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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
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48・シジュー

シジューはセンティーアから白鹿川を北上した黒庇山脈の麓、山々に囲まれた土地にある。黒庇山脈の中では白山に次ぐ高さを誇る牙山の登山口に当たり古都大陸を南北で分断する黒庇山脈の南側の入り口とも言える国である。


山々によって霊素の流れが抑えられた結果、人間が生活するに十分な霊素濃度が維持されており山脈から流れる水源によって大きな湖があり自然と人が集まり集落が形成されていった。主な産業は景観を活かした観光産業であり牧畜なども広く営まれている。


立地の関係上南北の往来において重要な意味を持っており旅人や商人などの休憩や補充などの足場として使われていた。しかし現在では北部への移動は困難を極め、霊素量の増大も相まって北部へ行こうとする者も、北部から来る者も限られていた。


その数少ない利用者の多くが組合の魔法使いである。


そしてセンティーアからの列車は白鹿川を離れると今度は岩肌の目立つ山間に入り少々窮屈な光景が続く。その影響からか列車内は魔力による灯りが点ってはいるもののどこか薄暗い雰囲気になる。


そうしてしばらく走ると列車がおもむろに速度を緩め始めた。車内に間もなくシジューに到着すると放送が入る。


そして列車が霊素獣の侵入を防ぐための外壁をくぐり抜けると山々に囲まれた閉鎖的な道から開放され視界が開けたかのような景色が広がっていた。青く瑞々しい草木が天をつくように生い茂りつつも適度に開かれキラキラと光る水場を色とりどりの鮮やかな花が囲みリスやウサギーー勿論銀色をしたような色物ではないーーのような小動物の姿などがチラホラと伺えた。


列車を降りてシジューに着くと、そこは成程自然あふれる牧歌的な国だった。高い空、白い雲、向こうには牙山を望み駅前もセンティーアのようにあくせくとしておらず少々型の古いバスが待ち受け奥へ奥へと誘うように観光案内の板などが設置されていた。


「ここがシジュー……!綺麗なところですね!」


嬉しそうにキーアの足が跳ねる。羽が生えたように軽い足取りはそのままどこかへ飛び去ってしまいそうで、スオは思わず駆け寄ってその手を取った。


細い指、力を入れたら壊してしまいそうで少し力を弱める。振り返ったその顔ははしゃぐ少女の笑顔だった。


「そんなにはしゃいだら危ないよ」


「だって見てよスオ。こんなに綺麗だよ」


確かに美しい。高い空を突くような険しくも荘厳な山々、並木道のよく整えられた緑に映える色とりどりの花々。レンレセルやセンティーアではスケール感においてこうはいかないだろう。


限られた土地にギュウギュウに人が住んでいて少なからず忙しない印象をレンレセルやセンティーアが与えるのに対してシジューは空間に対する人や建物の割合に余裕を感じた。勿論、町中に行けばまた印象が異なるのだろうが。


少なくとも玄関口では三台のバスが待ち構えているぐらいで後は景観に配慮したものだ。いかにも観光立国という様子である。


「お気に召してもらえたようで良かった。とりあえず教会に行こうか。観光はその後にでも」


にへらと笑いながらエオメルが促し四人と一匹はバスに乗り込んだ。


バスは列車が吐き出す乗客をそれぞれ飲み込むと発進した。窓からのぞく風景は牛や馬がのそのそと草を食む牧場や作物が行儀良く整列した農園が広がり見慣れない風景にキーアは目を輝かせていた。


「見てみてスオ。凄いね、こんなにいっぱい畑が広がってるのなんて初めて見たよ」


「レンレセルも北の方に行けばこのくらいはあるよ」


「そうなの?私はあんまりそっちには用事なかったから知らなかった」


「レンレセルは定期的に鎖国をする関係上、自国で全部賄えるようにしてるんだよ。まあ、二十年保たせるのが精々だけどさ」


「……だからレンレセルの鎖国って二十年くらいで終わるの?」


「そうらしいよ。まあ、多分それだけじゃないとは思うけどさ」


少年少女の語らいに「ふむ」と興味深げにクルニアが鼻息を漏らした。


「魔術院では鎖国について何を理由にしたものだと語っているのですか?」


「え……と。魔王大征伐に伴う被害を考慮しレンレセルを外敵……特に組合から守るためだって聞いてます」


「成程。そして二十年の間に戦団を再編するということですね?」


「そうだと思います」


「そうですか……」


「……何かおかしなところでもありますか?」


「そうですね」


居住まいを正すようにして座り直してからクルニアは口を開いた。


「昔から思っていました。レンレセルが鎖国をするのはおかしな話だと」


「へえ」興味深げにエオメルが声を上げた。「それはどんな塩梅です?」


「レンレセルはそもそも閉鎖的な国家です。出国にせよ入国にせよ列車を使わなくてはならない」


「それはどこでも同じじゃないんですか?センティーアもシジューも列車で入国しましたよ」


キーアの疑問にクルニアはゆっくりと横に首を振った。


「いいえ。センティーアもシジューもそれが主な入国手段というだけでその身一つで出入りは可能です。ですが、レンレセルは列車を使わなければ物理的に出入りが出来ません。出入国者は出入国管理局によって厳しく取り締まられており密入国などは他国に比べて難しいといえるでしょう」


確かに、とスオは思った。レンレセルから出るには列車を使う必要がある。列車以外で出ようとしても何故か必ず失敗する。そして密入国の難しさはかつてキーアが荷物に紛れ込んで送り込まれた時も入国寸前で見つかっている。


「勿論、例外はあるのでしょうが。そうでなければ鎖国中に外部との折衝もできませんから。いずれにしても、鎖国などしなくても非常にセキュリティがしっかりしているのがレンレセルという国家なのですよ」


「わざわざ鎖国して他国から輸入出来ない状態にする意味がない、ということですか?クルニア司祭」


「そうです。その通りですよ騎士エオメル。ですが、そんな意味のない事を魔術院はするでしょうか?しませんとも。では、何かしら他に意味があるのでしょうね。一つの国を長期的に封鎖する程の事です。レンレセル、いえ、魔術院という組織の目的に直結する何かが」


気が付けば生唾を飲み込んでいた。これまで意識していなかった魔術院という組織の影のようなものが脳裏に姿を表した。別に恐ろしい何かを企んでいるわけではないと思いつつもその影は酷く不気味に感じた。


何となくキーアの膝にちょこんと座る銀色ウサギを見ると普段ならかしましく口を出すだろうに何と上機嫌そうに体を揺らしていた。


その首根っこを捕まえて引き寄せる。


「おい、アレクト。お前なら本当のところを知っているんじゃないのか?」


「いやに乱暴だなスオ。まあ、知っていると言えば知っているとも。でも、それを君が知らないのは、今の君には知る必要がない情報だから与えられていないのさ」


では、その自分が知る必要のないことを知っているお前は何なんだと口をついて出ようとした。


この銀色ウサギ、元々はスオとキーアの師であり保護者でもあるカウツが連れていた人工生命体だという。レンレセルに来た時からの付き合いではあるがその正体は謎に包まれている。知識は豊富で家事までこなす。そうかと思えば借り物とはいえ魔術まで使いこなす有り様で、特殊体質であるスオの体のケアまで出来る。


一体こいつは何なのか。ウサギのくせに妙に人間くさい胡乱な表情を浮かべるアレクトの頬をムニムニと弄んでいるとクルニアが笑って言った。


「情報統制もしっかりしている。素晴らしいですね」


色々と思うところのある話ではあった。しかし、それに言及するより前にバスは街中に入り始めていた。

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