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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
魔王大征伐
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魔術院の派閥は三つに別れているとされているが、現実的にはルプス派とカニス派の二つに別れていると言ったほうが正しい。何故ならファミリアリス派は派閥争いをしないからだ。


ファミリアリス派は院長を筆頭とした魔術院の目的達成を第一とする派閥であり、そのための活動目標としてレンレセルの発展と魔術の探求を掲げている。


厳密には異なるが、前者を重要視するのがルプス派であり、後者はカニス派というのが大雑把な関係であった。


ルプス派はレンレセルの発展のために国民の安全と暮らしを守ろうとしているが、それを脅かす敵対組織である組合を危険視しておりこれを叩くべきという風潮がある。


一方のカニス派は魔術の発展こそ全てという思想であり、組合や教会といった別組織にさしたる思惑はない。利用出来るなら利用するべきといったところである。


この両者の力関係は時勢によってどちらにも傾き往々にして均衡を保っていたが、最近はカニス派にその天秤は傾いていた。


魔王の在任期間が伸びに伸び、いまやその放出する霊素量で人々の生活圏は往時の半分以下となっている。喫緊の課題とすべきは魔王であり組合を目の敵にしている場合ではない。


その一方でカニス派、魔術省は成果を上げ続けていた。彼らの活動は魔術の発展、ひいては大衆の生活レベルに直結する。技術の下野は段階を踏んだものになるが、いずれにせよその発言力は日増しに増大していった。


時折すれ違う赤いロングコートの連中が肩で風切るように歩いているのはそういうわけで、苦々しいものを覚えずにはいられない人々がいるのもそういうわけだった。


防衛省庁舎の一室に重い空気が流れていた。その部屋にいたのは戦団長トトミーとカウツ、それにカウツの肩に引っかかるようにしがみつく銀色ウサギのアレクトだった。


「大森林の掃討任務、御苦労だった」


「……はっ」


両手の指を組みつつも親指が忙しなく動いている。トトミーの情緒は大変にかき乱されておりともすれば不眠や胃痛などにも悩まされているかもしれないとカウツは同情した。


それとは対象的に喉の奥で笑うように銀色の体毛をしたウサギが体を揺すった。


「実に憔悴しきっているじゃないか、トトミー。ああ、お前が心配だなあ。また予算会議でいじめられたのかな?」


不躾なウサギをジロリとくまの目立つ両目が睨む。おどけた仕草でアレクトがカウツの頭の影に隠れるとトトミーは肺の淀んだ空気を吐き出した。


「魔術省の補正予算案が可決された。現在研究開発中の魔術とその関連技術が軌道に乗り、また有用性が広く認められたからだ」


悪いことではない。少なくとも技術の発展と生活レベルの向上につながるのだから喜んでいいことだが、トトミーはそれを重々しく受け止めているようだった。


「結果として、現在教会と共同研究を行っている案件にも目処がついた。戦団に割く予算を魔術省の研究に回すべきだとシム室長は言い放ったとも」


奥歯を噛みしめる気配がした。忸怩たる思いがあるのだろう。


気分が良くないのはカウツも同じではある。魔術省には思うところがあるし、彼らの跳梁を許して調子に乗らせているのは面白くない。


カウツはルプス派というわけではないが、カニス派は嫌っていた。座学で極めて優秀な成績を残したカウツが研究職に進まなかったのは自身の目的もあったが彼らに迎合するつもりがなかったからだ。


なればこそ、カウツは準備を進めてきていた。レンレセル付近での任務を志願し極力時間を取れるようにしてきた。そうして出来上がった成果をトトミーの前に差し出した。


それは非常に分厚いレポートの束だった。


「……これは?」


「教会との合同研究に目処がついたと彼らは言っていますが、おそらく今のままでは片手落ちでしょうね。何かしらの代替案を持ち出すつもりでしょうがそれは魔術院の利益には適っても教会としては不満があるところでしょう」


どうぞ、と読むように促すとトトミーは訝しげにそれを手にとって読み始めた。


最初は理解できていないようだったが、すぐにその顔色が変わる。


「……これは!?サーティマ予想をまさか、証明したのか!?」


慌てふためくトトミーにカウツは静かに頷いた。


「その副産物になりますが、おそらくそれで教会側の技術的問題はクリアされるでしょう」


「何て事だ……これは今すぐ統括局に連絡を入れなければ……いや、その前に学会に」


トトミーの動揺も仕方のないことだった。レンレセルの国民は全て魔術師であり、戦団と魔術省の魔術師はその中でも魔術を自らの生業として扱う者である。故に、そのレポートが魔術の歴史に関わるレベルの代物だと理解できてしまった。


慌てふためいていたトトミーだったが、はた、と落ち着きを取り戻し顔を上げた。


「これはまだ発表していないのか?何故私のところへ最初に持ってきた?」


その問いに対する答えは脳内に用意していた。引き出しにしまい込んでいたそれを引っ張り出すように一度目を閉じてから息を整える。


「教会との取引に使いたいのです。そのために戦団預かりの案件として院長に進言していただいて、これに認可が下りれば私が使者として先方に赴きたいと思います」

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