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幻想探偵 ルイマーレ  作者: あねものまなぶ
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下村ルイの華麗なる日常

幻想種(げんそうしゅ)

彼らが訪れてから十数年が経過した、日本の首都東京。

その中心に位置する有名大学のそのまた近くにある歩道橋。

車が往来する大通りを見下ろしつつ、何かを探す様にあちこちを見回す男女の姿があった。

 

「ねぇルイ。ホントにここを通るの?」

「間違いねぇ。俺の相棒の調べは完ぺきだからなぁ」

平日の昼間という事もあり、下に見える歩道には大学生の往来が目立つ。

スマホを弄りながらリュックを背負うハーピィ、人間とエルフとマーメイドが談笑しながら歩くなど様々だ。


幻想種と人間は何とか日常生活を送れるくらいには溶け込んでいる。

今や珍しくもない幻想種。

何を隠そう、この全身白のスーツに身を包む男性下村ルイ...ではなく、その隣で字の如く獲物を探している女性もまた幻想種なのだ。


幻想種と言っても、姿かたちは人間と大差ない種族もいる。

ハーピィもそのうちの一つだ。


骨格は人間とほとんど変化なく、二本の腕に日本の足。

大きな違いと言えば、彼らの代名詞たる鉤爪と翼くらいだ。

鉤爪は基本的に人間と同じく五本の指からなる。

その鋭い爪はコンクリートも引き裂く。


そして、人間で言う所の前腕から上腕に沿って外へ飛び出す様に生えているのが翼だ。

前腕の腕の付け根から伸びるカーブを描く骨、そこから張られた飛膜を覆うように生えている羽を上下に運動させることで飛行を可能としている。


そんな彼らの中でも個体差があるようで、鉤爪の色や翼の色が個人個人で異なる。

人間でいう所の生まれながらの金髪、黒髪のような違いだ。


「どこだぁ。どこだぁ」

歩道橋の縁に飛び乗り、前のめりで歩道を行きかう人を睨む彼女は、黄色い鉤爪に燃える様な赤い羽を持っていた。


そして、ハーピィが好むビキニのような水着にジーンズ生地の短パンを履いてる。

夏の暑さに弱いのか、へそ出し肩だしの非常に露出度が高い。

そんな彼女は探すのに熱中しすぎているのか、どんどんと前傾姿勢になっていく。


「ったく。落ちても知らねぇぞ」

ルイは、下の道路に落っこちてしまいそうだと注意を促すが、

「大丈夫。落ちたら飛んで戻ってくればいいんだし」

「そりゃそうか」

ハーピィにとってこの高さなど屁でもない様だ。


「そろそろの筈なんだが...」

ルイは夏の暑さに顔をしかめながら、スマートフォンを取り出しある写真を眺める。

そこに映っているのは、大学のキャンパス内で友人と楽し気に話し歩いている男性の写真。


背もそこそこ高いが、黒髪短髪のどこにでもいそうな優しそうな青年であり、人ごみに紛れた場合は見つめることが困難そうな平凡な見た目。

写真の彼は、探偵下村ルイにとって捜索対象となっている。


「依頼人さん。そろそろ来そうだぜ?」

「マジで!?」

ルイの言葉で慌てふためきながら手鏡を取り出し身なりを整えている赤いハーピィの女性が今回の依頼人だ。


ある日、ルイの探偵事務所に彼女が飛び込んできたかと思うと、「一目ぼれした子を探して!」と依頼をしてきた。

彼女は手持ちも少なく、大した報酬を払うことが出来ないため、事務所の怖い財務管理する人は追い返せと視線をルイに送ったが其れを一蹴。

「美人の依頼は必ず受けるのを主義としている」とカッコつけて承諾し今に至るのだ。


ルイは時計の針を確認すると、捜索対象がこの通りに現れる時間に。

歩道橋の二人の視線が険しくなる。

すると、

「おぉっ!」

「え! 来たの!?」

ルイが何かを発見したのか、驚きの声を上げる。

それに反応してハーピィの女性も「どこどこ!」とルイの視線を追っていく。


「...夏と言うのは気分を解放的にすると言うが、服装もまた解放的になる。例えるなら"陸地のマーメイド"...だな」

ルイの視線の先に居たのは、ほんの少しだけ肌色を覗かせる大学生の女性の一団。

だらしなく緩んだスケベおやじ顔負けの表情を、キリっとしたイケメン風な表情に素早く変化させ、歩道橋を降りようとする。


暑さを感じなくなったのか、心なしかルイの背中に活力が漲っているようだ。

凛とした背中、カツカツと響く革靴の足音。

今の彼はファッションショーの舞台に立つモデルの様だ。


だが、

「いったぁぁ!」

そのモデルの肩に突然、痛みが走る。

「アンタがやるべきことは、あの人を探すことでしょぉっ!」

「ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんっ! 分かったからっ!」

ルイの肩にハーピィの鉤爪が食い込む。


勿論、本気でルイに怪我させたい訳ではないのでほんの少し痛い程度の力で掴んでいる。

「いたたた...あれ?」

先程までの痛みが急に無くなっていくことに違和感を覚えるルイ。

勿論、痛みが無くなるのは歓迎なのだろうが、肩に置かれた彼女の手が僅かに震えていることに気が付いたのだ。

ルイは後ろを振り向くと、先程までの気概はどこへやらと言った様子の意気消沈な彼女が居た。


まるで受験本番前の高校生のような不安げな表情。

ルイの心配する視線に気が付いたのか、ポツリポツリと彼女はか細い声で心境を打ち明けていく。

「...あのね、やっぱり私みたいなのが人間を好きになるっておかしいのかな? ...こんな羽もあるし、爪も危ないし」

いくら立派な翼を持とうが、羽を動かす意思がなければ意味はない。


彼女はその翼で男性の元へ飛び立つことが怖いのだ。

幻想種と人間が暮らす様になってからは、彼女の様に外見的なギャップや寿命の違い、暮らし方の違いなどに戸惑い恋愛したくても踏み出せないと言った悩みがある。


彼女が今ぶつかっているのはその壁だ。

先程までは何とか気丈に振る舞えていたが、いざその時が来てみると、どうにも不安が拭えない。

そんな彼女の両肩に力強く置かれたルイの手。

クワっと見開かれた血走った目に、彼女の驚く顔を浮かべながら、


「いいかっ! アンタの羽はずっと触っていたいくらいに手触りがいい! 鋭い爪だって強気なアンタにお似合いでカッコいい! なにより、スラリとした体に大きな山脈、その上にはこの太陽より何倍も綺麗な顔。 アンタが持っている物は全部だ! 全部が魅力的なんだ!」暫し、無言の時間が続く。

驚きから羞恥へ。羞恥から呆れへ。


「なにそれ? 褒めてるつもりなの?」

ルイの言葉に気恥ずかしいでも覚えたのか、翼で身体を隠す。

その声は幾ばくか明るさを取り戻しているようだ。


更に、ルイは渾身の決め顔を浮かべて、

「どうだ? 俺ならアンタを悩ませることはしないぜ?」

ルイは片膝をつき、彼女の左手をそっと両手で包み込む。

プロポーズでも行っているかのようなマジなトーンのルイの言葉。


だが、

「私はスケベな人って嫌いなの...ふふっ」

「振られたぁぁぁぁぁ!」

ルイの告白は彼女の笑顔で一蹴された。

白いハットと共に歩道橋の上に崩れ落ちるルイ。


涙と鼻水と汗が彼をみっともなく濡らしていく。

だが、切り替えの早いルイはパッと元の姿に戻り、

「そういや、そのままの姿でいいのか? あの機械使えば人間の姿になれんだろ?」

ルイが言う機会と言うのは、幻想種が人間社会に溶け込めるようにするために開発された物の事だ。

腕輪のような外見をしており、それを付けると幻想種の身体を人間の姿に変化させることが出来る。

ハーピィの彼女がその機会を使うと、両手に生える翼が消えるという変化が起こる。

勿論、機械を操作すれば元に戻ることも可能だ。


こと恋愛面では、外見が重要視されるため、ルイは彼女に人間と同じ姿を取らなくていいのかと最終確認をしたのだ。

だが、その言葉は彼女の羽ばたきで掻き消えた。


大きく羽ばたく彼女は歩道橋の縁に飛び乗り、クルリと優雅に回り始める。

風を切り、踊る赤い羽根のしなやかな動きと、楽しそうに笑みを浮かべる彼女の美しさがルイの問いへの答えなのだろう。


「どうせなら本当の私を見て欲しいの。それに私って魅力的なんでしょ? 探偵さん?」

ルイの視界には、この古臭い歩道橋が豪華絢爛なステージに見えた。

それは彼女の持つ美しさもさることながら、彼女の真っすぐな心がそう見せたのだろう。


「そんじゃ、下に居る野郎と幸せになれよ」

ルイは目深にハットをかぶり直し、歩道橋を去っていく。

「あ、報酬は...」

「初回サービスだ。次から金取るから覚悟しておけよ」

ルイは後ろ手に手を振って、ハーピィの彼女の視界から消えて行った。


「またね!!!」

明るい声と共に羽ばたく音がルイに耳に届いた。

雲一つない快晴。

ハーピィが空を飛ぶには絶好の日だろう。


「あぁ...あの子の山脈に飛び込みたかった...あぁ...」

逃がした魚は大きい。

逃がした山脈も大きい。

カッコつけたは良い物のやはり美女といい感じになりたいルイは、次こそはと気合を入れて帰ろうとした。

だが、聞き覚えのあるその声に違和感を持ってしまい足を止めてしまった。

それは、先ほどの依頼人であるハーピィの女性の声。


「ちょ、マジで好みなんだけどぉ! これいいよね、もう我慢しなくていいよねぇ」

熱に浮かされたように頬を染める彼女の口から出てくる、おやじ臭い言葉。

鉤爪をワナワナと動かしながら、詰め寄るその様は何処をどう見ても事案だろう。


「あ、あの...貴方は」

「ゴメンもう無理ぃ! 貴方の為にぃ愛の巣用意したからそこに行っか!」

事案だ。

「えぇ!? これから大学に――」

ハーピィの彼女は飛び上がったかと思うと、男性の両肩を足でがっしりと掴む。

そしてそのまま涎を垂らしながら、グングンと高度を上げていく。

事案だ。

だが、男性も受験戦争という戦いを乗り越えてきた兵士であり戦士である。

この窮地を脱するため、彼の思考回路は高速に回転を始め、ある策を導き出す。


「ゴ、ゴメン! 実は僕、彼女がいるんだ!」

そう、嘘である。

彼女が居れば「そうなんだぁ...残念」で終わると彼は想定したのである。

「...ホント?」

現に、彼の予想通り見上げた彼女の表情は残念そうにしていた。

だが、考えても見て欲しい。

涎を垂らし誘拐しようとしている彼女がその程度の事で止まるだろうか?


更に言うなれば、彼女の有無、交友関係など既にルイが報告している。

(俺...ヤバいことしちゃったかなぁ...)

男性の将来を安易に決めてしまったかなと少しだけ後悔するルイが居たとかいないとか。


そして、自分の将来を守るべく嘘を貫き通そうとした彼。

「ホントホント!! そうなんだよ、めっちゃくちゃ可愛い彼女がさぁ! だから本当に...イダァァァァ爪が肩にぃぃぃぃ!」

肩に食い込む爪は彼女の気持ち。


「私って嘘をつく人嫌いなの...でホントなの?」

彼は悟った。

下手なことを言おうものなら自分は死ぬと。

今の自分は見たまんま、鷹に捉えられたマウスなのだと。


「で? どっちなの?」

「嘘です」

マウスの選択は命大事に。

彼の答えに満足したのか数度頷き、さっきよりも大きく翼を羽ばたかせる。

力強い羽音は、彼女が上機嫌であることを表している。


「まぁ、今回だけは許してあげる。私っていいお嫁さんでしょ?」

彼の運命はここに決定した。


「積極的...なんだなぁ...ハーピィちゃん。お幸せにぃぃぃぃぃ!」

徐々に遠ざかっていく彼女達。

空の彼方に消えて行く彼らに、ルイの祝福の声は届いただろうか。

男子学生の受難は、探偵下村ルイの記録として語られることだろう。

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