表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
魔王大征伐
83/189

83

キーアとスオが旅立って一ヶ月が過ぎようとしていた。レンレセルは魔王大征伐のために慌ただしく各方面の調整が進んでおり、政府や民間といった垣根を問わずバタバタと忙しない空気が漂っている。


戦団から学部へ異動となったカウツもこの流れに巻き込まれ様々な思惑に翻弄されていた。


カウツにあてがわれた教授用の研究室に常にはない大声が響いていた。


「どうして何度言ってもわっかんないかな、このオタンチン!」


赤いロングコートを着て、分厚い眼鏡とクシャクシャに跳ね回った火山のような髪型が見る者にある種の偏見と、しかし正しい答えを示してくれる。そんな分かりやすく研究者でございと言わんばかりの格好をした男にカウツは詰め寄られ困り果てたように冷や汗を垂らしていた。


「オタンチンて」


「何がそんなに不満なんだよ。例の論文後半部分開示してくれって言ってるだけじゃん!」


「……あのな。管理局が秘匿指定したんだから見ても見せても犯罪になるんだって事は分かって言ってるな?」


「だから法を破る。バレないように。こっそりと」


「やめろミャスカ。俺を巻き込むな」


「何なら口頭説明でもいい!」


「研究そのものが犯罪になるんだって言ってんだろバカ」


「バカとは失礼な。この機械工学科の天才ミャスカ様に向かってそんなこと言えるのはお前と室長とヴァッシュとコウズッケと……」


指折り数える名前が止まらない。知り合い全員を羅列しそうな勢いにカウツがわざとらしく息を吐いた。


「それだけバカバカ言われてるなら自重しろ、バカ」


「はあー。やだやだ。教師になってお前は変わったよ。昔はもっとギラギラしてて飢えた狼みたいな執念深さがあったってのに」


嘆くような言葉にカウツの顔から感情が仮面を落とすように消えた。それを追うように視線を下に落とすと痩せ細った体躯が目に写った。


「……年相応に落ち着いたんだから非難されるような覚えはないぞ。お前も少しは落ち着け」


「魔王の大征伐をやろうってこの時代に若くして生まれ落ちて野心を持たないとか研究者として死にすぎだろ。戦前戦後通して予算がじゃんじゃか出血大サービスだ!こんな攻め時を見失えるか」


「仮に俺が中身教えたとしても予算おりないだろ」


「そこはあれだ。うまいこと誤魔化すわ。システムにおける機能統合による簡略化を云々みたいに」


「……分かったよ。それなら一つ助言をやる」


「おお!マジで?」


「今は待て」


「はあ?何だそりゃ。今じゃなきゃ駄目だって話をしてるのに何だって今は待てなんだよ」


「おそらく大征伐の後、いくつかの案件について情報開示が行われる。お前の欲しがってる情報も多分含まれるよ」


ミャスカの肩から力が抜けた。脱力しきって不貞腐れたように口を尖らせる。


「……うわー。萎えた。めっちゃ萎えた。もうやべー。スゲーモチベーション下がった。やる気失せるわー」


「何でだよ」


「それ要するにとっくに研究が済んでて実用段階に来てる上に大征伐でお披露目までするって事だろ?うっわ。最悪だわ」


「……別にお前の領分全部かっさらう話じゃないぞ」


「バーカ。俺はパイオニアになりたいの。後追いなんて吐き気がするわ」


「下らない。結果さえ出れば先だの後だのどうでもいいじゃないか」


「本当にお前は雑だな。研究者としての喜びってモンを理解してない。グチャグチャ踏み荒らされた後よりも、まっさらな新雪の雪原を踏破したいのが人情だろうが。誰かが通り過ぎた道なんてつまんねーだろ」


「歩きやすいに越したことはないから俺は整備されたところを歩きたい」


身もふたもない事を言う天才に研究者は半眼で睨みつける。


「……なんでこんな奴に才能があるのかねえ。世の中理不尽だろ」


「何にしても、それならもう研究はしないんだな」


どこか嬉しそうに言うカウツにミャスカは人差し指を突きつけた。


「アホ。始めた事を途中で降りられるか。終わらせるに決まってるだろ。そもそも自分の研究に愛着を持たない研究者はいないからな。それしかやりたくないのが俺達だ」


「……お前はカニス派か?」


「ああ?カニスもルプスもファミリアリスも興味ねえよ。でもまあ、思想的にはカニス派って言われてもしゃーねーけど。俺が思うに研究大好き研究者ってのと研究第一主義者ってのはちょっと毛色が違うんだよ」


「ほう、どういう具合に?」


「俺みたいな研究者は自分の研究が大事だからカニス派の言ってることは都合がいいが、連中の運動に参加しようって気はないワケ。放っといても意識高い連中が魔術師斯く在るべしって騒ぎ立てて予算引っ張ってこようとするから、その旨味だけ吸えればいい」


「性質の悪い立ち位置だな」


「連中も本望だろうよ。少なくとも魔術の発展に俺は貢献してる。で、何が言いたいかっていうとだな、俗にカニス派って呼ばれてそういう活動してる連中は政治家なんだよ。研究者の味方をしてる政治家に過ぎねえのさ。都合がいいから研究者はカニス派に票を投じもするけども、自分の研究が忙しいからそんな政治活動に身をやつす暇は無いんだわ」


「仮に、カニス派が追い詰められるような事になっても気にはしないと?」


「魔術研究とかクソだから予算メッチャ減額しますねとか言われない限りは気にしないと思う。まあ、プリプリ文句とか愚痴とか言うとは思うけど」


成程、と口の中で反芻し、納得する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ