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暗く、狭っくるしい。輝翼鳥が転移させられたのはそういう場所だった。
己の輝く体躯がその暗闇を僅かに切り取って周囲の様子を浮かび上がらせている。
触れれば切れそうな岩肌が露出し、ゴツゴツとした足場が続いている。大気の流れる音が怪物の呼吸のように響いている。明らかに洞窟のようだった。
翼をはためかせると掻き乱された大気が渦巻き霊素の刃によってガリガリと周囲の壁や天井が削られ岩つぶてや埃が舞った。
いかな環境であろうと輝翼鳥には関係がない。今の動きだけでどういった状況に置かれているのかは理解した。
無理に動く必要はないが、窮屈なのは気分が悪い。移動をしようかともう一度翼を開くと、上から押さえつけられるような感覚と共に己の存在領域が恐ろしい速度で削られている事に気が付いた。
開いた両翼と尾羽、そして胴と首に光る杭のようなものが打ち込まれていた。
存在領域に阻まれ未だその肉体に傷は負っていないが身動きが取れない。だが、こんなものは輝翼鳥が出力を上げれば容易に跳ね返せる。
だが、不意に己の肉体が重くなる。まるで全身に重りを乗せられたかのように体が動かなくなった。そして杭が更に強く重く突き刺さってくる。
杭が回転を始めた。ネジのように螺旋を描いて穿とうとしてくる。その上で魔力の光が杭の頭を叩き始めた。
最早両翼は既に存在領域を撃ち抜かれ杭によって地面に突き刺されていた。さながら標本である。違うのは明確に殺意をもって輝翼鳥を壊すことしか考えていないという点だった。
闇の中から黒いロングコートの男が巨大なハンマーを持って現れた。短く刈り込まれた黒い髪、傷を幾つも刻んだ厳めしい顔、2メートルを超えるであろう筋骨隆々とした体格。
輝翼鳥は直ぐ様霊撃を放った。輝翼鳥固有の霊撃、精神重圧。霊素を特殊な思念波動として周辺に放ち、恐怖、恐慌を引き起こし、抵抗力のない者ならば気絶、あるいは精神崩壊させることさえ出来る。
センティーアでも輝翼鳥はこれを使用している。
確かに第五霊素獣の存在は恐怖を駆り立てるが、現れただけではパニックにこそなれど誰も彼もが気絶することはないだろう。輝翼鳥は精神重圧の霊撃を極低出力で放ち抵抗力の少ない一般人でも心が死なない程度の規模に抑えていた。
今は何ら力を抑える必要がない。全力での精神重圧の霊撃を放つ。
思念波による霊撃の厄介さは防御の難しさにある。魔術障壁の性能は術者の能力に左右されるが思念波という攻撃手段は極めて稀であり、防御に特別労力を割くという事がない。そもそも特別な術式を組み込まずとも通常の魔術障壁である程度の防衛は出来る。だからこそ魔術師達はセンティーアで倒れずに済んだ。
だが、それは極低出力だったからに過ぎない。最大出力の思念波はただの魔術障壁など何の意味もなく貫通する。これは思念波が質量でも魔力によるものでもない霊撃という性質を持つからこその特性であり、研究がまだ進んでいない今、実のところ魔術師はこれを防ぐ事が出来ない。
だというのに、その魔術師は平然としていた。さらりと柳が風を受け流すように何事もなく歩みを進めていた。
魔術師のブーツが伏して倒れる輝翼鳥の頭を踏みつけた。振りかぶったハンマーが胴体の杭に狙いを定め、振り下ろされた。
頭の割れそうな音が響き、輝翼鳥の存在領域が削られる。輝翼鳥が甲高い奇声を上げた。再びハンマーが振り下ろされる。
思念波が効かないことを悟った輝翼鳥は霊撃弾を放とうとするが霊撃弾を作る矢先に杭が落ちてきてはこれを破壊される。
完全に準備されていた。洞窟という巨大な鳥類には動きの取りづらい場所、体にかかる力、重力と杭による封じ込め。思念波も通用しない。最早、輝翼鳥には為す術がなかった。
魔術師がハンマーを振り上げる。存在領域はほぼほぼ削りきった。後は霊核を破壊するだけである。
最後の一撃が振り下ろされ、輝翼鳥が一際大きな鳴き声をあげた。




