46・クルニア
魔術院支部を出て少し歩くと見慣れない服装をした人物が噴水近くのベンチに座っていた。
立襟の背広にも似た白い丈長の服装で、首から金色をしたネックレスのような物を提げている。先端についた装飾は半円の形状をしている。
老境に差し掛かった皺の目立つ顔に華奢なフレームの眼鏡をかけている。灰色の髪は撫で付けられて後ろに流されたオールバックだった。脇に置かれた樫の木で出来た魔術師のものとは違う歩行を支えるための杖が己の身体を労るように置かれているのを見るに足が悪いのかもしれない。
とにかく品のあるお爺さんという風体だった。
「クルニア司祭、お待たせしました」
恭しくエオメルが呼びかけると、クルニアと呼ばれた老人は皺を更に深くして微笑んでその顔を向けた。
「騎士エオメル、用事はつつがなく済みましたか」
「ええ。ありがとうございます」
恭しく頭を下げてから手を差し出すとそれに捕まりそれでなお難儀そうに杖を支えにして立ち上がった。
ふう、と一息つくと穏やかに微笑んだ。
「こんにちは。お嬢さんにお兄さん。今日はいい天気ですね」
最初からそこにいたのは見えていたのだろう。機を伺うようにしてエオメルの背後にいたキーアやスオに穏やかな声をかけた。
「こんにちは。私、キーアと言います」
「スオです……」
「はい、こんにちは。私は天上方舟教会司祭クルニアと言います。センティーアにはそちらの騎士エオメルに護衛をしてもらってお祈りを捧げに来ました」
先程ラジオから流れていた声を思い出す。言われてみれば似ているような気がした。
「慰霊に来られたんですか」
「そうです。あのような酷いことがありましたからね」
痛ましいものを思い、心を痛めて胸に手をやる素振りを見せると首から下げた半円のネックレスが揺れた。
「教会のシンボル、至天の半円か」
「おや、ウサギさん。貴方、お話できたのですね。ええ。そうです。これは我ら天上方舟教会の教えにある至天の円環を表したものですよ」
「至天の円環?」
「興味がお有りですか、お嬢さん。ええ、司祭として我らが教えを広める事にやぶさかではありませんが今はやめておきましょう。騎士エオメルの足を止めてしまいますからね」
「僕は結構ですが、それなら司祭、実は彼らはアークティーアまで用向きがあるそうですから同行させてもらいたいのです」
「ほう、聖地まで。見たところ魔術師の方とお見受けしますが如何なる御用ですか?」
「それは……」
「成程、不躾が過ぎましたね。今の質問は忘れて下さい。ええ、同行の件は承知しました。それなら道すがらにでも我らが教義についてお話もできますしね」
その言葉にケラケラと笑い声を上げたのはアレクトだった。
「さっすが天上方舟教会の司祭殿だ。押し売りみたいな布教の熱心さには頭が下がるよ」
「ええ。それが私の役割ですので」
アレクトの失礼極まりない物言いにも意に介さずニコリと微笑むとクルニアはそう言った。




