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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
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何故だか今回はスオの方に付いてきたアレクトを伴いエオメルについて外回りをする。今日は糸が切れていないかを確認すると言った。


……勿論、中にいても糸が切れれば分かるように作られている。そうでなければ咄嗟の対処が難しいからだ。


だけれども度々こうしてエオメルは確認に来るという。何故かと問うと、


「外まで出かけて仕事をする人もいるし、特にご年配の方はね。そういう見回りもあるかな」


気配りが出来ている、あるいはお節介なほどにエオメルは仕事に熱心だった。


不思議に思う。スオはキーアを始めとする身近な人達のためになら身を挺する事もやぶさかではない。しかし、身も知らぬ誰かを助ける為にそうまで頑張れるかは怪しかった。


勿論、力のない人達を助けるのに異論はない。出来得る限りの事はするべきだと思う。それでも、その出来得る限りの範囲はそんなに広くは持てない、そう思った。


そんな事を言えば怒られるーーそうでなくても呆れられるかもしれない。それで身構えたが、エオメルは「それはそうだろうね」と当然のように返してきた。


「僕の生まれたところはね、鈴の森という場所なんだけれど、ここで生まれた人達は皆、将来的に聖鈴騎士になる事を決められているのさ」


ふと、関係のない事を喋りだした。


「僕もそうだった。あまり疑問は持たなかった。そうなるんだよ、と教えられ鍛えられて教会のために生まれて育ち、死ぬ事を僕達は当然の事として受け入れていた」


なんてことない世間話をするかのように、その身の上話は明かされた。


……あまり気持ちのいい話ではなかった。スオにはその環境が気持ち悪くて仕方ない。


「気持ち悪い……」


思わず口にした事に驚き、口を塞ぐがもう既に言葉はエオメルの耳に届いていた。ああ、と嘆くような声を上げ、


僕もそう思う(・・・・・・)


聖鈴騎士は自らの出自を否定した。


「人の人生を他人が決めるなんて異常な事だよ。それを何の疑問もなく受け入れているのは気持ちが悪い。当然の反応さ」


自らの故郷と、その在り方を否定する言葉に淀みはない。心底からそう思っている者の語り口だった。


……そう、それが当然であるべきなのだ。自らの在り方を他者に定義され、あまつさえそれを強制されるなど間違っている。


ーー人間は神によって創造されました。それは神から使命を与えられ果たす役割を求められたからです。即ち人類とは神の使徒であり、労役者でもありますーー


だからだろう。スオがクルニアの言葉に頷くことができなかったのは。


「僕は聖鈴騎士になる事に迷いはなかった。そうなるものだと言って聞かされてたからね。でもある日、誰かが戯れに持ち込んだ一冊の本を読んで考えが変わった。


その本の中では主人公は優しく正しく皆のために命を懸けて戦っていた。傷を負うことを躊躇わず死さえも厭わなかった。それは僕がいつかなる聖鈴騎士と変わらないように見えたけど、僕はその姿に憧れた。僕もこうなりたいって思ったんだ。


その日から僕の未来は願いになった。僕の夢は正義の味方になる事になった」


それは子供の頃の話、いつか通り過ぎた過去。笑ってしまいそうな幼い夢。


だというのに、その言葉には確かな背骨があった。エオメルを支える支柱が彼の真ん中を貫いている。この冗談のような夢物語こそ彼の人間性を形成し、今でも彼という人を表している。


願い、夢、目的。そう在りたいと自分の方向性を定める指針。


それが、あまりにも眩しすぎてスオは胸の奥が痛んだ。この痛みの正体は何なのか。ちらりと覗くその姿を正視出来ない。


「……要するにね。僕がこうして頑張るのはなりたい自分になるためなのさ。誰かのためじゃない。僕自身がそうする事で夢を叶えられると信じているからだ」


スオは何も言えない。言葉を発すれば自分の歪みに気が付いてしまいそうだったから。


「ただ、気がついた」


それでも、エオメルは言葉を止めない。


「誰かに自分の決定権を委ねてはいけない。自分のためにも相手のためにも。僕を軽んじる人は僕の運命を容易く捨て去るだろう。僕を大切に思う人は僕の人生を粗末に扱えずその重さに潰されてしまうかもしれない。自分の重みは自分で背負わなければいけないんだ」


キーアの顔がよぎる。背負っているのは自分か彼女か。答えは言うまでもない。


キーアを守れなければ生きていく価値がないと自身に判を押した自分こそ、キーアに全てを背負わせようとしていた。その重みを想像し、無意識にこれまでの人生で彼女にかけてきた負担と、その心中に想像を巡らせ恐ろしいことに気が付いた。


とんでもないことをしていた。


いつだってそれは分かっているつもりのことだった。キーアのためと嘯きながら実際には自らの生きる理由、そこに在って良い保証にしていた。そのためにスオは自然と何かから目を逸らしていた。


キーアに負担をかけている。それは分かっているつもりだった。彼女にまとわりついていた時期もあった。それを止めてほしいと頼まれたこともあった。だから、彼女の負担になっていることも知っていたつもりだった。


全て、つもりでしかなかった。


キーアの立場に立って真剣に考えた事など、本当はなかったのだ。そうしてしまえば気が付きたくない事に気が付いてしまうと薄々感づいていたからだ。


今、どうしようもなく避けられず、キーアの心中を思い量る。そうした時に軽々しく見積もる自分の命がキーアのために投げ出された時に彼女がどう思うのかを理解して、スオの何かが瓦解しそうになっていた。


こみ上げてくるものに喉が圧されて止められない。びしゃりと吐き出されたものが地面に散らばって染み込んでいく。


顔中から液体が吹き出てぽたりぽたりと落ちていく。それを眺める視界が歪んでいた。

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