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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
シジューで
41/189

41・承

登場人物


キーア

十年前の大陸大横断鉄道に何者かによって魔術をかけられた上で荷物として積み込まれ魔術師の国レンレセルへ送られた少女。当時の記憶は曖昧である。魔力を精製することが出来ず休学していたが師匠であるカウツの計らいで故郷への旅を許される。


スオ

十年前、カウツに連れられレンレセルに来た少年。戦団に入るため訓練していたがキーアを守るため共にレンレセルを旅立つ。精霊という体質をしており莫大な魔力を精製することが出来る。キーアに対して依存しており自身の命よりもキーアを優先する。


アレクト

カウツの作った銀色の体毛をしたウサギ型の人造生命体。妙に博識でありキーアとスオの教育も担った。キーアが旅立つにあたって同行する。皮肉っぽい性格をしており意地悪な面もあるが保護者として二人を第一に考えている。


カウツ

キーアとスオの師匠兼保護者。戦団の魔術師であったが現在は学部の教職についている。天才として名高く教科書にも載る程。一方で病弱かつ貧弱であり魔術の補助がなければ日常生活にも支障をきたす。

センティーアから離れた西の林に二人の男女がいた。鬱蒼と暗い森の中で少し開けたその場には明らかに不釣り合いなスーツ姿の男と小綺麗な格好をした少女である。


少女の目の前には明らかに不自然な影があり、まるでフライパンのように円形に広がっていた。


その円形の影が波立ち始めると水面下から上がってくるように一人の女が現れた。


死人のような顔、ボサボサの手入れもされてない髪。ケレブリアンであった。


二人の姿を認めケレブリアンが口の端を歪め笑った。


「……よう、テメエら」


「ようではありません」


少女はやや強い語調でぴしゃりと言い放った。


「貴女は自分が何をしでかしたのか分かっているのですか?」


「知らねえなあ……。アタシは何をやっちまったんだ?」


開き直った態度が癪に障ったのだろう。少女の眉間にシワが寄る。苛立たしげにカツカツと靴底で土を蹴ると「舷梯駅を消し飛ばせ等と誰か言いましたか?」と険のある声で責め立てた。


ケレブリアンは薄く笑った。少女を小馬鹿にした笑みだった。


「ああ、それか……。知らねえだろうがアタシは厳命を受けてたのさ」


少女が後ろを振り返るとスーツの男は軽く首を横に振った。


「誰にですか」


「天の声」


「ふざけているんですか」


「いやあ、大真面目さ。アタシは何しろ神に仕える身の上なんでね」


ふざけ半分で口にするケレブリアンに少女の口元がヒクヒクと痙攣した。やがて大きく息をつく。


「方舟も無しに貴女は神の声を受信出来るんですか。それなら聖歌隊などという学芸団などやっているべきではありませんでしたね」


「殺すぞエドガー」


「私をその名で呼ぶなと言ったはずですよ」


厳しい視線が交わり火花が散る。一触即発の気配にスーツ姿の男が微笑ましいものを見るようにして笑った。


「そこまでにしておこうか、リンカ嬢」


「部長、しかし……」


「ケレブリアン」


「何だよクロス」


「君がやった事はどの視点から見ても益がない行為だ。我々も組織である以上、信賞必罰に則ってその罰は受けてもらわねばならない」


「ああ、そうかい。どうする?殺すか?」


クロスと呼ばれた男がゆっくりと横に首を振る。


「君には今後も実験のため生きていてもらわねば困る。そして罰を定めるのは私ではない。ガトー組合長の決める事だ。故に君には本部に戻ってもらう」


「……はっ。まーたあのクソ退屈な墓穴に戻れってか。ムカつくわ」


「退屈も苛立ちも生きていればこそだよケレブリアン。人生は絶えず輪転する。いつまでも同じ、という事はないさ」


「ひっでぇギャグだな笑い殺す気か」


「そんなつもりはないよ。まあ、なにはともあれ少し休むといい。あちらにいい塩梅の草むらがあったよ」


「……ふん。食えねえ野郎だ」


捨て台詞を残してケレブリアンが去ると、リンカと呼ばれた少女がクロスを睨めつけて言った。


「部長、あの女に甘すぎるのでは?」


「そうだね。彼女の尊厳の尽くを奪ったのが私達でなければ、私も彼女に対して強く出ていたのだろうけどね」


その言葉に、リンカは一瞬言葉を詰まらせた。


「それは、ですが、あの女が傍若無人に振る舞えるのはそれこそ私達のおかげです。それを……」


「彼女の沙汰はガトーが決める。私達では何も決められないよ」


「……」


「それより、成果の確認をしよう。霊核の分離は上手く機能したかな?」


「……はい。ただ、戦力の低下は見過ごせないレベルですね。本来の出力の七割程度、一度疑似霊核を破壊されてからは更に低下しています。三強相手にはまるで通用しなかった模様です」


「想定通り、とはいかなかったか。黒焔獣の方は?」


「五十体中四十体が三十分以内に撃破されています。戦団の魔術師は三人……学生にも一体倒されていますが、この学生は精霊のようですね。霊素を吸収された後、魔力弾で消滅しています」


「それは図らずもいいデータが取れたと喜ぶべきかな」


「調整を受けた個体ではないので、完全な参考データにはなりませんが……貴重なサンプルにはなりました」


「さて、なかなかの成果だったね。精霊灯も問題なく機能したようだし、魔術師の遺体(・・・・・・)も手に入った(・・・・・・)


「予定にはありませんでしたが、僥倖だったと言わざるを得ません。舷梯駅は……言い逃れできませんが」


「君が気にする必要はない。私の責任だからね」


「……」


「まあ、ガトーの事だからそんなに気にしないとは思うよ」


「支配者には臣民を管理する義務があります。適切に徴収するためにはその環境を用意してやる必要があります」


「……そうだね」


「いずれ従える者共です。恭順の意を示しやすい様にしなければならないのに……」


「いい代官になりそうだね、君は。リンカ嬢」


暗い森の中、二人は並んで歩き出す。やがて森の中に紛れて姿が見えなくなった。


魔術師達がやってくるのは一時間も後の事である。彼らには二人の事など知る由もない。

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