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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
魔王大征伐
81/189

81・転

登場人物


キーア

十年前の大陸大横断鉄道に何者かによって魔術をかけられた上で荷物として積み込まれ魔術師の国レンレセルへ送られた少女。当時の記憶は曖昧である。魔力を精製することが出来ず休学していたが師匠であるカウツの計らいで故郷への旅を許される。


スオ

十年前、カウツに連れられレンレセルに来た少年。戦団に入るため訓練していたがキーアを守るため共にレンレセルを旅立つ。精霊という体質をしており莫大な魔力を精製することが出来る。キーアに対して依存しており自身の命よりもキーアを優先する。が、エオメルに諭され自身の命を軽視しないように改めるようになった。


アレクト

カウツの作った銀色の体毛をしたウサギ型の人造生命体。妙に博識でありキーアとスオの教育も担った。キーアが旅立つにあたって同行する。皮肉っぽい性格をしており意地悪な面もあるが保護者として二人を第一に考えている。なんか色々怪しい。


カウツ

キーアとスオの師匠兼保護者。戦団の魔術師であったが現在は学部の教職についている。天才として名高く教科書にも載る程。一方で病弱かつ貧弱であり魔術の補助がなければ日常生活にも支障をきたす。黄金の青などと呼ばれている。


エオメル

天上方舟教会の保有戦力である聖鈴騎士の一人。漫画好きであり、その影響から自らが正しいと信じるものに殉ずる正義の味方を志す。十年前にセンティーア襲撃の犯人であるケレブリアンと面識があった。

魔術とは意味ある形に適切な魔力を注ぐ事で事象を起こすシステムである。


これは魔術師なら誰もが知っている。誰もが最初に叩き込まれる常識である。


魔術の学問はこのシステムを細分化し研究を進めることで体系化していった。


魔術図形学、魔術色学、魔術言語学、魔術建築学……決まった形式を持たず在るべき形に意味の有無を見出す魔術という仕組みはとかく研究分野が広大になりやすく今日をもって未だ拡大していく一方であった。


その広漠な世界の入り口にレンレセルに生まれた少年少女は立たされている。この道を行くもよし、踏み入らず立ち去るもよし。ただ、ある程度の知識は身に付けることは嫌でも強要される。何故なら彼ら彼女らは魔術師だからであり、もっと言えば必修科目だからである。


「……つまり、魔術図形学における基本線とはそれ単体で意味ある形を成す最小単位であり……」


初老の教師が催眠術師のような口調で睡眠誘導を目的としたような事を喋っている。


魔術院へ就学して日の浅い少年少女達はそれぞれ教師の言う事を何とか噛み砕いて理解しようと努めていた。努めていたが、理解力の限界か、興味の有無が問題か。とにかくあくびを噛み殺すものもいれば、船を漕ぐ者もいる。


そして、教師はそれを把握していた。


「ふむ。言葉で言っても分からないか。それなら少々実演を交えてみるか?」


おもむろに教師が杖を取り出し一線を引く。突然の魔術行使に生徒達がひきつけを起こしたように体を強張らせた。


しかし、魔術は発動せず引かれた線が赤い光を薄く放ちそこにあるばかりだった。


「心配せずともここでは魔術は発動出来ない。見てみなさい。これは魔力弾の発射をするための魔術だが、図形学的には『発射』の意味がある基本線だ。これに例えばこのように線を付け足すと」


線に新たな線が付け足される。今度は青い光を放つ線だった。


「こちらの線には『拡散』の意味がある。これで魔力弾を放つとシャワーのように魔力弾が発射されるので君等をまとめて穴だらけに出来るわけだ」


冗談めかして教師は言うが、誰も笑わなかった。


「ある程度習熟していれば、この魔術では魔力障壁を抜けない事は見て取れるんだがな。まあ、いい。君らもちょっと魔力弾の線を引いてみなさい」


言われて各々杖を取り出し、線を引く。魔術は制限されているため発動せず線だけが残った。


それを見て教師はふむ、と鼻をならす。


「ええと、そうだな。君と君と君。立って。それから……」


次々と生徒たちを立たせていく。その意図が分からず、生徒達は困惑したような顔をしていた。やがて十人の生徒が立たされた。何かの罰でも言い渡されるのかと戦々恐々としていると、教師は深く頷いてから言った。


「この十人がこの中で魔術の構築が早かった十人だ」


おお、と立たされた十人の顔が明るくなる。


「それじゃあ、その中で自分の描いた線が赤い者は手を上げなさい」


七人が手を上げた。


「よし、では次に黒」


二人が手を上げた。


「残る一人は青だな」


残された生徒が頷く。


「魔術を発動する際に当然魔力を注ぐ必要があるが、魔力には色が存在する。青、赤、黒の三色だ。意味ある形に適切な魔力をーーという適切というのはつまりこの色の事も含まれる」


杖を三回振る。それぞれ青、赤、黒の三色で引かれていた。


「魔力弾の発射はどの色でも発動するが、その中でも適正というものはあり、赤が適正値が高いとされている。だから魔術の構築が早かった十人中七人が赤だったわけだ。我々はこれを色別摩擦と呼んでいる。基本線に注ぐ際に抵抗の少ない色程適正が高く適切である、というわけだ。事実、基本線には特定の色でなければ機能しない線がある」


「ええと……じゃあ、魔力弾の線は赤の魔力を意識的に使った方がいいんでしょうか」


おずおずと手を上げた生徒に教師は「いや」と否定した。


「各々生成しやすい魔力の性質は異なっている。今、君らに引かせた魔力弾の色こそ君らの適正だ。発射の線は色別摩擦の係数にそこまでの違いがないので、例えば青の適性があるものが赤の魔力で魔力弾の線を引いても青より早くなるということはない。それよりも術者の力量の方が重要になってくる。基本線の精度を上げれば自ずと速度も上がる。図形学においてはある程度の摩擦であれば構成の精度が最重要と考えられているな」


ポン、と杖を受け止めるようにもう片方の手のひらに杖の先を乗せる。


「杖は、この基本線を描く動作を覚えさせるために使う。より精度の高い線を描き杖に覚えさせることで、より速く、より強力に、より制御力を獲得していくわけだ。だから君らも日々基本線の精度を上げるよう精進しなさい」


はい、と返事が返ってくると満足そうに頷き、教師は再び板書に戻っていった。


「ところで魔力の色は三色だと言ったが、基本線の中にはその三色いずれにおいても高い抵抗を示すものがあることから青、赤、黒以外の色もある事がーー」


生徒達のその授業に対する姿勢はすっかり居住まいを正されていた。その見事さに教室の一番奥、入り口となる扉の前で話を聞いていた白い髪の男は感心した様に唸っていた。


授業が終わり、生徒達が教師に礼をして教室を出ていく。何人かの生徒は授業だけでは分からなかった部分を聞くために教師に話を聞きに行っていた。


それも一通り終わり、一息ついたところで男は教師に話しかけた。


「お疲れ様です、先生。非常に参考になりました」


「君にそう言われると嬉しくなるやら恐ろしくなるやらだな。よもやまさか再び私の教室に君が戻ってくる日が来ようとは夢にも思わなかったよ、カウツ君」


「ええ、そうですね。とはいえ、今回は生徒ではなく新任教師としてではありますが……やはり人に教えるのは難しい」


「魔術院きっての天才と言われた君とでは思考の差異が大きすぎるのだろうな。君にとっての前提は我々にとっての未知に近い。何かの助けになるならそれは良かった」


「ありがとうございます。このお礼はいずれまた」


「ああ、君も大人になったのだから酒でも飲みながら話をしようじゃないか」


そして初老の教師も教室を去っていく。残されたカウツは教室を眺め嘆息し、自身もまた教室を出ていった。


そこに、待ち構えていたように二人の男がいた。


風船のように膨らんだ大きな腹を抱え、種々様々な勲章や徽章に飾緒まで飾り付けられた大変賑やかな格好をした赤いロングコートの老人と、能面のように無表情を貫く黒いロングコートを着た男、魔術院三強の一人カイである。


「やあ、カウツ。教師としての勉強かね。感心感心。勤勉なのは良い事だ。魔術院きっての天才、数百年に一人の怪物とまで呼ばれる君が努力まで怠らない。まったく頭が下がる」


快活に話してはいるが、どこかねっとりとしたいやらしさを覚える口調だった。隠したものを探そうとする疑り深い者に体をまさぐられている気分さえしてくる。


当然、気分のいいものではないが、それをおくびにも出さずカウツは頭を下げた。


「お久しぶりです。シム室長」


魔術院のロングコートは青、赤、黒、白の四色が存在する。戦団、防衛省の魔術師が黒いロングコートの着用が義務付けられているように魔術省の職員は赤いロングコートを着る事が義務付けられている。


魔術院に存在する十一の行政機関の一つ、魔術省の長。それがこの男、シムである。


「うむ、君とこうして話すのは君が戦団を辞めるというから魔術省に誘いをかけに行って断られて以来だったかな?」


「そうでしたね。その節は大変失礼致しました」


再びカウツが頭を下げるとシムは呵々大笑と言わんばかりに笑い唾を飛ばした。


「フラレたのは残念だがね、まあ君は放っておいても魔術の研鑽に励むだろう。勿論魔術省、研究室に来てもらえればより高度な環境を提供できるのだから全く才能の無駄遣いをしているとは思わざるを得ないがね」


カウツは黙して何も答えない。


「そういえば、先日のセンティーアの件ではカイが世話になったそうだが」


シムの背後に立つカイが頭を下げた。


「霊素獣の転移を助けてもらいました」


「魂を基点とした転移魔術か。戦団では試験的に導入されていると聞いていたが論文を読む限り属人的過ぎて汎用性がないがどうだね、アレは今後一般化出来そうかね」


「技術的には将来的に可能ですが、社会的な問題点から一般化はまず不可能だと思われます。仮に諸問題をクリアしても院長の制限下に置かれると思われます」


現在の転移魔術にはいくつかの問題があるが中でも問題となるのが安全保障の面だろう。空間転移魔術とは犯罪に向きすぎた魔術だと言える。鍵や門、個人の邸宅はおろか出入国管理さえ無視できるようになる。こんな魔術がそうそう簡単に使用許可が下りるはずがない。


「勿論それはそうだろう。だが、組合が転移魔術を確立してみろ。そうなれば、我々はそんな悠長な事を言っていられない。私はルプス派ではないが、彼等の言いそうなことくらい分かる。事実、戦団においては導入しているのだから」


そのシムの言葉はあながち間違っていない。センティーアでケレブリアンは影の中から霊素獣を出し、本人も影の中に沈み込んで姿を消したという報告をカウツも受けていた。


アプローチの違いこそあれど、それは転移魔術に近しい何かには違いない。それが体系化し運用が始まれば魔術院も手をこまねいているわけにはいかなくなるだろう。


「いずれ法整備が成され、制限はあるとしても一般化は時間の問題となるはずだ」

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