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戦団三強の一人、カイは準第五種交戦資格保持者である。
その対応する霊素獣は輝翼鳥。
輝翼鳥の戦闘能力として特筆すべきは広域精神攻撃であり、交戦するにはこれに対応出来る事が最低条件だった。
カイは精神重圧に対して完璧な防衛対策が出来ていた。戦闘に際し必要な思考能力は保持したまま人格を機械的に運用する術を持っていたのだ。
戦闘能力そのものも非常に高い。重力魔術を起点に相手の動きを封じ存在領域を貫く機能に特化した杭と槌による攻撃は第五段階に相当する霊素獣であろうと倒しうるだけの力がある。
そして今まさに、その霊核を貫いた。はずだった。
再生は一瞬。一度崩壊したはずの体が翼を広げて蘇る。炎の如き眩さで洞窟の中を真昼のように照らしながら低い天井すれすれまで飛び上がるとカイに向けて霊素弾を連射した。
西舷梯駅を丸ごと消し飛ばした程の霊素弾である。防いでも障壁を保たせられず避けても爆発に巻き込まれて死ぬ。
ではどうするか?方法はいくつかある。その中で一番確率の高い選択をすることにした。
カイの目が見開かれると黒い光彩が水晶のように青く光る。それと同時に目の前に青い障壁が現れた。青い障壁は霊素弾に接触すると、霊素弾を飲み込み本来起こるはずの爆発も起こさないまま掻き消してしまった。
カイが手を開くと五本の指に四本の杭が挟まっている。顔から腰へと払うように手を振り下ろすと輝翼鳥の翼をそれぞれ二本ずつ貫いた。
甲高い悲鳴の様な鳴き声が洞窟内に響くが、今度は先程のように輝翼鳥の体が地面に縫い付けられることはなかった。
輝翼鳥の翼が燃えていた。いや、燐光が激しく揺らめいてそう見えているだけだが、それは自壊と再生の煌めき。杭がそれに巻き込まれて砕け散っていく。
それを眺めているだけではいられない。手に握られたハンマーを振りかぶり、跳躍と共に輝翼鳥に向けて叩きつける。
輝翼鳥の存在領域がハンマーを阻み、頭部とハンマーの間に魔力の光と霊素の衝突を雷のように迸らせた。
カイの杭は重力魔術と共に存在領域の貫通効果を持たせたものである。ハンマーもまた存在領域に対する効果を有してはいるが杭には及ばない。この攻撃では輝翼鳥の命に届かない。カイは当然それを分かっている。では何のために仕掛けたのか。
輝翼鳥は遠距離攻撃を主体とした霊素獣であり、近付けば自然と取れる手が少なくなる。
霊素弾を放とうとする度にハンマーで潰す。広げた翼から放たれるかまいたちの様な霊撃が四方から襲い来るのを円形にハンマーを振り回して潰す。鉤爪で切り裂いて来ようとハンマーで潰す。
大振りな取り回しの悪い武器を使っているように見えて、まるで小枝を振り回すかのような立ち回りは偏にカイの技量によるものだ。
輝翼鳥の近接戦闘力は確かに低めだが、それは飽くまで他の第五段階霊素獣に比べたらの話である。近接戦特化の人馬獣には劣るにしても第四段階に相当する力を持つ輝翼鳥を圧倒出来るのはさすがに戦団三強たるに相応しいものだった。
輝翼鳥の翼がはためき、周囲を囲むようにしてかまいたちがカイに襲いかかる。だが、カイの目にはその意図する所が読めていた。かまいたちを迎撃し生まれた隙を鉤爪で捉えようというのだ。
だが、それは通らない。カイの目が青く光り四方から迫るかまいたちは青い魔術障壁によって阻まれかき消えた。そして鉤爪をハンマーでかち上げ体勢を崩させると、またその手に杭が現れた。
杭を今度は直接胴体に叩きつけ、存在領域を貫き皮膚一枚に突き刺さったそれをハンマーで打ち付けた。
しびれる感触、反発する力。そして深々と突き刺さった杭が核たるものを砕いた気配がする。
打ち抜かれた勢いで地面に貼り付けられた輝翼鳥が甲高く鳴く。広げた翼が天井に向かって差し出され、燐光を発しながら消えていく。
体の末端から消滅していくように輝翼鳥の体が崩れていく。風化した紙細工のようにボロボロと緑の霊素に崩れていく。
ーーおかしい、と思った。
こびりつく違和感が視界を泳ぐ硝子体のようにしつこくそこにある。ハンマーを握る手を緩められない自分がいる事にカイは気が付くと周囲への警戒を強めた。
シュルシュルと風が渦巻くような気配を背中に感じた。振り返ると拡散した霊素が集合を始めている。その中心部に核らしきものがあるのが見て取れた。杭を放つと容易にそれを貫き、集まり始めた霊素が拡散する。
そして、同時にいくつもの風が渦巻くような気配を感じた。
シュルシュルと、それは悪い冗談のように渦巻いて輝翼鳥の形をとっていく。一つ、二つ、三つと次々に輝翼鳥が復活する。
その光景に、心を殺したカイの口からため息が漏れ出た。
「……馬鹿げてる」




