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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
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乾いた音が響く。


母が娘の頬を強かに叩いた音だった。


娘は涙を目に浮かべていたが、母は泣き腫らしていた。


今し方、自らが平手打ちした娘に膝から崩れ落ちて抱き付き声を上げて泣いていた。


そうしてしばらく後、母娘は手を握って去っていった。飼い犬は見るからに弱っていたのでロシリエルが抱きかかえ家へと連れ立って行った。


それから少ししてからエオメルやスオ、アレクトが帰ってきた。


ミアが見つかったという報告を聞いて胸をなで下ろしていた。


キーアの頭の中は先程見た幽霊の事でいっぱいだった。


食事を終え、床についても彼の幽霊が頭にちらついて、どうしても眠れず一睡もできないまま朝を迎えていた。


その日は、翌日に出立を控えているという事で買い物をする事になった。車での旅路になるので列車とは異なり自前で食料などの準備をする必要があり、魔術院側がそちらを受け持つ事にしたためだ。


もっとも、西へ出立するのはキーア達三人とエオメルの四人らしいのでほとんど自分たちの為の準備のようなものである。


買い物を終え、教会への帰り道、未だ浮かない顔をしているキーアにアレクトが声をかけた。


「昨日から様子がおかしいね?キーア。どうした、何かあったのかい」


「あのね、アレクト……昨日、私ミアちゃんを見つけた所で……その、幽霊を見たの」


「……幽霊?本当に?」


スオが訝しげに尋ねると、キーアは小さく頷いた。


「その……湖の近くに洞窟があって……そこの奥に地底湖みたいなのがあって……そこで、ミアちゃんをみつけたんだけど、幽霊がいて、ミアちゃんがその幽霊をお父さん、って……」


「そうか……しかし、本当に幽霊っているんだな……アレクト?」


話を聞き、アレクトはその表情をウサギだというのに見れば分かる程に険しくしていた。


「その幽霊は、あのお嬢ちゃんの父親の幽霊だったんだな?」


「うん、そう言ってたけど……」


「……あのお嬢ちゃんが湖に来るようになった理由は確か父親の幽霊を見かけたからだったな?」


「……まあ、そうじゃないかって話だったな。本人に聞いたわけじゃないけど」


「幽霊は存在する。だが、その幽霊が存在する理由、というか仕組みはね魂が関係しているんだよ」


「魂が……?」


「魂とは記憶と記録の集積装置であり個人情報の集積体だ。これが肉体の死亡、機能停止と共にその肉体から乖離し霊流へと還る」


それは教会の円環教典にも記されている、死後の現象である。


教会が幽霊を否定するのは魂は霊流に還らなくてはならないからとしているからだとクルニアにもロシリエルにも聞かされている。


つまり、幽霊とは魂に由来する存在だと言う事だ。


「そっか、魂はその人の情報を持ってるから幽霊になれるんだね」


冴えたように答えが導き出されたと口にするが、アレクトはいいや、と否定した。


「少し違う。人の魂はそれそのものだけでは形を取り得ない。出力が足りないからだ。生命、あるいは存在として成り立つには熱量が足りない」


「じゃあ、昨日見たのは……」


「幽霊の仕組みとはね、死した肉体から離れた魂が、霊素の濃い場所、霊素溜まりを通過した際に色移りするかの様に一部の情報だけを投射した現象を指して言うんだよ」


「ええと、つまり……写真みたいなものってことか?」


「そうだ。故に、幽霊とは魂が霊流へと向かう際にたまたま霊素溜まりを通過した時に現れるものに過ぎない」


「……それじゃあ、あそこにはミアちゃんのお父さんの魂があったっていうこと?」


「そんなのおかしいだろう。死因は病死だと言っていた。病死の人間の魂がそんなところにあるわけがない。病院か自宅が大体だろう。よしんばそこで病死したのだとしてもおかしな話がある」


アレクトは一呼吸おいた。決定的な事を言うために。


「幽霊とはその性質上、一度しか現れない」


魂とは霊流に還るもの。そして幽霊とは霊素溜まりを通過した残滓に過ぎない。


ならば、幽霊が現れるのは一度しか有り得ない。そういう話だった。


「……たまたまそのお父さんの魂は地上に残っていたとかじゃないのか?」


スオの言葉をアレクトは否定する。


「魂が地上に残留することはない。仮に地下深くで魂が乖離したとしても、生命を離れ質量を持たない霊素は物体を透過して霊流に還る」


「じゃあそれは一体どういう事なんだ?」


「詳しい事は何とも言えないけども、だいぶキナ臭いな。下手したら魔術院の介入案件かもしれない」


「戦団が動くのか?」


「研究室かもしれないけどね」


そうなると、どんな事になってしまうのだろう。教会と事を構えなくてはならないのだろうか。それともあるいは組合か。もしくはその両方か。


スオの脳裏にエオメルの締まりのない笑顔が浮かんだ。


出来れば敵に回したくないと思う。


あるいは組合ならば。


ジョージの言葉が頭をよぎる。


ーー小僧、何を考えてるかは知らんけど、組合はここで暴れる気はサラサラないでござる。ここで何かあるとしたらそりゃあお前ら魔術院が仕掛けてきた時だと理解しとくでござるーー


戦端を開くのは魔術院か、それとも組合か。センティーアでの出来事を思い出し、身震いがした。

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