴き出る。
何が起きているかわからない。
痛いとか、熱いとか、気持ち悪いとか、そういうことじゃない。
ただ何が起きているのかわからないだけ。
私の血がスマホの画面を赤く染めた。
力が抜ける。
そのまま床に倒れ込む。
受け身なんて取れない。
強い衝撃だったのだろうけれど、そんなもの感じないくらい意識が朦朧としてきている。
「ったく。勝手なことすんじゃねーよ」
タクヤは私の血で染まった、浮気相手のスマホを持って出て行った。
たぶん私は死ぬ。
何が起きているのか、もうわかった。
ただ死ぬだけだ。
でも許す気はない。
タクヤもちろん、あのスマホの持ち主を恨み殺してじゃないと死にきれない。
タクヤを奪った奴は許さない。
私の血で染まった赤い画面のお前を私は絶対に許さない。
死ね。