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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
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「おお、戻ってきた……誰だ?」


監視塔に着くと変貌を遂げたジョージに気付かず中年男性は小首を傾げたが、当の本人はそれを無視して不快げに机の上に転がった鉛筆を睨みつけていた。


「チッ……」


切れた糸と糸を結び直すと白衣の下から杖を取り出し魔術図形を描く。魔力の光が糸に灯ると糸の結び目がすっかり消えてしまった。


その光景に中年男性は目を丸くして驚きの表情を浮かべた。


「お、おお……あれ?って事はこの兄ちゃん……組合の?」


「オッサン、マニュアルはきちんと読んでんのか。鉛筆を取り替えるなり削るなりする時は鉛筆に巻き付いた部分を切れって書いただろうが」


苛立った声は険のあるもので中年男性は冷や汗を垂らして一歩、後ずさっていた。


「あ、ああ。悪かった。今度から気を付ける……」


「はあ……クソ袋共が……」


唾を吐き捨てるように悪態をつくとジョージはそのまま監視塔を出ていった。


その背中を追い、エオメルとスオも監視塔を出る。白衣の背中が猫背になって地面を見つめていた。


「お疲れ様、ジョージ。助かったよ」


「はあ……小生いつまでも外にいたら融解するでござる。すなわち生命の危機。手早く我が安息の地に戻らねば」


ブツブツと呟く口調が元に戻っていた。


「やはり、面倒でもスイッチのオン・オフ一つで片付くように機械化するべきでござった……どっかの施設を借りて作るべきか……いや、設計図だけ送り付けてしまった方が小生楽じゃね……?」


何やら思案しているその姿は先日見たような狂人のそれではなく一研究者のそれだった。


「本当に優秀なんですね」


「それは間違いない。ジョージのおかげで色々なことが楽になった。監視塔の他にも畑の動物除けや老人のボケ防止だとか宿泊施設の掃除だとか……正直みんな頭が上がらない」


「だからクルニアさんはお金を渡してたんですね」


「あれはクルニア司祭のポケットマネーだから僕としては心苦しいんだけどね」


「オマイラ、グチャグチャ言ってねえで帰るでござるよ。小生マジ限界。もうムリ。死ぬ」


大袈裟なことを言いながらトボトボと歩き出す。エオメルはその横に並んで背中を軽く叩いて笑っていた。


二人はスオには理解出来ない謎の会話を繰り広げつつ賑やかに笑い合っている。「新作読んだでござるがヤバヤバのヤバでござった。心臓が麻痺って死ぬとこでござった」「宿命に縛られた二人……イイよね」「己の生まれに抗えない少女とその運命から解き放とうとする少女の悲恋……控えめに言って即死攻撃でござった」「タマ先生の描く百合はやはり格が違った。存分にブヒれる」「美しすぎて小生の腐った目が潰れかねないので危険物指定すべき。それでも読むが。そして死ぬ。誰もいなくなる」


本当に何を言っているのか分からないが、とにかくあの二人は仲がいいのだろう。あまりにも楽しそうで、それだけは間違いないとスオにも分かった。


「しかし、さっきも聞いたけど何故そんな格好をさせられているんだ?」


「……あー。まあ、あれでござる。組合のウンコ袋が来ていて小生の生活っぷりを観察に来たでござる。そしたら文句言われて無理矢理こんな格好をさせられて……」


「ふうん。それがエドガーさんとやらなわけだ。まあ、でもちょうど良かったじゃないか。出掛けるのに着替える手間も省けたし」


「冗談じゃない。何かこの服やたら窮屈で小生、窒息死するかと思ったでござる」


服を忌々しげにつまむ。確かにどれもこれもタイトな装いになっていて体の線が出やすい服だった。ただ、ジョージは細身なせいか貧相手前で似合っており中々良い見立てに見える。


しかし、問題はそこではない。


「組合員が他にも来ているっていうのか……」


スオの思考は危険性を感じ取っていた。センティーアを襲ったケレブリアンは組合の手の者だとアレクトは言った。そして、ケレブリアンは組合によって蘇らせられたのだと。そんな奴が一人で寄越されるだろうか。あるいは、そのエドガーはケレブリアンを擁してセンティーアに来ていた組合員かもしれない。


だとしたら。


「小僧、何を考えてるかは知らんけど、組合はここで暴れる気はサラサラないでござる。ここで何かあるとしたらそりゃあお前ら魔術院が仕掛けてきた時だと理解しとくでござる」


冷や水を浴びせるようなジョージの声がする。


瞬間的に反発しそうになるが、それは確かにそうだった。ここは組合にとって重要な場所だ。万が一にでも失うわけにはいかない。だから魔術師だからという理由で仕掛けてくる事はない、というのはあまりにも筋の通った道理である。


「……分かった。覚えとく」


スオはそう答えながら、少し敵意の混じった声をしている自分に気が付く。初対面が最悪な印象だったからか、それとも自分が魔術院に所属しているからか。優れた能力を持った目上の人間だと理解しながらも、しかし、所属から逃れられない意識に何とも言い難い複雑な感情を覚えていた。

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