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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
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「しかし、まるでケレブリアンが生き返った事を確かな事のように話してはいるけれど、実際問題死者蘇生なんて可能なのか?」


エオメルが疑問を呈した。当然の疑問だろう。それが可能ならばこの世に死者などいなくなる。


そして、その疑問にアレクトは少し頭を下げて答えた。


「理論上は可能だと言っておこう。先日、霊素獣との戦いで両腕を欠損した男がいるんだがね」


ユガの事だと気が付いたのはキーアよりもスオの方が先だった。見えていた分、その怪我の酷さはよく頭に焼き付いている。


「奴は今、再生魔術で両腕の再生を行っているところだ。後、2ヶ月から3ヶ月は不便するだろうが滞りなく復帰できると思う」


「……それが何か関係あるのか?」


「大ありだとも。この再生魔術とはいかにして肉体を再生させているか想像がつくか?」


問われてすぐにキーアは諦めた。まるで分からなかった。しかし、スオは何となく答えが分かった。


「……魂か」


「はい、正解。魂から肉体の情報を参照して再生を行うという仕組みだね」


魂、記憶と記録の集積装置。個人情報の塊そのもの。


「つまり、何か。魂さえあれば致命傷を負っても生き返らせられるという事か?」


「そうなる。そもそも、両腕の欠損は本来なら失血の問題から致命傷みたいなものだよ」


「……成程」


エオメルは呟くとそっと目を伏せた。


「でも、レンレセルじゃ死人が生き返ったなんて話は聞いたことないぞ。死んだ人は死んだまんまだ」


スオが言うとアレクトは頷いた。


「魂は肉体の死と共に速やかに霊流に還る。魂の保全が出来ればの話でしかないからね。そしてそんな技術は今の所開発されていない」


ふと、その言葉にスオは違和感を覚えた。何かとんでもない矛盾を言われた気がしたからだが、どうしてもこれという答えが出てこずにいるとエオメルが話を継いだ。


「じゃあやっぱり死者蘇生なんて出来ないんじゃないの?」


「だが、現実にケレブリアンという女がいる」


「……つまり、ケレブリアンを蘇らせた連中には世の中に出回っていないそういう技術を持っていると?」


「じゃないかなあと思うね」


ありもしない肩をすくめるようにしてどこか投げ遣りにアレクトは答えた。


結局、憶測でしかない結論が出たばかりで果たしてエオメルにとって有意義であったかどうか。スオがその顔を盗み見るように視線をやると深く目を閉じて考えこんでいるようだった。


「あの、エオメルさん?」


「何かな」


「エオメルさんはケレブリアンと何か関係があったんですか?」


キーアの質問にエオメルは困った様に口をムズムズと動かしたかと思えば、にへら、と笑った。


「……顔見知りではあったよ。よく見知った間柄とはちょっと言えないだろうけどね」


「当時はあんなじゃなかったんですか」


「まあね。聖歌隊は能力も勿論だけど人間性も見られる。話に聞いたような人格破綻者じゃなれないよ」


その言葉も声も決して強いものではなかった。しかし、頑とした意思のようなものがあり、これを曲げさせるのは難しいだろう事は伺い知れた。


……それはすなわち、このエオメルとケレブリアンには何かしらの間柄があったのだろうという事を察せさせるものであった。


コンコンと扉を叩く乾いた音がした。


「千客万来だな!今度は誰だい」


「ヒッツだが、入ってもいいか」


その言葉にキーアがまたも立ち上がり扉を開いた。


そこに立っていたのは言葉の通りヒッツであったが、その面相はどこか陰を帯び、目元に刻まれたくまがより顔の陰影を深めていた。


その、どこか恐ろしげな瞳が室内にある予定外の異物を見つけ、まるで敵を見るようにじろりと動いた。


「教会の。ここに何の用だ」


「やあ、魔術師さん。彼らにはケレブリアンの話を聞きたくてお邪魔させてもらっているんだ」


険悪な響きを持ったヒッツの声を気に留めるでもなくエオメルは屈託ない笑顔で受け流してみせたが、そのわざとらしいくらいの笑顔がかえって気分を害したのかヒッツはあからさまに舌打ちをした。


「うろちょろと図々しい。用事が済んだらとっとと退去してくれ。部外者め」


「すまないね」


にこりと笑って意に介した様子もなく謝るエオメルにヒッツは鼻白んだように冷たい視線を送ると、その目をキーアらに向け直した。


暗く淀んだ目だった。ここにありながら、まるで別の世界を睨んでいるような、そんな目だった。


「……君ら。アークティーアに行くつもりだったんだろ」


「え、ええ。はい。そうです」


「西舷梯駅が消滅し、西側区域に第五段階霊素獣がいた痕跡を見つけていることから調査が行われる事になった。しばらく西部への運行は見送られることになるそうだ」


「……ということは、キレイには行けそうにないな」


アレクトが唸りながら言った。


「そうだ。一応言っておくが歩いて行こうなどと思うなよ。西部は原則封鎖状態にある」


どこか突き放すような物言いにキーアの表情が沈み、それを見たスオの眉根が歪んだ。


「俺達にレンレセルへ帰れって言うんですか」


「今は霊素濃度が高すぎてアークティーアに行くルートはキレイを通らなきゃ他にないし、キレイへは西部ルート以外ないだろう」


言うべき事は言った、そう言わんばかりに踵を返しヒッツは部屋を出ていった。残されたキーアは表情を暗くし、それを見るスオもまた肩を落としている。アレクトはどこ吹く風といった様子である。


「ふむ」


そんな中、エオメルが鼻を鳴らす。


「君ら、アークティーアに行きたいのか。じゃあ僕達と一緒に行くかい?」


「アークティーアに行く方法があるんですか?」


身を乗り出すようにしてキーアが聞くとエオメルは締まりのない笑みを浮かべて頷いた。


「教会の方でおさえてるルートがあるんだ。北部ルートを使ってシジューを経由するルートがね」


「ははあ。そりゃ有り難い話だけど、教会はそんなの魔術院に教えてもいいのかい?」


アレクトの問いにもヘラヘラと笑ったまま頷く。


「別にいいよ。隠してるわけじゃなくて通りたかったら連絡入れてねくらいの扱いだしさ。まあ、大っぴらにしてるわけじゃないのは確かにそうなんだけど」


「アレクト」


許可を求めるようにキーアが呼びかけると、アレクトはまるで父親のように鷹揚に頷いた。


「お願い出来るなら、是非とも同行させてもらいたいね。見ての通り、いたいけな少年少女に愛らしいマスコットしかいないので聖鈴騎士殿が居られると非常に心強い」


聞き慣れない単語にスオが首を傾げた。


「聖鈴騎士?」


「へえ」


エオメルの声は感心したようで、どこか楽しげだった。


「よく分かったね」


「はっはっは。まあね。魂を見れば一発さ」


「聖鈴騎士って何?」


キーアの問いかけに頷いたのはエオメルだった。袖をまくるとその下から小さな金色の鈴が澄んだ音を響かせながら現れた。


「教会における戦団みたいなものでね。身分証明としてこの鈴を持たされている」


一見すれば、それはどこにでもある鈴である。とても身分証明に使えるようには見えなかった。


「この鈴は高濃度の霊素に晒され続けてきたせいで霊素が染み込んでいてヒト一人分くらいの魂に相当する霊素量を含有してる。ここに僕の騎士としての個人情報が登録されているんだ」


「へえ……成程ね、だから魂を見れば分かるって言ったんだな、アレクト」


アレクトは答えず、またも肩をすくめるようにしてみせた。

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