いたずら小僧のドラゴン達
切れかかった蛍光灯が照らす一室。
スチール製の棚には、段ボールやスチール缶などが散乱している。
蜘蛛の巣が所々に掛かっている様子から、普段は使われることがない場所なのだろう。
中央に置かれた小学校の先生が使いそうな灰色の机を囲むようにスチール椅子が二つ。
線の細い青年と、大柄の男が座って食事をとっていた。
「ねぇ...なんで今日の晩御飯が白米にふりかけだけなの?」
「あれだな...下村ルイを連れてこれなかったからだろうな。ついでに言うと、収穫無しだしなぁ」
「はぁ...」
幻想種の捕獲がメインで、ルイの捕縛がついでなのだが、ドラゴンの中では優先順位が逆転しているらしい。
ドラゴンの言葉に溜息を漏らす青年、康太。
縁が掛けた茶碗に盛られた決して多くはない白米にふりかけを二振り。
やけくそ気味にふりかけが掛かった白米を勢いよく口に放り込んでいく。
茶碗を空にして一言。
「明日は肉を食べたいな」
「...だなぁ。流石に連日の白飯は飽きたぜぇ」
空になった茶碗を机の奥に寄せ、机に突っ伏す二人。
すると、金属同士が擦れ合う嫌な音と共に、扉が開く。
「隼人様がお呼びです。至急、最上階の社長室までお越しください」
スーツを着こなした金髪の女性は、隼人の後ろについている者だ。
康太達は、何事かと頭を傾げながらも女性の先導の下、部屋を出る。
階段を上がり、日の光が見える東京都内にあるフロアへ。
そこからエレベーターを使い、このビルの最上階である五十回階へ。
ここは都内有数の高級住宅街、港区。
エレベーターは外が見えるような透明なガラスで覆われており、太陽が燦燦と照らす都内を一望できるような作りになっている。
この景色を欲しいがために、この地区にビルを立てる起業家たちも多いが、その分経費が掛かる。
つまり、この景色を手中に収めているこれから康太達が会う隼人は、相応のお金持ちという事だ。
康太とドラゴンは、普段から見慣れた光景の為、別段感動するという事はせず、ひたすら眠そうにしている。
たった1分程度の時間だが、康太達は眠気も消えのびのびした様子。
エレベーターが止まり、目的の部屋へ。
赤いカーペットが敷き詰められたこの階は一般人が立ち入ることは無く、人の気配もない。
「隼人様。康太様達をお連れしました」
細かい装飾が施された光沢のある茶色の扉。
呼びかけると、入れと声が掛かる。
開け放たれた扉の先は、高級そうなデスクのみというシンプルな内装。
そこに、場違いな二人が礼儀などもお構いなしにのそのそと入るや否や。
「でぇ? 何の用事ですか、クライアント様?」
康太達は目の前にいる隼人に雇われている私兵だ。
彼らの言動に何があるという事は理解していたものの、その言動はプライドの塊である隼人の神経を逆なでした。
「呼び出しのは他でもない。昨日、お前たちが確認したと言うカーバンクルを再度、狩りに行ってこい」
「えぇ、昨日も言ったけど、下村さんが出てくるんじゃ厳しいですって...」
康太の不満げな言葉に更に深い皺が隼人に刻まれる。
「良いじゃねぇか、もっかい色男と会えんだぜ? 」
「えぇ...」
隼人にとってこの場所は自分のテリトリーであり、権力を誇示する場所。
ここは隼人が王として振る舞える数少ない場所なのだ。
しかし、目の前の男達は隼人の掌には収まらないようだ。
そして、命令しては文句を言うというラリーを何回も繰り返していくうちに隼人の我慢の限界が来た。
「いい加減にしないかっ! お前たちはさっさと目的の物を取ってくればいいんだよ! それがなんだ、目的も達成できず文句ばっかり。あのドラゴンがと思ったら、蓋を開けてみたら使えない無能ではないか! コイツの方がよっぽど使えるではないか!!!!」
隼人がコイツと指さすのは、部屋の隅に控えていた金髪の秘書。
その言葉を聞いていたのか、取り敢えずと言った様子で頭を下げている。
しかし、康太達はそんな言葉などお構いなしと言った様子。
早く終われと言わんばかりのつまらなそうな表情だ。
隼人の怒りは収まらないようで、更にヒートアップする。
「そんなこと言ってもぉ? 仕事の条件がぁ? 報酬がぁ割に合わなくてぇヤル気にならないっていうかぁ?なぁ康太ぁ?」
「だねぇ...だねだねだねぇ」
そのヤル気のない返事に隼人の顔が真っ赤に染まる。
「お前たちには、それなりのリソースを使っているんだ! さっさとカーバンクルを連れてこい! それが出来なきゃ、お前らの臓器を売りさばいてもいいんだぞ!」
怒りを吐き出し終わったのか、荒い気を落ち着かせていく。
「はいはい、了解。そんじゃ行くぞ康太」
「かしこま」
隼人の用事が終わったと分かるや否や、部屋を退室していく康太達。
その背中が見えなくなると、乱れた背広を不機嫌に治す。
「それに比べて、君は有能だ。仕事も出来るし、気が利く。何よりもその美しい肢体。奴め、不良品ばかりをよこすと思ったが、案外いい仕事もするものだ」
「ありがとうございます」
彼女の体を舐めまわすような視線は女性を物としか思っていない醜い欲の結晶だ。
女性ならば、嫌悪感を心の内に留めておくのは不可能であろう。
眉一つ動かさないその表情を保っているのは、並々ならぬ精神力の賜物か。
もしくは、馴れているのだろうか。
聳え立ちビル群をダラス越しに見下ろす二人は不機嫌そうで、つまらなそうだ。
「ねぇ、さっきのおじさんどう思う?」
「錆びれた豚小屋の主が鼻息荒く見え張ってんだ。可愛いもんじゃねぇか」
言った本人も釣られて笑ってしまう程に、康太は腹を抱えた。
「僕さ、良い事思いついたんだ」
「気が合うなぁ、俺もだ」
何か思いついたのだろう。
悪戯を思いついた二人は、動き出した。
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