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幻想探偵 ルイマーレ  作者: あねものまなぶ
19/27

よく分からないけど此処に居たいんじゃ!

ここは下村探偵事務所。

今日は、珍しく秋が来客の対応をしていた。

「で、マーレちゃんは何が知りたいの?」

秋の隣で、でっぷり座り込んでいるティルも首をかしげている。

マグカップから立ち上る湯気が無くなってきた頃にマーレは意を決したように口を開く。

「...ルイに昨日言われたの。これからは危なくなるから事務所に来るなって」

マーレの心は、曇り空のままだった。

だが、その状態でもこの事務所に相談に来た。

秋の中で、ある考えが確信になりつつある。

それについては、隠しつつ、秋はマーレに疑問を投げかける。


「事務所に来るなか。...それで?」

「そ、それでって!? だから、ルイに事務所に来るなって言われたの! 要するにもう関わるなって言われたの!」

秋の答えにならない言葉にマーレは苛立ち、思わずガラステーブルを何度も叩く。

そんなマーレの剣幕をそよ風のように受け流し、カップを傾ける秋。

「ルイの言っていることはホント。ここ最近は密猟者もよく動くし、へんてこな力を使うビックリ人間の噂も聞くし。そんなのと関わってたら、マーレちゃん危ないじゃん。だから言ったんだと思うよ?」

「でも、私は大丈夫だもん!」

マーレもそのことは身を持って知っている。

知ってはいるが、どうしても気持ちが溢れてしまう。


「ルイはマーレちゃんの事が大切だから言ってるんだよ?」

「その気持ちはありがたいよ? ...でも!」

マーレの強い思いは伝わった。

危ないと言われながらも臆せずに此処に来た。

危険を承知でルイと一緒に居たいと言う。

だが、秋の瞳は懐疑的なまま。

「気になったんだけど、なんでマーレちゃんはそこまで拘るの? 別にルイと会うくらいなら此処じゃなくてもいいんじゃない? それが思いつかないマーレちゃんじゃないでしょ?」

秋は考えていた。

どうしても会いたくなったら、事務所以外で会えばいい。

ルイの関係者と分かると被害は及ぶ可能性もゼロではないが、事務所に出入りするよりかは絶対に安全だ。

更に無理を言うのなら、ルイか秋に迎えを頼めばいい。

たったそれだけなんだが、マーレは譲らない。

何がマーレをそこまで駆り立てるのか?

秋はそれが聞きたかった。

「う...」

マーレは、秋の視線にたじろく。

温厚な秋の視線は鋭く、心を見透かされているように感じたからだ。

マーレは質問の答えを考えた。

絡まった糸のように思考が乱れる。

必死に何故なのかと、自問自答を続けると、頭の中にある日の光景が浮かぶ。

それはマーレがルイ達と過ごしてきた日々。

ゆっくりと流れていくその光景は心を落ち着かせる。

その光景一つ一つが乱れた思考の糸を解き、その中に大切に仕舞ってある物が僅かに見えようとしていた。

考えること数分。

「わっかんないや...」

「あらら...?」

「わっかんないや!!」

「押し切ったっねぇ」

眉はきりっと。

眼はバッチリと。

決め顔で吠えるマーレの答えに、秋は気が抜けてしまった。

今までの考えは何だったんだろうともしかしたら答えによってはこの日常が終わるかも等々の秋の覚悟がこうもあっさりと吹っ飛ばされてしまった。

「良く分からないけど此処に居たいんじゃ! 不満かぁっ!」

啖呵を切るかのように秋を指さすマーレ。

マーレなりの強い意志表示の仕方なのだろう。

うまく言葉に出来ない恥ずかしさから、顔を少し赤らめている。

秋は、マーレのこの根拠なしに威張る姿がダサいスーツをバカみたいにカッコよく着る探偵と重なって見えた。

そのことに気が付くと秋の口元が僅かに緩む。


「全然不満じゃないよ。寧ろ良いと思うな」

「あれ? 怒らないの?」

「まっさかぁ。理由は人それぞれだし。それがマーレちゃんの選択なら外野はとやかく言わないよ。ねぇ、ティル?」

秋の意見にうるさい位に頷くティル。

「と言う訳で、マーレちゃんさえ良ければここで働かない?」

「オッケーィ!」

二つ返事のマーレ。

マーレの性格をある程度理解している秋からすれば、この結果は当然と言えば当然なのかもしれない。


(ルイが此処に居たら、反対してただろうなぁ。...ルイは過保護すぎるし)

此処にルイが居たらどうなったか。

そんな未来を思い浮かべ苦笑いを浮かべる秋。


(これか、二人には厳しいことの連続になるだろう――)

秋は、これからのことを考え始めるが、シャドーボクシングを始めたマーレの姿をみると何とかなるかなと思考を放棄してしまう。

「僕が難しく考えすぎてるのか...それとも二人が考えすぎないのか」

気が抜けたのかぐったりとソファーに沈む秋。

秋のその光景は中々に珍しい物でありマーレもマジマジとその様子を観察する。

「秋君ってそう言う所、ルイにそっくりだよね?」

その言葉は恥ずかしさ九割、嬉しさ一割と言ったところだろう。

秋の何とも言えない表情がそう物語っていた。

「んで、私は何すれば?」

「じゃ、ルイの手伝いして欲しいかなぁ?多分、あのビルにいるだろうから」

「ほぅ?」

マーレは軽い足取りでルイがいるであろうビルへ急行する。

その表情は何処か嬉しそうな、恥ずかしそうな初恋を自覚した少女のように見えた。

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