武力5の探偵
時刻は十五時。
ルイが最初に降り立ったのは、ビジネス街。
休日の為、スーツを着ているサラリーマンの姿は少ないがそれでもチラホラと見える。
「そんじゃ...先ずはこっちか」
スマホには地図アプリが立ち上がっており、秋から貰ったカーバンクル失踪事件現場までのルートが出ている。
「ねぇルイ! アイスあるよ!食べようよ!」
ルイのジャケットを引っ張るマーレ。
ルイは無視を決め込む。
「アイス―!!」
ルイは聞き込みを開始すべく、辺りを見回す。
「へぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
耳元で叫ぶマーレ。
流石にルイも無視はできなかった。
「ねぇ! ルイルイルイルイルイルイルイ! アイスアイスアイスだよ!」
「うっっっっっるせぇな! アイスは買わないの! もう秋からのお小遣いは無いの!」
「でも、ルイが好きなチョコチップ味があるけど?」
駄々をこねる子供の管理がこんなに大変だとはと嘆くルイ。
財布が少しだけ軽くなった。
「これ美味しいね? 後でそっちも頂戴?」
「おう。んじゃ交換な?」
二人でアイスを美味しくいただいた。
その余韻に浸っている頃に、最初のカーバンクル失踪事件の現場に着いた。
ここはマーレが住んでいる自然公園と同様に幻想種の保護区に指定されている場所。
公園ではなく、オフィス街なのは幻想種達の希望だそうだ。
「んじゃ、ここら辺で聞き込みすっか。...ってマーレは?」
ルイは辺りを見回すとマーレの姿が見えない。
(もしかして!? 攫われた!?)
マーレはマーメイドと言う種族だ。
その身体の一部を食べるだけで不老不死になると言われており、どんな金塊よりもどんな宝石よりも価値がある。
ルイが事務所から、いや公園からも連れ出したくない理由がこれだ。
「マーレッ! どこ行った! マーレッ!」
ルイは辺りを駆け回り、腹の底から声を出す。
額に浮かべる汗は焦りの表れだ。
その時、ルイの背後に人の気配が。
「誰だっ!」
マーレを誘拐した犯人かと思ったルイは勢いよく振り返るが、
「ちょっ! どったのそんな怖い声出して?」
肩に妖精を何匹も乗せているマーレがそこに居た。
何とも陽気な様子で、ルイの緊張感も一気に霧散する。
「...なんでもねぇーよ」
「あれ? ひょっとして心配してくれたり?」
うざったくルイの顔を覗き込んでくるマーレは、頭を強引に抑え込むことで無力化される。
「あだだだだっ! 分かったから、ゴメンゴメン! それよりも情報があるの!!!」
「おう? 情報?」
「そそそ。事件の時、変なことがあったって」
マーレの肩に乗る妖精は、座りながら何かをマーレに囁いている。
その話を詳しく聞くと、カーバンクルが失踪した日にここら辺では見たことがない人間が居たらしい。
それは、大人の女性でありながら、幻想種特有の気配がしたらしくよく覚えていたと。
「ってことはその女ってのは人間のような幻想種ってことか?」
「違うって。人間なんだけど幻想種っぽいんだって」
マーレに耳打ちする妖精は、ルイを指さす。
「ホントぉ!? あのね...なんかルイもそれっぽいらしいよ?」
ルイは何を勘違いしたのか、
「マーレ。俺って奴は、どうやら世界の命運を賭けて戦う定めらしい。はぁ...困ったぜ、俺の出自がウルトラ特殊らしくてなぁ、この血の定めって奴だ」
「何言ってんの? 多分、幻想種との繋がりって奴の事でしょ? バカじゃない?」
ボケにマジレスで返され、落ち込むルイ。
「はいはい、分かってますよ。その怪しい女ってのは俺と同類なんでしょ?」
「前に夢さんが言っていた集団の中の一人なんだよね?」
妖精に女の特徴を詳しく聞いてみると凡その外見が分かってきた。
「んで、特徴を纏めると、金髪の女っと」
「そうそう、金髪の女だよ!」
いつの間にか、マーレの右肩だけでなく左肩、頭の上にも妖精が乗っている。
マーレの動きにに合わせて妖精たちも首を縦に振る。
「他には?」
「女性らしいよ?」
暫しの沈黙。
「特徴が少なすぎだろぉぉぉぉぉ! 流石にそれだけじゃ無理だね! そんなので分かる訳ないだろ? 分かったら神だよ! ゴッドだよ! 直感鋭すぎんだろぉぉぉぉ!」
「しょうがないじゃんねぇ? 金髪の人って分かっただけでも前進じゃん? ねぇ?」
まぁ、情報が手に入っただけ前進だ。
「...だなありがとな。だけど、そのうざったいのやめろ」
「はぁーい」
唇を尖らせて、「ねぇねぇ」とうるさくしているマーレ達を取りあえず静かにさせるルイ。
妖精達に礼を言い、他の情報を探すべく聞き込みをするがここら辺ではそれも集まらなかった。
ルイ達は捜索ポイントを変えることに。
「なぁ、マーレ」
「ん?」
「なんかさ、妖精とかと仲良くなるの早くね? なんかズルくね?」
ルイは常々、マーレの幻想種に対する信頼度の上げ方がおかしいと思っていた。
聞き込みをするために、先ずは仲良くする必要があるのだが、マーレは一言、二言話すだけで大体友達。
ルイは、今までの苦労が何だったのかと思うくらいだ。
「ズルいって!? うーん...私も良く分からないけど同じ幻想種だからだと思うよ? ほら、人間だって、私達よりかは人間同士の方が友達になるの早いでしょ?」
「成程、納得だわ」
「でもでも、ルイは人間の中でも幻想種よりだからかな? 妖精さん達もルイの事友達だって思ってくれてたじゃん?」
「そうかねぇ。ただ、遊ばれただけだと思うが...」
事件捜査だというのに緊張感の欠片もなく、その後も失踪事件の足取りを追った。
「んで、分かったことは金髪の女が犯人っぽくて、マーレのお陰で情報が集まったと?」
「そそそ! 幻想種に聞くなら、幻想種にまっかせなさい!」
「頼もしい限りっすわ。流石っすわ、マーレさんには全人類が土下座でお出迎えですわ」
「うむ。くるしゅうない!」
揃った情報は少ないが、収穫があっただけましだ。
もう日が沈みそうになっている。
捜索も切り上げて帰宅する運びになった。
「ねぇねぇ? 今日の晩御飯は何なの?」
「はぁ!? お前は晩飯を俺にたかろうってのか!?」
「だって...ほら!」
マーレがスマホを取り出し画面をグイグイと見せてくる。
そこには、秋からのメッセージが来ていた。
「あぁ? 今日の晩飯はカレーなのか...そりゃ楽しみだ」
「でしょでしょ? 野菜たっぷりなのかな?」
「バッカ! 野菜を買う金なんてありません! 毎度おなじみ具無しカレーだと思いますぅぅ!」
「...うん。カレーってのはルーがあるからカレーなんだよ。肉があっても野菜があってもルーが無きゃカレーじゃない。つまりは、ルーがあればカレーなんだよ!」
「おぉ! 流石はマーレだ。その心理に辿り着くとは。うんうん!では、我が家のカレーを満足いくまで堪能しようではなか!」
「ひやうぃーごー!!」
何だかんだ乗せやすいルイであった。
意気揚々とマーレと帰っていると、ルイの足元に鋭い鳥の羽が刺さる。
それを襲撃の合図だと感じ取ったルイは、マーレの肩を抱き寄せる。
「えぇ!? 大胆過ぎない!?」
「静かに。俺の傍に居ろ。絶対に離れんなよ」
「う、うん!」
力強い返事のマーレ。
だが、やはり緊張しているようで、小さな地面の凹凸で躓いてしまう。
「マーレ。合図でそこの路地に入るぞ...走れるか?」
マーレは頷く。
「今だ!」
ルイとマーレは入り組んだ路地に入ってく。
すると、ルイを追走、襲撃した犯人が姿を現す。
「アンタ、俺に用事でも?」
ジーンズに白シャツの大柄の男がどうやらそうらしい。
だが、返事は無い。
「またかよ...」
ルイは春の時と同じような襲撃に、へきへきしていると、
「ねぇねぇねぇねぇ、なんなのあの人。...なんで私達みたいな感じしてるの!?」
マーレは初めて邂逅する、特異な気配を持つ男に驚いている。
あり得ないものを見るかのような恐れを感じた。
「んなこと俺が知るかよ! 俺だって知りたいわ! そんな事どうでもいいから、さっさと逃げんぞ!」
ルイはマーレの手を引き、どうにか逃げようとするが、ジャンプと共にハーピィの羽と鉤爪を生やした不審者に阻まれる。
「ねぇねぇねぇねぇ! なんで人間がハーピーみたいになってんのぉ! そんなウルトラ科学持ってたの!?」
「知らねぇわ!」
「そんなのがあったら、私の唯一の長所が無くなっちゃうよ! 只のバカになっちゃうよ!」
「お前はマーメイド云々を差し引いても只のバカだ。んで、バカはお邪魔なんでさっさと隙見て帰れ」
「はぁ!?」
マーレがなんか不満そうだったけど、構う余裕はなさそうだ。
ルイの思考は、マーレをこの場から逃がすことだけに向いている。
その為にすることは、
(何とか隙を作る!)
ルイは駆けだす。
「っしゃぁ!」
振りかぶって拳を振るうが、男は翼を使って一気に跳躍し回避。
そのまま、上空からの急降下攻撃を開始。
鋭い足の爪は、重量と効果速度が加わり、コンクリートを深く抉る。
ルイは攻撃に出るどころか、防御すらままならない状況に陥る。
肩越しに、マーレが無事か確認するルイ。
マーレはルイから離れたところで、縮こまっている。
ルイの内に、早くこの状況を打開しなければと言う思いが燃え上がる。
ルイは、マーレの怯える表情は見たくないのだ。
ハーピィ男は、降下攻撃の後に致命的な後隙があることを読み取ったルイ。
ワザと致命的なスキを晒し、敵の攻撃を誘発。
そして、鋭い鉤爪をギリギリで回避して、何とか両手を後ろから羽交い絞めにする。
「マーレ! 早く行け!」
ハーピィ男の筋力は、ルイの拘束力をはるかに上回る。
両手を動かす度に、ルイの腕がもげそうになるほどのダメージ。
ルイの苦痛に歪む表情に、思わず涙を流してしまうマーレ。
だが、
「早く行けぇぇぇぇぇっ」
ルイの張り裂ける様な声に背中を押されたマーレは、泣きじゃくりながらも何とか表通りに消えて行った。
ルイはその時、安心からか力が緩んでしまった。
拘束から逃れた男は、ルイの足を掴み地面に思いっきり叩きつける。
全身を強く打ったルイは、あちこちから血しぶきを上げる。
その行為を数度、繰り返すとルイが処分前の人形の様になった。
血の池に浸るルイを見下ろす様に現れたのは、夕日を背負う女性のシルエット。
「あら? 随分と大人しいのね。ドラゴンの時とは違って力も使ってないようだし...」
ルイにはその姿は視認できないが、声から相当な美人だと判断した。
死にそうな時でも、ポリシーは守るのだ下村ルイの流儀。
「ろくに体も動かせない様ね? じゃぁ、捕まえちゃって?」
返事する気力もないのが声の主にも分かったようで、ハーピィ男はルイを担ぎ上げる。
そして、大きく両手を羽ばたかせ地面から僅かに浮いた時、
「やめてっ!」
マーレが全身に水流を纏わり憑かせてタックルをお見舞いする。
その衝撃は、男を吹き飛ばす程に高く、ルイを取りこぼし、後方の壁に激突する。
「早くっ! こっちです!」
マーレは表通りに向かって慌ただしく手を振る。
どうやら応援を呼んだようだ。
「そこまで。今日はお嬢さんの勇気に免じて帰りましょう」
これ以上騒ぎになるのはまずいと判断したのか、それとも別の理由化は分からないが、ハーピー男は指示に従い、立ち上がり空のかなたに消えて行った
ボロボロのルイに駆け寄るマーレは、うわごとの様に呟くルイの言葉を聞いた。
「俺ってよぉ...武力五のなのに...なんでこうなるの?」
「そうだね。...私も武力五かな?」
退院したと思ったら、また入院の運びとなったルイ。
流石の夢も、ベットの上でむすっとしているルイに説教を数時間お見舞いした。
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