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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
魔王大征伐
89/189

89・十年前

森の中で獣が逃げ惑う。荒い呼吸で木々の間を抜けていく。地を蹴る足が土を跳ね大きな足跡を残していく。


獣は巨大な体躯をしていた。しなやかな筋肉と美しい毛並みは捕食者としての威圧感を見る者に刻みつけるものだった。


しかし、今はそれも見る影もない。狩る側であるはずのその生物は生き延びるためにその全能力を費やしていた。


止まるな、走れ、逃げろ。生存本能の命じるままに体は突き動かされ他の全てが打ち捨てられたかのように一心不乱の疾走を見せていた。


その速さは自動車や列車を遥かにしのぎ、風のように音のようにまたたく間に全てを置き去りにするかに思えた。


しかし、その森の中で最も速いものは獣ではなかった。金色に光る何かが明白な意思を以て獣を追う。鋭利に光る穂先が命を奪うための形状を最大限に活かし速度を上げていく。


加速する凶器は一本の槍の形をしていた。空気抵抗などまるでないかのように速度を上げてみるみるうちに獣との距離を縮め、尻尾に触れようかという距離まで至ると柄尻から爆発が起きて正に爆発的な再加速を見せ、やすやすと獣の首を貫いた。


獣は悲鳴を上げる間もない。首が完全に千切れると走っていた体はコントロールを失い器用にくぐり抜けていた木々の隙間を抜くことが出来ず激突した。


その横たわる肉体に空から降ってきた槍が深々と突き刺さる。獣の周囲を青い光が包むと槍は白い光を放ちながら膨らむように爆発し獣の肉体はこの世から消滅した。


……爆発は青い光に防がれ森に延焼は起こらず焚き火でも起こしていたような焼け跡が残るばかりだった。


青いロングコートを着た男が草むらから茂みをかきわけて現れ、それを確認するように近づくと呻き声を上げてえずくように口元に手をやった。


肉の焼け焦げた匂いがする。蒸発した血がむせ返るような熱気と湿気を生んでいた。熱量が視界を歪め目が痛む。


とにかく仕事をはたさなければならない。ボードを取り出し記録をつける。その最中にも遠くで先程と同じような爆発音がした。何発もの花火が打ち上げられたような音と共にその数の分だけ霊素獣が死んでいっている。


ここは真昼の不滅の大森林。レンレセルを囲い守る生きた城塞。その体に付着したノミをはらうように魔術師達は定期的に霊素獣の討伐を行っていた。


国土交通省主導による環境整備の一環であり、それに戦団の魔術師が協力しているという形である。


不滅の大森林は霊素濃度こそ人が住むには適さない程度には濃いが、ある性質上霊素獣が育ちにくい環境になっている。故にさほど多くない第三段階霊素獣を駆除するという仕事になるため任官一年から二年程度の戦団員が任される仕事になるが、例によって五年以上のベテランがサポートとして就く事も専らである。


つまり二人から三人での仕事になるわけだが、今回派遣されたのはたった一人の戦団員。それもまだ二十歳にもなっていない少年だった。


しかし、だからこそと言うべきか、少年は魔術院において名前の知られた存在であった。


学部最短卒業、最年少戦団入り、最年少第四種交戦資格保持者。天才の名をほしいままにする稀代の異才。


「確認できましたか」


足音一つ立てず、そこに一人の少年が立っていた。首まで覆う詰襟タイプの黒いロングコートが包む体はまるで枯れ枝のように細い。鉛筆一つ持つのも億劫そうな手には金色の槍が握られていた。


「全く横着なヤツだな!ビュンビュン槍飛ばしてお終いにするなんて、駆けずり回ってる彼らを見習ったらどうだい?」


その弱々しい体には大変な負担になりそうな銀色の体毛をしたウサギが少年の肩口で、少年の青い髪(・・・)を引っ張っていた。


少年はそれを鬱陶しそうに手で払い除けようとするがウサギは左から右へと器用に肩を渡り歩く。


青い髪(・・・)のカウツと彼は呼ばれていた。

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