せっかくだから七不思議探検しようぜ!
言い出しっぺのアツシ。
お調子者のシュンヤ。
怖がりのムグ。
小学六年生の彼らは思い出作りのために、クラスメイトの浩二を加え、七不思議の解明に挑む!
※本作は小学校高学年以上を対象とした内容を意識しております※
切っ掛けを作るのはいつだってリーダーのアツシである。
この日もそうだった。
「せっかくだから七不思議探検しようぜ!」
「七不思議ぃ?」
キョトンとするシュンヤとムグに向かい、アツシは鼻息荒く力説する。
「ほら、オレらももう六年じゃん? 卒業前の思い出作りに、いっちょ我が頭世西小学校の七不思議を解明してやろうぜ!」
その提案に難色を見せたのはのんびり屋のムグだった。
「えぇ~、やだよぉ。ボク怖いの苦手だし……それより、お小遣い出しあってご馳走食べに行くのはどうかな? きっと良い思い出になるよぉ?」
「ムグは飯食いてぇだけだろーが!」
お調子者のシュンヤが茶化せば、ムグは慌てて「怖いの苦手なのは本当だよぉ!」と両腕を擦る。
「ハイハイ。ムグの怖がりは幼稚園から治らねぇのなー」
シュンヤがムグの大きな腹をポヨンと叩くと、アツシは「そうだ!」と大声を上げた。
「なら尚更、七不思議探検はもって来いじゃねぇか! せっかくだしムグの怖がりを治すって意味でも、七不思議解明してやろうぜ!」
「大きなお世話だよぉ……」
肩を落とすムグだったが、勢いに乗ったアツシを止める事など誰にも出来ない。
「まぁまぁ」とシュンヤが取りなした事で、放課後になったら七不思議探検をする取り決めとなってしまった。
「うぅ……ウチの学校、怖い七不思議じゃないと良いなぁ」
「バッカおめぇ、怖くない七不思議なんて七不思議じゃねーよ!」
すっかりその気になったアツシは意気揚々と「実はどんな七不思議があんのか、とっくに調査済みよぉ!」と胸を張っている。
しかしそのタイミングで休み時間終了のチャイムが鳴ってしまい、二人は七不思議の詳細を聞けず放課後を迎えてしまうのだった。
放課後──
下駄箱の前に集合したアツシは不機嫌さを露に地団駄を踏んだ。
「なーんで浩二がいんだよ!」
「あ゛? 俺ぁムグに付いて来いって頼まれただけだべ」
「おいコラムグ! なんでこんな奴誘うんだよ!」
一匹狼の割りに何かと目立つ浩二は、目立ちたがりのアツシの天敵である。
目をつり上げて吠えるアツシに気圧され、ムグはヒャッと丸い体を縮こまらせた。
「だ、だって浩二君、冷静だし、空手やってるし、いつも御守り持ってるから、オバケも寄ってこないかなって……」
「だからってなぁ!」
渋るアツシをシュンヤがヘラヘラとなだめる。
「まぁまぁ、良いじゃんか。人数多い方が楽しーしさぁ、心強いって!」
「ちぇっ……しゃーねーなぁ。おい浩二、リーダーはオレだかんな! 足引っ張んなよ!」
フンッと歩き出すアツシの背に、浩二が「よっく吠えんべなぁ」と呟く。
ムグとシュンヤが慌てて咳払いをした事でその言葉がアツシに届く事は無かったが、先行き不安なメンバーである。
「こんなんで七不思議解明なんて出来んかねぇ」
シュンヤの小さなため息はドヤドヤと歩く五人の足音に紛れて消えた。
「……で、ウチの学校の七不思議は何があんのさ?」
「ボク達、まだ聞いてないよねぇ」
ようやく本題に入り、アツシは待ってましたとばかりにノートの切れ端を取り出す。
「よーく聞け、野郎共。これはこの頭世西小の卒業生であるオレの姉ちゃんの友達に聞いた確かな情報だ!」
「おぉ……っ!」
息を飲むシュンヤとムグだったが浩二だけは冷めた目を向けている。
そんな態度に苛つきながらも、アツシは紙を三人に向けた。
紙には以下のような事が書かれていた。
『頭世西小の七不思議』
一、給食室のお残しババア(放課後、好き嫌いの多い生徒が出くわすとぶん殴られるらしい)
二、段数が変わる階段(東側階段の二階から三階の間、数えるたびに数が合わないらしい)
三、勝手に鳴る音楽室のピアノ(誰も居ない放課後、死んだ生徒がピアノの練習をしているらしい)
四、音楽室のベートーベン(放課後、いつまでも残っていると怒鳴られるらしい)
五、トイレの花子さん(三年生の女子トイレ、三番目の個室に居る。三回ノックすると返事があるらしい)
六、理科室の骨格標本(実は本物の骨で出来ていて、触ってないのに動くらしい)
七、不思議なお友達(放課後に残って遊んでいると、いつの間にか友人の数が増えたり減ったりするらしい)
八、七つ全ての不思議を知ってしまうと恐ろしい事が起こるらしい
「『らしい』ばっかかよ。っつーか八つあんぞコレ」
浩二の突っ込みで初めて気付いたのか、ムグがブルリと身を震わせる。
「七不思議なのに八つもあるなんて怖いねぇ」
「ヤベェよアツシ! 全部知ったら~って、もうオレら全部知っちゃったじゃん!」
「あ! 本当だ!」
騒ぐ三人に付き合いきれなくなったのか、浩二が苛立たし気にムグのランドセルを叩く。
「で、どーすんだ。続けんか、帰ぇんか?」
「はぁ? まだ何もしてねぇのに帰る訳ねぇだろ!」
まずは一つ目だ! と一番近くにある給食室に向かって歩きだすアツシ。
どうやら本気で七不思議解明を目指しているようだ。
彼らは特に何を話すでもなく給食室に辿り着く。
周囲はおろか、中にも人の気配はない。
「ちぇっ、鍵かかってんな」
アツシがガタガタと扉の音を立てるとムグが悲鳴を上げた。
「お、お、大きな音出したらお残しババアに見つかっちゃうよ!」
「ヘーキヘーキ。オレら好き嫌いねぇし、ムグは給食おかわりしまくってんじゃん。むしろお残しババアに褒められるかもよ」
シュンヤのいい加減な言葉でも効果はあったらしい。
やや落ち着きを取り戻したムグは両手を擦り合わせながら「おばちゃんいつも美味しい給食ありがとう……あと出来ればもっとカレー増やして下さい」などと拝んでいる。
これ以上ここに居ても意味はなさそうだ。
アツシの声かけで三人はゾロゾロと給食室から離れた。
「さーて、次はここな!」
アツシが選んだのは本校舎東側の階段だった。
全員横一列に並び、二階から三階へ続く階段を見上げる。
「流石に四人並ぶと狭ぇな」
「ムグ太りすぎー!」
「放っといてよぉ」
「……とっとと数えんべ」
四人は「いーち、にーい、」と同時に数えながら階段を上っていく。
「「「「じゅーにー、じゅーさん」」」」
「じゅーよん……えっ!?」
同時に踊り場に上りきった四人は目を丸くして顔を見合わせた。
十四段目を数えたムグが真っ青になって顔を覆う。
「ウソウソ、なんで!? なんでボクだけ十四段もあるの!?」
「お、落ち着けムグ! 途中で数え間違えたんじゃねぇの?」
「そ、そんな筈ないよ! ちゃんと皆と一緒に数えてたの、アツシも知ってるでしょ!?」
「ボク、呪われちゃうよぉ」と半ベソのムグに、何事か思案していた浩二が口を開いた。
「おめ、左足数えたんでねぇか?」
「え? どういう事?」
「だっからよ、右足で十三数えた後、左足でもっかい十三段踏んで十四の勘定に入れたんでねぇの」
どういう事か理解するのに時間を要した三人だったが、種が分かった途端に一斉に脱力した。
ただの数え間違いなど、間抜けな話である。
「んーだよ、しっかりしろよなぁ、ムグ」
「ごめーん……」
「まぁまぁ、怪談の真相なんて案外こんなもんかもよ?」
緊張感はすっかり解け、次に四人は階段を上った先にある音楽室へと向かう。
音楽室は施錠されておらず普通に入る事が出来た。
まだ日が高いせいか、怖さは全く感じられない。
窓から差し込む光が硝子の戸棚のハンドベルに反射して眩しい位だ。
静かな室内。
外から微かに聞こえる生徒の声──
その非日常感は、まるで不思議な空間に迷いこんだような錯覚を起こさせた。
シュンヤが音楽家達の肖像画を見上げて肩を竦める。
「なーんか変なカンジだな。ベートーベンの絵も今更怖かねぇよ」
「音楽室って、外の音が凄く遠くに聞こえる気がするよねぇ」
「っつーかよ、何で七不思議の内二つが音楽室なんだよ。被ってっから八つになっちまったんでねぇの」
「おいお前ら! 目的忘れんなって!」
呑気な三人に発破をかけ、アツシはズカズカとピアノに近付く。
大きな黒いピアノの鍵盤蓋はピッタリと閉じている。
アツシは「こーしたら霊も弾きやすくなっかな?」と迷いなく蓋を開けた。
「や、止めてよアツシ! 本当にオバケが出たらどうするの?」
「ハハッ、そしたらこのシュンヤ様とどっちがピアノ上手ぇか弾き競べてやんよ」
少し前までピアノを習っていたシュンヤがピアノを弾くジェスチャーをすれば、ひと度笑いが起こった。
ウケた事で気を良くしたのか、彼は本当にピアノの前に立ち、エリーゼのためにを弾き始める。
その時だった。
「わぁ! ピアノが鳴ってる!」
「きっとオバケだ!」
窓の外から騒ぐ声が聞こえだす。
声の感じからして校庭で遊んでいた下級生だろう。
シュンヤは「ヤベッ」と舌を出すと慌てて鍵盤の蓋を閉じた。
「何やってんだよシュンヤ~!」
「いやぁ、まさかオレが七不思議になっちまうとはなぁ」
「笑い事じゃないよぉ。誰か来ちゃったらどうすんのさー」
シュンヤは全く悪びれる様子もない。
生徒の霊がピアノを弾くという噂も、そそっかしい誰かの早とちりだったのかもしれない。
さっさと次に行こうか──
四人の意識がピアノから出口に移ると、突如として男性の怒鳴り声が投げかけられた。
「誰だぁ!? 勝手にピアノ弾いてるのは!」
「ご、ごめんなさーい!」
驚いた四人は弾けるように音楽室を飛び出した。
ドタバタと廊下を駆け抜け、音楽室からある程度離れた場所で四人は立ち止まる。
「あー、ビビった!」
軽く息を弾ませたアツシがランドセルのベルトを握りしめる。
流石に動揺しているのかシュンヤも引きつった笑顔を浮かべるだけだ。
ムグに至っては肩で息を切らせている。
「さ、さっきの、まさか、ベ、ベー、ベートン、ベートンベッ……!」
「落ち着け、ムグ。あらぁ二組の戸塚先生ん声だ。どーせ窓ん外っから怒鳴られただけだろ」
浩二が呆れ混じりにランドセルを背負い直す。
言われてみれば聞き覚えのある声であった。
「なぁなぁアツシ。もしかして音楽室の怪談が二つなのって、勝手にピアノ弾いて怒られるまでがワンセットなんじゃ……」
「それ以上言うなって」
アツシは咳払いをして気を取り直しつつ、「次行こうぜ」と先頭を切る。
やはり幽霊などいないのだという、どこか残念な空気が漂い始めていた。
「ほら、今度は大本命! 七不思議の定番、花子さんだ!」
女子トイレの前で腕を組みふんぞり返るアツシだったが、他のメンバーのテンションは今一つ上がらない。
「花子さんは良いけどさぁ、どうやって女子トイレに入んだよ?」
「あっ……」
何の策も考えていなかったらしい。
アツシの表情が固まる。
「だよねぇ~。女子トイレに入ったらスケベだもん」
無理無理、と拒絶する幼馴染み二人をさておき、アツシはダメ元で浩二のランドセルを叩いた。
「よし、浩二。行け!」
「何もよかねぇよ。行く訳ゃねーべ」
「……だよなぁ」
「ハッ。女子便は諦めろってこったな」
ガックリと項垂れるが、アツシの頭には何も良い方法が思い付かない。
結局四人はトイレの花子さんの解明を諦め、次の七不思議を調べる事となった。
「理科室ってちょっと遠いよなー」
「だな。面倒くせぇよなぁ」
「ボク、理科室苦手だよぅ。あそこ、昼間でもなんか出そうなんだもの」
別館の一階にある理科室はいつも日陰になっていて薄暗い。
改築された本校舎とは違い、年季の感じられる別館はただでさえ不気味な存在感を放っている。
渡り廊下を抜けて到着した理科室は幸運にも鍵が開いていた。
「お、ラッキー!」
「誰かに見られる前に早く入ろーぜ」
「も~、また怒られるのはイヤだよぉ?」
「……」
四人は素早く理科室に入り、木製の引き戸を閉める。
建付けの悪いガラガラという音がやけに響いて聞こえた。
「さーって、動く骨格標本とご対面だな!」
「骨格標本とか人体模型って……確か準備室の奥にあったよな?」
普段使わない備品でも場所位は把握している。
シュンヤが理科準備室のドアノブを回すと、カチャリと扉が開いた。
「うわっ、開いたぜアツシ! こりゃマジでツイてんな」
「よっしゃ、早く入ろーぜ! 動くか? 踊るか!?」
ワクワクした様子の二人に対し、ムグは怯えながら浩二の後ろに張り付いている。
「ボク、動かなくても怖いんだけど……だって、本物の骨かもしれないんでしょ?」
「あ゛? 本物だったら警察沙汰だろーが。つーかあんま引っ付くんじゃねぇよウゼぇ」
あまりにもムグが引っ張るせいで、四人は団子のように固まって入室するはめになってしまった。
日が落ちてきたのもあり準備室内はかなり薄暗く、棚や机の上もゴチャゴチャしていて見え辛い。
目が慣れない中、壁に寄りかかった白い骨格標本だけがボウッと浮かんで見え、誰ともなく息を飲む。
「なん、つーか、雰囲気あんな」
「はは……だな。こーして見っと、迫力あんなぁ」
骨格標本との距離は僅か二メートル強といった所か。
アツシとシュンヤが努めて明るく振る舞うものの、これ以上近付く気にはなれないようだ。
カシャン!
「「うぉっ!?」」
「ひぃっ!?」
何の前触れもなく、骨格標本の右腕が床に落下した。
肘から先の白い右腕が黒い木の床の上で妖しく浮かび上がって見える。
「あぁぁぁ! 動いた! 動いたぁっ!?」
「お、落ち着けムグ! 立てって!」
腰を抜かすムグをアツシとシュンヤが慌てて引っ張る。
しかし重くて中々持ち上がらない。
パニックになる三人を余所に、浩二が骨格標本に近付いた。
彼は落ちた右腕を拾い上げて骨格標本に取り付けようとするが、寸での所で動きを止める。
「……これ、壊れてんな」
「は?」
「ヒジんとこの金具。壊れてくっつかねぇ。たぶん、壁に上手いこと立てっ掛けてたんだろ。それがタイミングよく倒れて落ちただけだべ」
ほれ、と骨の右腕を突き出され、アツシは怖々覗き込む。
確かに金具の一部が欠けているように見える。
何て事ないオチにアツシとシュンヤもその場にしゃがみ込んだ。
安心したからか、笑いが込み上げてくる。
「ッハハハ! くっだんねぇ~!」
「へへ、だなー! オレ、マジでビビっちまったもん」
「あぅ……ボクなんてチビる所だったよぉ……」
「お前らビビりすぎだろ」
理科室を出ても尚、笑いは止まらない。
散々四人で笑い転げ終えた頃には、空はすっかり夕方のオレンジ色に染まっていた。
「あー、ウケたウケた。結局七不思議なんて大した事無かったな!」
「だなー。七番目の不思議も八番目の不思議も、なーんにも無かったしなぁ」
「でもボク、怖かったけど、ちょっとだけ楽しかったよ」
四人は賑々しく靴を履き替え、昇降口を出る。
さて帰ろうと校庭に出た所で、アツシは「そうだ!」とランドセルから自由帳を取り出した。
「オレ達が七不思議探検した記念、残そうぜ!」
「残すって、どうやってさ?」
「タイムカプセルとか? ボク、あれ一度やってみたかったんだぁ」
アツシは友人達の反応を待たず、ノートを一枚破り取ると、大きく「頭世西小、七不思議たんけん!」と書きだした。
それにならい、三人も次々とペンを持って好き勝手に書き込んでいく。
紙一杯に文字を敷き詰めた所で、シュンヤが不安を口にした。
「こんな紙一枚だけじゃ、地面に埋めても無くなっちまうだろ。何かに入れねぇとさぁ」
「……俺、クリアファイルなら持ってんぞ」
「あ、ボク、ビニール袋持ってる! しかも二枚!」
浩二とムグがクリアファイルとビニール袋をランドセルから取り出す。
アツシは「でかした二人とも!」と上機嫌で四つ折りにした紙を袋に入れ、ファイルに挟み、更に袋に入れた。
「もしゴミと間違われちゃったらどうしようねぇ?」
「……タイムカプセル、とでも書いときゃ掘り出されても捨てらんねぇだろ」
「なるほど! やるじゃねーか浩二!」
アツシが油性ペンで「タイムカプセル」と袋の両面に書き込む。
そして四人は校舎裏の畑の更に奥の茂みに袋を埋めたのだった。
「っつーかさぁ、いつ掘るよ? 十年後? 二十年後?」
アツシの深く考えない発言にシュンヤが異議を唱える。
「えー、大人まではちょっと待てねぇなぁ」
「うーん……じゃあ来年とかぁ?」
「それじゃ近すぎんべ」
あーでもない、こーでもない。
東の空が暗くなりかけている中、四人は約束を交わす。
──んじゃ、五年後にでも掘り起こそうぜ! それがオレらの友情の証な!
────────────────
ピコン、と着信音が鳴る。
アツシがスマホを開くと懐かしい人物からのメッセージが届いていた。
──よぉ、久しぶり。覚えてっか? アレ、掘り出そうぜ!
シュンヤだ。
ウケを狙った面白スタンプに彼らしさを感じ、懐かしさが募りだす。
(あれからもう五年か……)
アツシは中学の卒業以来会っていなかった友人達を思い浮かべる。
同じ地元に住んでいるのに、高校が違うだけでこうも会わなくなるとは思わなかった。
(つーかあんな急ごしらえのタイムカプセル、マジで残ってんかな)
残っていて欲しいと思う一方で、期待はし過ぎない。
いやに冷静になってしまったと独りごちつつ、アツシは約束の日取りを決めるべく返事を送った。
約束の日曜日。
アツシは懐かしの母校にこっそり侵入した。
立派な不法侵入だが、地元は比較的のどかな地域な為、もし誰かに見付かっても軽い注意だけで済むだろう。
記憶よりもだいぶ小さく見える水道や遊具を横目に校舎裏の畑に向かう。
既に到着していたシュンヤとムグが茂みを覗き込んでいる後ろ姿が見えた。
「おっす、久しぶり」
「アツシ! 久しぶりだなぁ!」
「わぁ、変わんないねぇ~」
より丸々としたムグが腹を抱えて笑う。
お前は少しは変われよと突っ込んでいると、背後から近付く足音がした。
「よっ、遅ぇよ」
「っせーよ。部活サボって来てやっただけ有り難く思え」
浩二が不機嫌そうに頭を掻きながら現れる。
これで全員揃った。
四人は地面のそれっぽい所を掘り起こす。
目的のそれは思ったよりも浅い所で見付かった。
「うっわ、マジで出た!」
「ははっ、昔はスゲー深く掘ったつもりだったのにな。浅ぇ!」
「よく残ってたねぇ~。嬉しいよ」
泥だらけのビニール袋はボロボロだが、中身は無事のようだ。
全員、自分が何を書いたかなど覚えていない。
「早く早く」とシュンヤとムグに急かされ、アツシもはやる気持ちを押さえながらファイルから袋を取り出した。
どうか恥ずかしい事が書かれていませんように──
袋から紙を取り出し、広げる。
紙を覗き込んだ四人は文字を目で追い、絶句した。
『頭世西小、七不思議たんけん!』
アツシ、シュンヤ、ムグ、 、浩二
──オレたち五人の友情は、ずっと永遠にかわらない! アツシ
──七不思議かい決! オレ達五人にかかればこわい物なし!! シュンヤ
──もうコワイのはイヤだよー。でもまたこの五人で遊ぼうね! やくそくだよ!! ムグ
──けっこう楽しかった。また付き合ってやるよ。 浩二
20XX年、9月10日
あまりにも不自然な空白が強い存在感を放っている。
『五人』などと書いた記憶は勿論無い。
一体いつからいつまで、記憶にない五人目が増えていたのだろうか。
それとも──
「なぁ……これ、どっちだべ」
浩二の問いに答える者は誰もいない。
もし初めから居たのが五人でいつの間にか一人消えていたのだとしたら、消えた友人は誰で、どこに行ってしまったのだろうか──
ザァとぬるい風が吹き、ビニール袋が飛んでいった。
ちなみにこの七不思議探検の後、四人のクラスだけ給食のカレーの量が増えていたそうです。
本編に組み込めなかったのが残念です。
あと浩二(高校生)は同作者の別作品の登場人物です。
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