ドラゴンは悠々と空へと消える
「はぁ...マッジでバケモンだろ」
体力、気力、精神力をごっそりと持っていかれたルイは荒い息を整える。
「あららぁぁぁぁ。やっぱり、奥の手持ってたね。どうする?」
「やることは変わんねぇだろ」
火球の行方を見守りつつ、のんきに声を上げる二人。
ドラゴン達は、火球の対処が可能と判断したのか、接近戦を仕掛けてきた。
突進に加え、両手の爪を使った攻撃。
何とか躱して逃げてを繰り返すルイだが、ドラゴン達がまた火球を打ち出す構えを取る。
「康太ぁ。そろそろ次構えろ」
「えぇ!? 腕がまだ痛いんだけど」
「次は、本気で行くぞ。合わせろ」
「しゃーなし」
二人が放つ赤い輝きは先程の物とは比べ物にならない程に眩しいく、恐ろしい。
繋がりがあるとはいえ、人間がドラゴンの火球を打ち出すのは負担が掛かる筈なのだが、康太は構わずと言った様子。
「色男さんよぉ、そいつの力は無暗矢鱈に使えねぇんじゃねえか?」
「どうだろうなぁ...お前の言う通りかもしれないし、もしかしたら違うかもしれないぜ?」
ルイは意味深にはぐらかすが、ドラゴンの推理は当たっていた。
それは、外見的な変化を見れば一目瞭然。
ルイの右腕に纏わり憑く金色の輝きが、弱くなっているからだ。
(核心を突かれた犯人の気持ち...分かるわぁ...でも!)
ルイは半ば、心が折れそうになるが何とか気持ちを持ち直す。
弱弱しい輝きを纏うルイだが、その瞳からは先程以上の闘志が見える。
「いいねぇ、最後まで膝を付かないってのは俺好みだぜ?」
「お前に好かれても嬉しくねぇな...」
辺りに耳を澄まで、聞こえてくるのはドラゴンの荒い呼吸音だけ。
ルイが出来ることはかなり少ない。
そして、
「康太ぁ! ラストだぁ、気合入れろ!」
「かしこまぁ!」
ドラゴン達が用意している火球のサイズは、先ほどの数倍もあった。
ルイが命からがら対処した火球は子供のような感じるほど。
「...流石にあのサイズはキツイだろ」
ルイは最善の策を考えた。
そしてその結果が、
「お前ら目と耳塞いでろぉぉ」
捉えられた妖精たちが入っている檻に向かって勢いよく拳を振るうこと。
一度では壊せなかったので、二度三度と力任せに殴りつけると、何とか穴を開ける。
そこから勢いよく飛び出してきた妖精たち。
「人魚のねぇちゃん達が居るところまで何とか逃げろよぉ!」
ルイが選択したのは、捉えられた幻想種だけでも逃がすこと。
マーレに保護して貰えたら御の字と言うのがルイの策だ。
すると、ルイはある違和感に気付く。
(...なんか、無意識にマーレを頼ってねぇか?)
ルイの考えの中に、いつの間にかマーレが居座っていたようだ。
死を悟ったのか、ルイの思考はゆっくりと思い残す後悔へと向かう。
(マーレが相棒か...悪くなかったのかもな)
そして、ルイの思考は現実へ戻る。
口元には、馬鹿なことを考えたと弧を描いている。
「ふぅ...。来いよ、ドラゴンコンビ」
ルイは、できうる限り最大の抵抗をしてやろうと腹をくくる。
繋がりの力を許容量以上に右腕に流し込む。
(ちょっ!?)
ルイは何処からともなく戸惑う声が聞こえたがそれは無視した。
右腕に溢れる力は黄金の山のように輝かせる。
更に、左手にもその流れを行きわたらせる。
金色に包まれた両手、単純にさっきの二倍に出力。
ド派手な金色だが、目の前の光景には流石に見劣りする。
(まるで太陽だな)
目の前には太陽と例えるのが相応しい程に大きな火球。
それが、二つ縦に並んでいる。
「康太ぁ! 合わせろ!」
「っがぁ」
相当に負担が掛かっているのだろう。
康太から気のいい返事は消え、苦しさを何とか堪えようとしている肉食獣の様な声が聞こえる。
それはそうだ。
あんな物を人間が打ち出すというのに、負担が無い訳がない。
それを気楽に放てるドラゴンという種族の出鱈目さを改めて認識させられる。
ドラゴンの口内が、マグマのような赤に染まった時、
「はぁっ!」
太陽が放たれた。
ゆっくりと進んでくる二つの火球は、数十メートル先の視界までも明るくする。
辺りの景色を抉り取るようにしながらルイへ向かって行く。
余りの巨大さ故に、スピードが遅く見えるがそれは錯覚だろう。
既にルイの肌は焼け焦げようとしているのだから。
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルイの腹の底から声が出る。
この太陽達を押し上げるには、何もかもを絞りだしてもまだ足りないだろう。
そう考えたルイは、全ての物をかなぐり捨てた。
だが、出来ることは太陽の進行を押しとどめるだけ。
両手は繋がりの力でなんとか無事だが、ルイの皮膚はもう焼けどをしているような状態だ。
(マジぃな...ビクともしない)
ルイは悟った、何かを捨てなければこの火球は対処できないと。
そしてルイは右腕を捨てるにした。
繋がりの力は、許容量以上に流し込まれると、その量に見合った規模の暴発が起こる。
そして、ルイが持つこの力はドラゴンと見劣りすることない程、格が高い。
その力の全てを爆発にすることが出来れば、ドラゴン諸共吹き飛ばすくらいは出来る筈だ。
ルイは、右腕全体に力を流し込み続ける。
それは異常なまでの輝きとなり、ドラゴン達に異常を知らせた。
「ちぃ! アイツ、俺達を巻き込む気か!」
「えぇ! ? マジ!? マズいよっ! 早く逃げようよ」
異常な程の力の高まりから、暴発を意図的に起こすと言うルイの考えを読んだドラゴンは、
「...いや、受けて立とうぜ?」
「はぁ!? バカじゃないの! あの量は異常だよ、間違いなく僕は死ぬって!」
「男が命賭けてんだぁ、それから逃げるってことはちょいとダセェだろ?」
「それで死んだ方がダサいでしょう!?」
ニヤリと笑うドラゴン。
その様子を見て、どうしようもないと悟った康太はドラゴンの背中に隠れやり過ごす様だ。
半径数メートル。
ドラゴンの火球の半分程度の大きさの爆発を発生させればそれでいい。
ルイは右腕の骨から肉が融けていくような感覚と痛みに襲われている。
ドラゴンは翼を前面に折りたたむようにしてルイの暴発を防ぐようだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ルイの右腕が金色からマグマのような赤色に輝く。
許容量の限界を迎えたのだ。
ルイの腕の内側から、破るようにして出現する輝く赤い球体。
それはルイの右腕に流れ込んだ繋がりの力の集合体。
そして、太陽とドラゴンを吹き飛ばす爆弾だ。
「っくっ!」
ルイは苦悶の声を上げながらも、近くの茂みに飛び込んだ。
宙に浮く爆弾は、あっという間に輝きに包まれ爆発した。
ドラゴン達が放った火球諸共跡形もなく吹き飛ぶ。
爆発は大きな衝撃波となり公園中へ広がっていく。
翼を畳んだドラゴンも衝撃波に見舞われるが、僅かに後退した程度。
爆発も、全て火球に衝突したためダメージもない。
対して、茂みに身を隠したルイだが、衝撃に耐えきれず遥か後方にある大樹に激突していた。
腕が無くなった両肩からは、ダラダラと血が流れている。
「はっはっは!片腕を犠牲にしてこの程度か!」
翼越しという視界の狭さゆえか、ドラゴンはもう一つの空に浮かぶ輝く爆弾に気が付かなかった。
「弾けろぉぉ!」
ルイの声が合図となり爆弾が炸裂した。
内部に渦巻いていた力が、握りつぶした果汁のように外側に飛び出す。
その爆発範囲内には狙い通りドラゴン達が入っている。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ルイは、不意を突いたもう一つの爆弾でドラゴンを殺でると考えていた。
だが、翼を爆風に焼かれたドラゴンは、断末魔のような叫び声を挙げている。
挙げることが出来ている。
「ちょっとっぉぉぉぉぉ!」
ドラゴンが未だ健在な理由が康太だった。
ドラゴンと爆弾との間に淡く輝く火球を複数個展開し壁にしている。
これによる、爆風によるダメージを最小限にしたようだ。
(あの数を咄嗟に出すって...化け物かよ)
事前の準備なしに十数個の火球を出すことなど埒外だ。
ルイは特別な事情がある為、純粋な比較はできないが繋がりの力の使い方という点においては康太が数段上に居ることは確かだろう
衝撃により抉れた地面が空高く舞い上がり、辺り一帯の視界を曇らす。
爆破の余韻が残る中、土煙の中から二枚のボロボロの翼が現れた。
「はっはっはっはぁ! 死ぬかと思ったぜぁ!」
二枚の翼の先端部分が、破れた障子のように穴だらけになっている。
大きな羽ばたきは辺りの景色を吹き飛ばすほどの風を巻き起す。
翼にダメージはある物の、その機能は健在の様だ。
ルイが両腕を犠牲にして、この程度だ。
「んでぇ、どこに行ったんだ? あの色男はよぉ?」
頭を上げ、ルイを探すドラゴン。
ルイは動くことも出来ずに、ただただ横たわっていた。
「おぉ、そこに居たのか色男」
「マジかぁ...」
ルイの悪運は尽きたようだ。
(マジで...なんか天使が見えんだけど)
ルイの視界いっぱいに広がる夜空には、天使のような羽の生えた人影が複数いた。
ルイは、天からのお迎えだと思っているようだが、少し違う。
「ちょっとっ! なんか上にいるんだけど!」
「あぁ?」
ドラゴン達も気付いたようだ。
空に浮かぶ人影の数は十数個。
そのどれもが、手に武器のような物を持っているようだ。
康太はその姿をしっかりと視認した。
「ハーピィーに、カラス天狗...あれ、ペガサスまでいるよ!?」
「ほぉ! こいつは警察のエリート部隊様がおいでなすったもんだ」
「何落ち着いてんの? 翼はボロボロ、空には敵。正直、ヤバいでしょ?」
空に待機しているのは、日本の警察が誇る精鋭部隊だ。
人間は地上から。
幻想種は空からの追跡を行う。
幻想種が人間との共存を行う様になってからは、正義感の強い幻想種は警察組織などに所属している。
その中でも、選りすぐりの荒事専門部隊が彼らだ。
「...んじゃ、逃げるか。康太ぁ! 」
「かしこまぁ!」
大きな翼を数度地面に打ち付けるようにすると、像もビックリの巨体が浮いた。
ドラゴンの頭にしがみ付いた康太は悲鳴を上げている。
彼らは、空に待機している部隊の事を理解しているようだが、そんなのお構いなしに逃走を図る。
余程自信があるのか、只のバカか。
「流石に、捕まりたくないなぁ」
警察部隊が隙を突こうと動き出した瞬間、ドラゴンを囲むように火球が出現。
視界に収めただけで焦げ付きそうになるその火球は、生き物が持つ恐怖心をこれでもかと刺激する。
その一瞬の隙を突きドラゴン達は逃走を図る。
「またなぁ、色男!」
グングンと速度を挙げて遠ざかっていく彼らには、誰も追いつけない。
数秒後には、見上げるような巨体は空の彼方に消えて行った。
「あぁ、終わった...」
急な眠気がルイを襲う。
ルイは、警察に病院まで運んでもらおうと決意し、夢の世界に行くことにした。
瞼が落ちる僅かな隙間から見えたのは、赤い宝石を額に持つ猫のような生き物だった。
「これは酷いな...」
辺りには警察官が慌ただしく駆けまわり、ケガ人の確認や公園の修復作業を行っている。
ルイとドラゴン達の攻防の爪後は凄まじく、辺りの地面は抉れ、湖の面積が多少広がっていたりする。
そんな現場の片隅の林にて幻想種の一団が何かを取り囲んでいた。
それはバーゲンセールに賑わっているというよりは、病室に詰めかけた一団のように映る。
「連絡を受けて急いでみれば、当の本人は寝ていると...」
両腕は無くなり、血の絨毯に乗っ転がっているようにも見えるルイは、幻想種に取り囲まれていた。
妖精にオーク、腹の上には公園では先ず見ることがないカーバンクルまで居た。
だが、それ以上に驚いたのはルイにしがみ付き喧しいくらいに泣きわめいているマーメイドの女性マーレの存在だ。
マーレは女性警察官の存在に気が付くと、その足にしがみ付きまた泣き始める。
「ルイがぁぁぁぁ、助けてぇぇぇぇぇぇお願いしますからぁぁぁぁぁぁぁ」
マーレと同じく女性警官にルイを助けるようにその身体にまとわりつきお願いする幻想種達。
その誰もがルイの事を本気で心配している。
それはルイが必死になって公園を守っている姿を遠目で見ていたからに他ならない。
他人にくっつかれる経験が少ない彼女は、どうすることも出来ずに戸惑うが、取り敢えずは救護を呼ぶことから始めた。
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