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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
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54

少女を迎えた一行は街中へと帰っていく。


何故少女を誘ったのか、と言えばサンダルの紐は簡単に処置したものでしかないから、また千切れる可能性がある。


その時にまた誰かが助けられるとも限らない。だから同行してもらうことにした。


そういう事情である。


歩く道は土肌が露出している。塗装もされていなければ石畳が敷かれているでもなし。人が歩くために均されてはいるし、大きな石や目立った障害物はない。それでも、それ以上には手が入っていない。


観光立国とはいうが、資金がそれほどないのだろう。センティーアは世界有数の商業国家であり、レンレセルは魔術師の国だ。どちらも金か技術か、飛び抜けたものを持っているが、この国にはそこまでのものはない。


裕福ではないが、そこまで貧乏でもない。余裕は少ないが窮する程でもない。そんな国家の事情が透けて見えるようだった。


そんな道すがら、向こうから小走りで見知った顔がやって来た。ロシリエルである。


「ああ、よかった。騎士エオメル入れ違いにならずに済みました」


ほっと胸を撫で下ろす仕草にエオメルが前に進み出た。


「どうしたんだ、ロシリエル。何かあったのかい?」


「西側の監視塔から通達がありました。二等線が鳴ったそうです」


「うん。分かった。直ちに急行しよう」


「どうしたんですか?」


「防衛線に第二段階の霊素獣が出たらしい。今から僕は向かおうと思うけど……スオ君、来るかい?」


「正直、興味はありますけど、何故です?」


エオメルにスオを連れて行くメリットはあまりない。これがもう少し熟練した魔術師なら掌握空間を展開して感知役等も出来ただろうが、スオはそのレベルに達していない。第二段階の霊素獣ならスオでも問題なく倒せるが戦力として必要ではないはずだった。


「そうだね、僕がええカッコしいだからだよ」


いたずらっぽくウインクをしてみせる顔が善意で提案したのだとスオに悟らせた。さすがにこれを遠慮する程、空気が読めないわけじゃない。


「分かりました。お願いします……アレクト」


「魔術使用制限解除は申請した。すぐ下りる。キーアの事は任せておきな」


「ありがとう……行きましょう、エオメルさん」


「よし、じゃあロシリエル。彼女らのエスコートは任せたよ」


「はい、お気を付けて」


エオメルとスオが走り去っていく。魔力制限を解除し身体能力が更に強化されたスオよりも前をエオメルが走っていく。その身体能力は明らかに常人のものではなかった。


「魔術は使えないって言ったのに……」


驚き半分、悔しさ半分、どこか裏切られた様な気分になったが、その仲間意識は勝手に持ち込んだものだった。だから恨みに思うのはおかしな事だと理性では理解している。


その言葉はほんの僅かに漏れ出た未練に過ぎない。その感情にはむしろ誰にも気付かないでもらいたかった。


「騎士エオメルは聖鈴騎士ですから、大変な修行を積まれた人々の中から選び抜かれた戦士です」


果たして何故か誇らしげに胸を張るロシリエルである。キーアの弱音に気が付いた様子はなかった。


内心ホッとして誤魔化すように笑った。


「私も修行積んだらあんな風になれるかな?」


ふっ、とアレクトが笑う。


「そりゃ無理だね」


その微笑みが、アレクトにはキーアの内心などバレバレなのだと伝えているようで顔が赤くなる。


「と、とりあえず行こう。ミアちゃんにも悪いしね」


少女をだしにしてその場を逃れようとするのもばつが悪いと思いながらもミアの方を見るとどこか落ち着かない様子をしていた。しゃがみ込んでしきりに子犬を撫でている。


「……」


「そういえば、どうしてミアちゃんと一緒にいるんですか?」


ロシリエルはミアの事を知っているらしい。教会は冠婚葬祭にも関係しているからどこかで見知っていてもおかしくはないかとキーアは納得した。


「ちょうど、ジョージさんの家を後にしたところ湖で会いまして。サンダルの紐が切れていたからお家までついていこうかなって」


「そうでしたか……じゃあ、行こうかミアちゃん」


「……うん」


小さく頷くミアを伴って歩き出す。


ミアの家まで彼女を送り届けると、どこか疲れた顔をした母親が出迎えた。


「ミア……あなた、また湖に行ってたの?」


「だって、お父さんが……」


娘の言葉に母は困ったように、呆れたようにため息をついた。


「そんなわけないでしょう……この人達は?」


「サンダルの紐が切れて困ってたら助けてくれた」


「まあ、そうでしたか。すいません、とんだご迷惑を」


母親が頭を下げると何故だかキーアの胸がチクリと痛んだ。どこか、悲壮感漂う雰囲気を醸しているからかもしれない。


「いえ、大したことじゃないですから」


そう否定すると、母親の頭が上がり顔がしっかりと見えた。目の下に隈があり少し痩せているように見えた。


……それについて少し気になりはしたが追及するのもおかしな話で、図々しくもあった。


「それじゃあね、ミアちゃん」


「うん」


別れの言葉を述べて家を離れる。


家も見えなくなった頃合いでポツリと呟くようにキーアが口を開いた。


「ミアちゃんのお家で、なにか不幸があったんですか」


「ミアちゃんのお父さんは先日お亡くなりになりました。体が弱くて、病死でした」


「そうでしたか……」


家族の死というものについて、少し考える。それはカウツの事であり、スオの事であり、また、アレクトの事でもあった。想像するだけで恐ろしくなる。吐き気がする。そんな事が自分よりも小さな少女の身の上に起きたのだと考えると、ひどく胸が痛んだ。


自分の命が失われる事は恐ろしい。死にたいとは少しも思わない。だけれども、家族が失われる事に比べたら、それは少しも比較にならない。


もしかしたらアークティーアには自分の家族がいて、それは既に亡くなっている可能性もある。


それに直面した時に、自分はどう振る舞えばいいのだろう。それは考えてみても分からなかった。

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