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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
レンレセルから
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センティーアの中心部には政府機関が集まり、地上より離れれば離れるほどに威容を示せるとばかりに建物が高層化して竹林のような様相をしている。


その中にまあまあ控え目なことに最も高い建物でも五階建て程度に収まった敷地がある。魔術院支部であった。


支部は結構な敷地面積を誇り、通常の業務を行う庁舎の他に病院施設や宿泊施設などが併設されており、趣の違った賑わいを見せていた。


具体的には皆、魔術院のロングコートに身を包んでいる。青が最も多く、赤や黒も時々見かけるぐらい。魔術院学部に多く見られた白のロングコートはほぼおらずスオの白いロングコートは非常に目立っていた。


「ロングコートの色は、青が政府関係、赤が研究職関係、黒が戦団関係を示している。白は学部関係だからね、レンレセル以外じゃあんま見かけない。そりゃ悪目立ちするよね」


ケラケラと笑いながらアレクトがキーアの頭にしがみつきながらピョコピョコとした耳を揺らす。


スオ、キーア、アレクトの二人と一匹は魔術院支部に来ていた。庁舎に入ると学部生に一般人と怪しげなペットという面妖な組み合わせのため嫌でも注目を集める。居心地の悪さを感じていたところにこれである。スオがこれ見よがしにため息をついた。


「目立つ、目立たないで言えば明らかにお前が一番目立つだろ」


何しろ銀色の体毛をした喋るウサギである。どこに行っても目立つ。


「隠しきれない王気というやつか」


「寝言言ってないでほら、行くぞ」


庁舎の内部は広く、解放感があった。天井付近に並んだ窓ガラスから光が射し込み中二階までの吹き抜けになっているので天井も高い。静かでありながら人の行き交う様やインフォメーションが聞こえてくるので静まり返っているわけではなく、独特の活気がある。


内部の装飾は過度に派手ではないが厳かな高級感があり、うかつに手を触れるのは躊躇われた。


受付には背後に三つ首の犬のレリーフが飾られており、紛れもなくここが魔術院の関係であることを主張していた。


「あの、すいません。昨晩レンレセルから来たスオと言いますが、師匠ーーカウツからここに来るようにと言われて来たのですが」


青いロングコートを着た女性が受付をしていた。スオに声をかけられ、手慣れたようにニコリと人好きのする笑顔を浮かべた。


「はい。生徒証はお持ちですか?」


言われて差し出す。


「少々お待ちを……はい、確認しました。レンレセルから遥々お疲れさまでした。次の便が三日後となっておりますのでそれまでこの建物を出て左手にある宿泊施設でお過ごし下さい」


「ありがとうございます」


滞在許可書を受け取り庁舎を出ようとしたところで、見知った顔の男が庁舎に入ってきた。黒いロングコート、赤い髪、無愛想な顔つき。バッツの兄、ヴァッシュである。


「あ……バッツの……」


漏らすように口走ったスオの声にヴァッシュがねめつけるような視線を寄越した。


「白いロングコートそれに不気味なウサギ……そうか、カウツの弟子か」


「あ、はい。スオといいます。こっちは同じ弟子のキーアです」


「こんにちわ……キーアです」


それは少しの含みある挨拶だった。はじめましてではない、言葉こそ交わさなかったが会ったことはある。


キーアの言葉にか、眉根がピクリと動いた。どこか不愉快そうな、怒気をはらんだ視線に失言したか、とキーアはほんの少し後悔したがすぐにその視線は伏せられた。


「……ヴァッシュだ。カウツの弟子、確か戦団への入団を考えているんじゃなかったか」


「……諸事情あってアークティーアまでの旅をしています。戦団には来期に」


「悠長だな。才無き者は一秒でも多く訓練を積まねば落ちぶれる」


「……」


「カウツの弟子。お前が師と仰ぐ男は魔術院の至宝だ。その弟子であるという意味を今一度考えるんだな」


言いたいことは全て言った、とばかりにヴァッシュは歩き去っていった。


鉄の味がする。噛み締めた唇から血が滲んでいた。


間違ったことは言われていない。戦団を志す者として甘いことをやっている自覚はあったし、昨日の戦闘を見て己の未熟をいやという程思い知らされた。力も心も。


それでもなお、スオにはこうするしかない。そうしなければ自分ではない。


だが、これでいいのかという思いはどこまでも付きまとうのだ。


「スオ……」


その肩に手を触れようとしたキーアだったがどうしても躊躇われた。


何を言おうとしたのか、言ってはならないことを言おうとしていた気がしてならない。例え自身の選択に自信がないのだとしても、彼が選んだことを自分が否定してはいけない。そう思った。


だから、言葉に詰まる。何を言っていいものか判断が出来なかった。


「ふーむ」


唐突にアレクトが鼻をならした。


「スオ、帰るか?」


「……帰るわけないだろ」


「じゃあ、やると決めたことをやるべきだ。立ち止まっているよりかはいくらか建設的だからねえ」


何がおかしいのかケラケラと笑う。


尻を叩かれた。情けない面をするなと言われた。腹立たしくも、有り難く受けとるべきだった。


「分かったよ」


礼は言わない。望まれるまま歩き出した。

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