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幻想探偵 ルイマーレ  作者: あねものまなぶ
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探偵には荒事が付きモノ

日が落ちそうな住宅街を春とルイは歩いていた。

「ねぇねぇ、春さん。春さんって好きな人っている?好きなタイプは? この俺とか相手にどうです?」

ルイの質問攻めに笑顔で微笑む春。


事務所に来ていた時は、感情の整理が出来ていなかったようだが、本来はおしゃべりな人らしく、色んなことをルイと話していた。

春の事なら何でも知りたいと思っていたルイだが、その中には、聞きたくなかったことも。

「好きな人は居るわよ? ...ホラ!」

春が左手を顔の横に持ってくる。

その薬指には光り輝く銀色のリング。

暗に結婚していると示している。


だが、性欲の権化は下心と明るい将来を捨てきれず醜くも立ち上がる。

「それがどうしたというのです! 結婚なんてこの社会が作った枠組みにすぎない! 俺がそんなつまらない物ぶっ壊してやるぅぅ!」

漲る思いが力となる。

溢れる性欲がルイを動かす。

「あら? あららららら? 私...これでも今の生活が気に入ってるの。だから...そんなこと言わないでね?」

笑みと共に薄く開かれたその瞳は、黒く濁っていた。


瞳の中に地獄への門が垣間見えた気がしたルイは、主人公覚醒ムーブを取りやめた。

ありとあらゆる恐怖体験を集めてもまだ足りないくらいの恐怖。

しっとりとした色気ある声色の言葉は、優しい物の筈なのにどうしてこんなにも怖いんだろうか?

そんな疑問と恐怖がルイを呑み込む。

(動けぇぇ!おれぇぇぇぇ!負けるなぁぁぁぁぁ、誓いを果たせぇぇぇぇぇぇ!)

ルイは負けない。

ルイは勝つ!

「ルイ君。返事は?」

「はいっす! 私、下村ルイは、春様の幸せな結婚生活を願っております!」

「あららら? ありがと。嬉しいわねぇ」

地獄の門が閉じたようだ。

春の怖さを学んだルイだった。


「うーんと。居なくなったのはここら辺であってます?」

「はい。毎日一緒にお散歩をしていました。そして、数秒くらい目を離した時にはもう...」

春と話しながら、帰宅ついでに当時の散歩コースを巡るルイ。

辺りに居た妖精や、グレムリンに話を聞いてみるルイだが、さんざん弄

ばれ、じゃれつかれた挙句に、めぼしい情報は得られずじまい。


「ルイさんって幻想種のみんなと仲良しなんですね?」

「うーん。別に仲いいって訳じゃないっすけど、アイツらは裏表ないんで気が楽なんすよ」

そんなやり取りをしつつ辺りを注意深く観察しながら春の家路に着く。

その途中、ルイは先程から気になっている疑問を春に投げかけた。


「春さん春さん。最近、何か変わったことってあります?」

「...特になかったと思います。バンちゃんが居なくなった以外は」

住宅街に入ったあたりから、ルイ達を尾行している男が居る。

(今回の件とは関係あるか不明だが、取り敢えずは話を聞いてみるか)


ルイは行動を開始した。

「春さん! 怒らないでぇ!」

「えぇ!」

春の手を取り、全力のダッシュ。

突然のことに慌てたのか、ルイが怪しんでいる男もルイ達の背中を追うように走る。


「春さん!そこの路地!」

ルイと春は、人気のない路地に駆け込む。

路地で待ち伏せしていると案の定、不審な男が目の前に飛び出してきた。

黒いズボンに黒いパーカー。

夏だと言うのに、フードを目深にかぶっている怪しげな男だ。


「ちょっとお兄さん。聞きたいことが...」

「な、なんすかねぇ?」

「俺達を付けまわして一体何をしてるん――」

ルイのの質問を聞き終える前に住宅街の中へ駆け出す男。

その表情は、焦りの色一色であり、明らかに怪しい。


「ちょっ!! 待てっ!!」

慌てて男の背中を追うルイ。

角を曲がり更に路地へ入っていく。

すると、此方を待ち伏せするかのように男が居た。

鈍く光るナイフのおまけつきで。


「はぁ...はぁ...はぁ、ルイさん。ちょっと...きゃぁっ!」

少し遅れて春も追いついて来た。

普通に生活していたらまず遭遇しない場面に驚いている様子。


「春さん。下がって下さい。家に帰る...だと不審者が出るとも限らないので、俺の目の届くところにいてくれると」

「で、でも。相手はナイフを...っ!」

ナイフを構え突進してくる不審者。

ルイは慌てることなく、突き出した腕をからめとるようにして締め上げる。

そして、危険なナイフは蹴りで後ろに吹き飛ばすことで凶器を奪う。

おまけに、不審者の腹にも一発蹴りをお見舞いする。


「ったく。ナイフを持ってデートのお誘いってのは乱暴じぇねぇか?」

無駄口は叩かない質の様で体勢を立て直すと、新たなナイフを右手に持ち突進してくる。

迫りくるナイフを躱し、攻撃をいなしなんとかやり過ごすルイ。


格闘技経験者なのだろう、線が細いわりに筋肉がしっかりついており、ルイに打ち込む拳が重い。

どうにも攻めあぐねている様子の男は、ナイフを仕舞い掌を俺に向ける。

ルイに待ったを掛けている様にも見えるがそれは違うようだ。


「おいおいおいおい...お前は幻想種なのかよ?」

男の右手には手のひらサイズの火球が出現している。

人間ではまず出来ない芸当であり、それが出来るのは幻想種だけだと言うのがルイの出した答えだ。


男は右手に出現した火球をがっしりと掴み、野球の要領でルイ向かってに投げ飛ばす。

ルイの顔面スレスレに通り過ぎるそれは、風を切る音を残し後方の壁に激突。

コンクリに穴が開くほどに威力に、その周辺には焼け焦げた跡。

手軽に出せる銃火器と例えるとその凶悪さが分かるだろう。


(火球を出せる幻想種って言えば...。いや目の前の男からはそんな気配は感じない。奴は確かに人間だ。だが、人間と言うには感じる物が幻想種そのものだ)

幻想種と近くにいる人間の中には、ルイの様に幻想種が持つ独特の気配を感じ取れる事がある。

それは白い煙の塊としてハッキリとルイの目に映っていた。


(ってか、人間なのに幻想種っぽいってありえなくねぇか?)

幻想種と人間のハーフと言う可能性を考えればルイの違和感は払しょくできた。

だが、ルイが感じる違和感はそれとはとはまた違う。

例えるならキャンパスに白と黒の絵の具をただ置いただけのような混ざり合わない物を並べているという曖昧な感覚。


(いくら考えても埒が明かないか)

ルイは火球に対処すべく、接近に打って出る。

火球の雨を掻い潜りながら、懐に潜り込んだルイは何とか男の右腕を拘束することに成功。

そうすると、男の掌に集中していた火球は息を吹きかけた様に消え去る。


「っらぁ!」

これ幸いにと、ありったけの拳を叩むルイ。

その衝撃は凄まじく、遥か後方へ男は吹き飛ぶ。


「はぁ...はぁ...」

ふらつきながらも立ち上がる男は、再度、火球を出そうとするが上手くいかない様子。

掌を力強く広げると、火が周囲から集まっていくのだが直ぐに霧散する。


「制約があるのか、それとも限界に来たのか...」

追撃をするためにルイは接近を図るが、ルイの一瞬の隙をついて、先程よりも発射速度が段違いに早い火球が放たれる。

偶々なのか、意図的な罠なのかは知らないが、不意を突かれたルイは思わず体勢を崩し地面に背中を打ち付けるように倒れこむ。


「待てぇ!」

男はルイの隙を突き、春へ接近。

彼の目的は、ルイとの戦闘ではなく春への襲撃だったのだ。


懐から取り出したナイフを春目掛けて振り下ろす。

火球が出せなくなった時用に持っていたようで、無言で不気味な機械みたいな雰囲気の癖してその用意周到さは非常に人間らしい。


「きゃぁっ!」

迫るナイフを対処できる術を一般人が持つわけない。

春は反射で両手で顔を守ろうとするが、そんなものあの勢いのナイフの前では意味などないだろう。

案の定、振り下ろさせたナイフは鮮血の雨を降らせた。

コンクリートに振る赤い雨はその出血の多さを一目で理解させる。


「ル、ルイさん! 手がっ!!」

春の目の前にはナイフに貫かれたルイの左手。

ナイフを受け止めるために、男の腕をつかんでは万が一にも春が傷つく可能性がある。

だからと言って、他に思いつく手段でも億が一の可能性は拭いきれない。

どうすればいいのか、ルイが足りない頭で考えた結果がこれだ。

安全を確保するには、その対象を確保してしまえばいい。

だから、自分の腕でナイフごと受け止めた。


「これで獲物は無くなったか?」

ナイフを掴まれ、火球を出そうにも上手く使えない様子の男。

火球を出そうとするその隙を突き、腹に蹴りを一つ。

だが、相手もバカではないようだ。

ナイフを失ったら次は拳。

大きく振りかぶった拳がルイの側頭部向かって勢いよく放たれた。


「っく」

拳の軌道の下にしゃがむことで躱し、がら空きになった頭部へ向かってルイは右拳を叩きこむ。

男は脳震盪を起こしたのだろう、ゆらりと足取りがおぼつかなくなり、最後には地面に倒れこむ。

男が気絶をしたのを確認。


怯えた様子の春は、男が本当に意識を失っていることを確認するとさっきのお返しとばかりに跨り拳を振るう。

「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」

気絶した男に馬乗りになり顔面を殴打する春をなんとか諫めつつ警察へ連絡。

よくよく見ると、春の服には汚れが僅かだが付いていた。

春さんの手を取り、セクハラまがいの怪我チェックを開始。

目立ったものは服の汚れだけだったようで安心するルイ。


「春さん、怪我はないっすか?」

「私は大丈夫ですが、ルイさんの手が...」

怪我と言うと風穴が開いた左手。

ナイフが貫通した手は、今も血が滴っている。


「あぁ、大丈夫っすよ。もう慣れたんでそこまで痛くないっすから」

「バカなこと言わないで下さいっ! さぁ、手を出して!」

春はハンカチを取り出し慣れた手つきで応急処置をしてくれる。

「いいですかルイさん。痛みって言うのは慣れてはいけない物なんです。ですから、少しでも痛いと感じた時は我慢せずに言っていいんですよ?」

ハンカチに包まれたルイの手を包み込む春はとても暖かかった。


その時、ルイは何かを思い出そうとしていた。

今の気持ちは、ルイの中にある遠い記憶の中へと誘っていく。

(そうだ!春さんは正しくあの過去の温もり。夕日に照らされた日本家屋。狭いながらも子供の遊び場となっている庭に面している縁側。そこで緑茶をすすりながら暁に照らされる子供達に微笑んでいる彼女)


ルイはこの気持ちの正体がある人物に起因していると考えた。

それは、

「ばぁちゃーんやー!」

そうルイの暖かくも時に苛烈な優しさで包み込む太陽、遠い日のばあちゃんとの記憶だった。

なつかしさ8割り、下心2割で抱き着こうとするルイだが、その視界が暗くなり阻止された。

両目脇の骨が薄い箇所がミシミシと音と立てており、頭の中に限界のアラートとして伝わる。


「誰が...ばぁちゃんですか...私はまだまだピッチピチなんですけど」

成人男性にアイアンクローをかまし、更に、地面から浮かせようとは。

(春さんは只者じゃないな、レスラーか?いや、レスラーでも出来ないんじゃないか?)


「また、失礼なことを考えましたか?」

「め、滅相もない。春さんのその包容力は世界一優しいばあちゃんの物と似ておりまして勘違いをしてしまっただけでありまして、えぇえぇ、ホントでございます。私はばあちゃんの事を性の対象として見たことがありません。ですが、春さんは違います。その豊満ボデーに神もうらやむ美貌、その全てに私は欲情しております! どうでしょうか? 春さんの事をばぁちゃんだと思っていないという事が伝わりましたでしょうか?」

ルイの渾身のスピーチは虚しく響くだけで結果が伴わなかった。

ルイとしては、春の掌をこのまま舐めまわす気だったが、それは鋭く低い女性の声が止めた。


「通報にあった不審者と言うのはお前だったとは...嘆かわしい」

「ほわっ!」

流石に第三者に見られるのは恥ずかしい様で、ルイの拘束を解除。

「ぐぇぇ」

ルイはコンクリートにヒップドロップかまし、少なくないダメージとその証拠のダメージ音声を発する。


「えぇと...婦女暴行とセクハラ諸々の罪で逮捕を」

「ちょっと待った! 不審者ってのは俺じゃなくてあっちに転がってる男! 見りゃ分かんじゃん!?」

現場に来た女性刑事はどう勘違いしたのか、ルイを不審者だと思っているようだ。


「まったく嘆かわしいのはこっちだよ。最近の警察の質も落ちたものだ...」

ルイの言葉に青筋を浮かべる女性刑事は握りこぶしを作り怒りを堪えている。

証拠に握った拳をプルプルと震わせている。


それでも落ち着きを取り戻し、この状況を整理する彼女。

「では聞こうじゃないか? 薄暗い路地裏に倒れている男」

(うんうん。怪しいね! これは不審者だね!)


「その前で笑顔でアイアンクローをしている女性」

(これはこれで怪しいな)


「その女性に向かって欲情していると言っている、アイアンクローをされている男性」

(これはアウトだわ!そいつはダメだね...男としてそれはアウト! 何がダメって普通にセクハラだからね?)


女性刑事が上げたこの現場にいる三人。

「では聞こうじゃないか、下村ルイ。不審者は誰だ?」

「俺か?」

次の瞬間には俺の両手に手錠が付いていた。

ヒンヤリとした冷たさがルイに伝わる。


(この無機質な感触を目の前の鉄仮面婦警に嵌められたと思うとある種のプレイのような感覚に...ならないな)

バカは逮捕されようとしても反省しない。


「で、あの転がっている男はなんだ?」

「あの...俺のこれは...無視ですか。はいはい...。あの男はそこにいる女神こと春さんを襲ってきたんだ。しかも、ナイフと幻想種みたいに火を操るって言うおまけつきでな」

ルイの言葉は簡単に飲み込めるものではない。


彼女は顎に手を当て少し考え込むと、

「まぁ、後は此方で処理をして置こう。ルイ、お前は怪我もあるから...」

女性刑事がルイに視線を戻したときにはルイの姿は無かった。

それどころか、逃がさまいと付けていた手錠は地面に落ちており、そこには「春さんを自宅まで送ってあげてね?」と書かれたメモが。


彼女の思惑を全力で踏みつけ、剰え煽るようなメモを残す。

女性刑事の中にはメラメラとした物が生まれるがそれも直ぐに沈下。


「では、警察の方でご自宅まで送らせて頂きます」

「あの...ルイさんとはお知り合いで?」

春の疑問も最もだろう。


何せ、駆けつけるや否や、勝手知ったると言う感じで繰り広げられる二人の空間。

それは見方によっては知人以上の関係にも。

「アイツとは只の知り合いですよ。そんなもんです」

春は気付いてしまった。

目の前の女刑事のその言葉には、どこか寂しさがあることに。


「あぁ....痛いわこれ。ホントに痛いし...痛くて痛いわ...コレコレコレ」

太陽が今にも眠ろうとしている住宅街。

男の情けない言葉は誰の耳にも届くことなく消えて行った。

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