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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
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澄み渡る空に歌うような小鳥のさえずりで目を覚ます。他所様の部屋の匂いと馴染みのない手触りのシーツがここは異邦だと思い出させた。


目を開き体を起こすと「おはよう」と窓からの光を受けるキーアの声がした。そちらに向いて「おはよう」と返すと「あっ」と短くキーアが驚いた声を上げた。


「どうした、何かあった?」


「スオ、髪の色が戻ってる」


そう言って手鏡を渡され見てみると確かに髪の色が秋の田を思わせる金一色になっていた。指を髪にすかしてみせても黒髪が隠れている様子はない。


瞳の色も戻っている。霊素が抜けきった事にほう、と胸をなでおろした。体にそこまでの影響はなかったが見るからに異常な状態はあまり精神に良くなかった。


「良かったね」


自分の事のように喜ぶキーアの体が揺れて髪を踊らせた。その姿を見て彼女の亜麻色の髪が三編みを失って肩口まで短くなっていたのを思い出した。


「ごめん。俺のせいで髪を切らせたっていうのに謝るの忘れてた」


「何を今更……別にこんなのどってことないよ」


戸惑ったように綺麗に整えられた髪の切り口に手を添える。自分で切った時にはもっとざんばらの有様だったのでその後、美容院にでも行ったのだろう。本当に何とも思っていないのだろうことはスオにも分かった。


今更。それはその通りなのだが、謝らずにはいられなかった。キーアを守る守ると言いながら出来ていない自分の未熟さがキーアに髪を切らせたのだ。


その事実に嫌になる。己の弱さも、今すぐには強くなれやしないのだという現実も。


だから、こんなことも言い出すのだ。


「エオメルさん、今日も同行していいですか」


教会の三人とスオにキーアとアレクトで囲んだ朝食の時間、唐突に切り出したスオにエオメルは目を丸くしたがいつものように、にへらと笑って頷いた。


「いいよ。今日はとりあえず監視塔を回るつもりだったんだ。一緒に回ろうか」


「ありがとうございます」


「昨日霊素獣が出たばかりだし何もないとは思うんだけどね」


パンを齧りながらのんびりとした口調でエオメルはそう言った。


「騎士エオメル、また巡回に行くんですか。私も講話に行く予定があるんですが」


「ロシリエルが?クルニア司祭ではなく?」


不意を突かれた顔でクルニアに向けて聞くと司祭は古ぼけた時計のようなたたずまいで頷いた。


「ええ。私のような年寄りよりも彼女のような麗しいお嬢さんの方が皆、耳を傾けてくれるというものですからね」


突然の不意打ちにロシリエルが目を丸くする。


その声は優しく耳朶をうち、染み入って心地いいからこそ眠くなるーーそう言えば些かでも初老の司祭の無聊を慰められるだろうか。そんな不躾な事を考えたのは誰だったか。しかし、結局場に響いた言葉はそれより遥かに不躾だった。


「はっはっは。確かに、爺さんの言葉など時計の針が時を刻む音みたいなものだからね!」


人間じゃないから人の心が分からないのか、分かった上で忖度しないのが獣の流儀なのか。とにかく銀色のウサギは悪意を感じさせない快活とした笑い声を上げながらぶちまけた。


「アレクト……」


「いいえ、ウサギさんの仰る通りです。老人は年重を経て経験を積み、現実を見知ったからこそ口煩くもなりますし言葉に重みがなくなるのです。聞かれないのは仕方のない事ですよ」


「言葉に重みがなくなる……普通は逆じゃないんですか?」


「経験を積んだ言葉というのは過去に囚われた言葉と言う事です。時代は積み重ねた上で刷新していくのですから過去を基準にしていれば自然と今の重みを無視する事になります。老人はね、自分の歴史を重んじはしても社会の歴史をしばしば軽視しがちなのですよ」


「悟ったようなことを言うね」


言葉こそ皮肉げに聞こえるが、どうも感心した様子のアレクトにクルニアは相変わらずの笑顔を浮かべていた。


「ええ、勿論。聖職者ですので」


「ふむ。それで、キーアはどうする?」


「私?」


話を振られて少し驚きピョコンと反応するが「そうだね」と少し考えたあとに、


「ロシリエルさん、講話ってどんなことするんですか?」


と、尋ねた。


「私達の教えについて教典を交えてお話します。今回は方舟教典を取り上げようかと」


教師が授業スケジュールについて上長に話すような生真面目さが垣間見えた。生来の性格なのか、単に気安い態度をとる間柄ではないからなのか。どうにも両方ありそうだと気配を察しつつ疑問を口にする。


「教会の教典って円環教典だけじゃないんですか?」


「ええ。円環教典が私達の使命についての教典だとしたら、方舟教典は人としての在り方を教え説くものとなっています」


「そうなんですか。じゃあ、私、それ聞いてみたいんですけどいいですか?」


「ええ、勿論」


キーアの要望を快く受け入れた。自身の活動に対して興味を持ってもらえたからかロシリエルのその表情はより柔和なものになったように見えた。

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