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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
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55

速い。


エオメルの背中に届かない。脈打つ脚力の全てを出し切って尚、あちらの方が速い。


正直に言えば追い抜いてしまわないかという懸念はあったが取り越し苦労もいいところ、全然お話にならない。


野生の動物と魔力抜きで争っているようだ。驕り高ぶった魔術師(にんげん)を嘲笑うかのように聖鈴騎士(かいぶつ)は駆け抜ける。


後はもう意地である。絞り出せるものは絞り出して食らいつく。そうして限界の一滴まで出し切ったところで目的地に到着した。


石造りのやや背の低い二階建ての建物。作りそのものは簡素であり飾り気のないものだった。ただ、塔の頭には三本の柱が立っており、光に反射して何かが光っているように見えた。


「到着到着。ここが監視塔だよ……スオ君?」


振り返ったエオメルの目に写ったのは倒れ伏し息も絶え絶えのスオであった。


「ちょっ……ちょっと……休ませて……ください……」


「よし、呼吸が落ち着いたら中に入ろうか」


心を落ち着け呼吸を整える事に集中する。体は自動的に魔力を巡らせその回復を促進する。


次第に呼吸が回復し始めた。何とか立ち上がるとエオメルがにへらと笑った。


「さっすが魔術師。回復が早いね」


「ありがとうございます……」


中に入るとやや薄暗い。灯りは魔力灯ではなく普通の燭台を使っているようで二階に続く階段の横とその向かい側に当たる木製の机の横に配置されていた。その机には紙が敷かれており天井から吊るされた鈴と糸で固定された鉛筆がある。そして土臭い雰囲気をした中年男性が待ち構えていた。


「ああ、エオメル来てくれたんだな!」


「ええ。波形図を見せてもらえますか」


「勿論だ。見てくれ」


机に置かれた紙を指差す。そこには鉛筆によって波状に引かれた線があった。それを一瞥すると必要な事は知れたと視線を男性に向けて頷いた。


「成程、承知しました。今すぐ討伐に向かいましょう」


「頼んだぜ、エオメル」


踵を返し建物を出ていくエオメルの後を追うスオ。


「今ので何が分かったんですか」


「あれはどの段階の霊素獣が何体どの辺りに出たのかを教えてくれる装置なんだ。第二段階の霊素獣が一体西側やや北よりの所に現れたのが分かったよ」


「どういう仕組みなんです」


「この周辺には霊素に反応する糸が張り巡らされていて霊素獣が触れると監視塔の鈴が鳴り、糸と繋がった鉛筆が場所と霊素量を示す様に出来ているのさ」


「はあ、結構大掛かりなんですね」


「ジョージの考案らしい。おかげで駐留する騎士も最小限で済んでいるよ」


ジョージ、その名前がここで出てくる事に少し驚いた。先程出会った彼は控えめに言っても変人であり近寄り難い存在だった。


クルニアは確かに「彼にはお世話になっている」と言っていた。それはこういう事かと納得する。


「じゃ、手早く片付けよう。また走るけど大丈夫かい?」


「な、なんとか頑張ります」


振り返るエオメルがにへらと笑う。


「よーし、じゃ行ってみようか」


言葉と共に走る。その背中を追って付いていくというだけの行為に覚悟を決めた。


しばらく走り人里離れ木々の茂る山中に入る。さすがに先程のような速度は出さず、しかし手慣れた様子でずんずんと進んでいく。


これが一人であったなら確実に不安になるであろう道なき道で、数少ない足の踏み場を知っているかの様に苦もない様子だった。その後を付いていくスオは先程とはまた違った疲労を感じながら何とか置いていかれないように見失わないように進む。


やがて比較的空間に余裕のある場所に出た。ヒノキの類いだろう背の高い木々は頂点に葉っぱをつけて足元はスッキリとしている。おかげでわずかな光の差し込みと湿気、閉塞的なのにそのくせ妙な開放感のある空間に仕上がっている。


「この辺りだ」


呟くエオメルの肩が僅かに上下する。深呼吸をしていた。目を閉じ感覚を研ぎ澄ませ、五感では感じ取れないものを拾い上げるように世界を広げていた。


それは魔術師が掌握空間を展開するのに少し似ている。背後にいるスオもその何かが感じ取れた。見えない糸が体に触れるような感触。どことなくそれは霊素獣の存在領域に近いものを感じさせた。


「見つけた」


エオメルが目を開く。手を伸ばし揃えた人差し指と中指からうっすらと光り輝く何かが現れた。


瞬間、湿った落葉が擦れる地面を蹴る音がした。エオメルではない、少し離れた場所。ヒノキに隠れた獣が姿を表し走り寄ってくる。口からよだれを垂らし、目はらんらんと赤く充血しながらしかし霊素によって緑に染まっている。


元は狸か何かだったのだろうそれは肥え太るように肥大化し大型犬に少し及ばない位の大きさになっていた。


それが、狸では考えられない速度、魔力に頼らない人間では中々及ばない速さでエオメルに飛び掛かってきた。


エオメルの動きは単純だった。伸ばした手を下から上へと振り抜いただけだった。それだけで獣は声もなく霊核ごと両断され絶命した。


どしゃりと音を立てて死体が地面に落ちる。その死体を回収すると振り返りにへらとエオメルは笑った。


「こんな感じだけどどうだったかな?」


「……今の、どうやったんですか?」


指先から出ていた光は魔力のものではなかった。魔力を使わず驚異的な身体能力を発揮し魔力を使わず謎の力を用いる。


いや、目の当たりにしたスオには、それがいかなる機能なのか何となく当たりはついた。だがとても信じられない。これまで教えられてきた人間としての常識を覆すものだったからだ。


そのスオの動揺にエオメルは答えを与える。


「聖鈴騎士はね、基本的に魔力を精製できない人達で構成されている。魔力を精製できない代わりに霊素を使うことが出来る……ま、言ってみれば人間の霊素獣だね」

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