寛大魔王様
なろうラジオ大賞2第八弾。今回のテーマは「大魔王」。タイトルで遊ぶのは趣味です。
しばらく一人称視点ばかり書いていたので、たまには三人称視点も書いてみました。
お楽しみ頂けたら幸いです。
「魔王様。ご報告がございます」
「聞こう」
「四天王『不動』のトロルが勇者に敗れました」
側近の報告に、玉座の魔王は微動だにしなかった。
「そうか。トロルはどうなった」
「その……」
側近の身が震える。
「報告は簡潔に申せ」
「……降伏しました」
「何?」
「あの者は! 誇りある魔族でありながら! 命惜しさに人間に屈したのです!」
側近の震えは恐怖ではなく激情。だが魔王は動じない。
「お前の気持ちも分かるが、命を賭けるだけが忠義ではない。力及ばず敗れたとしても、命があれば再起もあろう」
「……はっ」
その言葉に側近は冷静さを取り戻した。怒りは静かに燃えたまま。
「しかしこうなると『侵略』のデュラハンの罪を問い直さなければなりませんね。あの者が『今殺すのはつまらない』などと勇者を見逃したりしなければ……」
「良い。彼奴の強き者との闘いを楽しみたいと言う欲求が、我が軍を強くした面もあるのだからな」
「……魔王様がそう仰るのであれば」
しかし側近の怒りは収まらず、次の矛先を探す。
「そうなると『人間であった時の弟に似ていた』などとふざけた理由で、死の淵にあった勇者を助けた『静寂』の女吸血鬼は、四天王剥奪でも宜しかったのでは?」
「情は弱点にもなるが強さにもなり得る。事実生かして捕らえよと指示したら成功したではないか」
「確かに……」
魔王の言葉に一瞬落ち着くも、再び怒りの色を浮かべる側近。
「その折角捕らえた勇者の口車に乗って逃した『疾風』のケンタウロス! 魔王様、何故あやつを処刑なさらなかったのですか!?」
「種族の誇りである早駆けで挑まれたのだ。挑発に乗るのも無理はない。早々に転移魔法を使った勇者が一枚上手だったという事だ」
「っ! そういうところですよ魔王様!」
突然の叫びに魔王の腰が一瞬浮く。
「急にどうした側近よ」
「魔王様がそんなだから、勇者は倒せず、魔王軍は押されているんですよ! このままだと魔王様のお命が危ないというのに、何故そこまで部下に寛大になさるのですか!」
「……」
「はっ! も、申し訳ありません! 出過ぎた事を申しました!」
無言の魔王に震える側近。今度こそ恐怖で。
「……側近」
「お、お許しを……」
「許す。よく我が身を思い、忠言を捧げてくれた。感謝する」
「……そう言うところですよぉ魔王様ぁ!」
「何故泣く?」
後に魔王城に辿り着いた勇者は、激闘の果てに魔王に勝利した。だがかつて勇者を助けた四天王の懇願により命を許したという。
読了ありがとうございました。
悪の組織って、名前の言う割に結構寛大な上司が多い印象。「次はないぞ」って一回はチャンスを与えたり、敵を見逃す行為に処罰がなかったり。まぁ無慈悲にやっちゃう悪の組織だと、ヒーローもおちおちピンチにならないから仕方ないね。
ちなみに四天王の二つ名は風林火山からお借りしました。戦国時代大好き。
それではまた次回作でお会いしましょう。