依頼内容、家族の捜索
ルイはうなだれる彼女を優しくエスコートし事務所に通す。
調査の基本は情報収集。
彼女の笑顔を取り戻すべくルイは話を聞いていく。
ルイの手元の手帳が二ページほど埋まった頃。
彼女の依頼内容とすべきことがルイには見えてきた。
「家族であるカーバンクルが居なくなったと...」
「ひぃっく...ひぃっく...」
ガラステーブルを挟んだで、ルイの目の前には嗚咽交じりに泣きじゃくる女性。
名前を千住寺 春と言う。
話を聞くに、家族として暮らしていた猫のような姿の幻想種、カーバンクルが突然居なくなったという。
手に持つスマートフォンには雨のように涙が降り注ぐ。
カメラに手を伸ばすカーバンクルの写真は、彼女達の繋がりを感じさせる。
ルイは、考えうる限りの負の感情が彼女の中に渦巻いているに違いないと感じた。
だからだろう、極めて優しく暖かく、言い聞かせるように口説くように語り掛ける。
「泣かないで下さい。この俺が春さんの心の隙間を埋めてみせます。だから」
赤ん坊のようにきめ細かい肌。
彼女の手は、さながら氷上。
ルイの手が何の抵抗もなく滑っていく。
彼女の手が僅かに震えている。
絡める指は、細く長く、美しい。
「春さん、あぁ、春さん!」
「ルイさん...私」
相当に傷ついているのだろう。
彼女の涙で潤む瞳は助けてのサイン。
(そう安心させるにはキスをするしかない!)
「大丈夫...安心して。チュー」
ルイの愛のキスを拒む毛玉が顔に直撃。
「痛てぇっ!」
何処からともなく現れた毛玉は、ルイの顔に蹴りを放ち、くるりと一回転を決めテーブルの上に着地。
ガラステーブルで体操選手のようなポーズを決めている毛玉は、秋の相棒であるグレムリン。
名前はティルと言う。
全身をフワフワの毛で包まれた人形のような見た目の幻想種。
人の肌と酷似した皮膚の持ち、目の周りや口元、耳周辺などにその色を見せる。
人前に滅多に姿を現さない悪戯好きなマスコットだ。
そんな彼は、足元のガラステーブルを小さい手で数度叩き、真面目にやれと言っている。
「はいはい、すんません」
「あはははは...仲がよろしいんですね?」
先程のアダルトな雰囲気は霧散。
ルイとティルのやり取りが面白かったようで、春さんの笑顔がようやく見れた。
その微笑みはルイを更なる愛の虜にしていく。
(あぁ、春さん。貴方が笑ってくれるなら、俺はこんな毛玉といくらでも仲良くしましょう!)
気に入られるためにあえて毛玉と仲良くするバカ男。
ティルをがっしり掴むとうざったい程の頬ずりを行いだす。
「もっちろんすよ! 俺達はかなり仲いいですよ!ズッ友ですよ!」
抱き着くルイがうっとおしいのか、頬を遠慮なく叩きまくるティル。
それが癇に障ったのか、いきなりプロレスを始めだす二人。
決着は数秒、勝ったのはティルだった。
「クソ毛玉がぁぁ」
最初こそこのやり取りに笑っていた物の、その表情には影が差している。
「こっからは真面目な話なんすけど」
先程までのティルとじゃれ合っていたり、春にセクハラをしようとしていたルイとは思えない真剣な眼差し。
一瞬にして変わった彼の雰囲気に、春の表情はキリっとした引き締まった物になる。
それは、ルイの真剣な態度に答えるため、そしてこの人になら任せられるという安心感を覚えたからである。
「このことは警察には?」
「はい。相談しましたが、とてもじゃないが手が足りずに対応にも時間が掛かるからと...」
ゆっくり首を横に振りながら寂しい声で答える。
本来ならば今回のような件は警察の専門部所に依頼するところだ。
だが、幻想種と言う未知の存在の対応となると手探りになる部分が多い。
特に、彼らとの日常が当たり前になってからは様々なトラブルが増え、結果として警察は大繁盛していると言う訳だ。
だとしても、こんな錆びれた探偵事務所に相談するよりかは依頼達成の可能性は高いだろう。
都内には、そんな警察のお零れにあやかろうと、ルイのような探偵も増えた。
だからこそルイは気になった。
なぜ俺の所に来たのかと。
その疑問の答えは春の口から告げられた。
「警察の方から、下村さんなら...と紹介して下さりまして」
「あぁ、成程です。分かりました。バンちゃんは俺達が必ず見つけ出します!」
「ありがとうございます!」
「ですが、今日はもう日が沈みそうですので、是非ともご自宅まで送らせて頂きたく」
"依頼者は安全の為、自宅まで送り届けるのがルールーとなっている"などと嘘八兆で春との距離を縮めに掛かるルイ。
一歩、間違えればストーカー、いや、手口はストーカーのそれだろう。
それを理解して上で了承した春は、大物に違いない。
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