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おうちに帰るミソロジー  作者: かわのながれ
レンレセルから
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『お客様にご連絡いたします。当車両は緊急事態につき一時停車いたします。危険ですので車外に出ないようお願いします』


列車が停止するとそんなアナウンスが車内に流れた。ざわざわとざわめく乗客の中でスオとキーアの二人は窓ガラスに張り付いて外の様子を窺っていた。


「霊素獣が来るのかな?」


「そうだろうな。さもなきゃこんなところで止まらないよ」


窓の外はセンティーア平野が広がっている。背の高い草が風にたなびきゆらゆらと踊っている。


二人の黒いロングコート姿の魔術師が立っている。ユガではない。緊張した面持ちで忙しなく手の中の杖をいじったり、襟元を緩めたり締めたりを繰り返していた。


ユガはどうしたのだろう、と姿を探してみるがやはりいない。別の場所で待機しているのだろうか、と考えていると不意に扉がノックされた。


「はい」


今度はキーアが扉を開けた。その肩にはアレクトがだらけた様子でへばりついている。


扉を開くとそこにいたのはユガだった。相変わらずの緩さで片手をあげてヘラヘラと挨拶をして見せた。


「よお、お元気かい」


「ユガ、さんでしたっけ。どうしたんですか。何だか危ないこと起きてるんでしょ?」


「そうだねお嬢ちゃん。大変な事態になりました。そこでちょっとお嬢ちゃんの肩に乗っかってるそいつに話をしに来たのさ」


「ほう」


アレクトが名指しされてむくりと身体を起こした。キーアの頭の後ろに回りしがみついてふんすと鼻を鳴らす。


「何の用事だい」


「これから霊素獣を相手に回すが少々面倒な事態かもしんない。列車から離れて戦おうと思うけんどもその間、この列車を守っちゃもらえねえかね」


「ええ……」


思わず疑問の声を出したのはキーアである。何故アレクトに頼むのか。色々と優秀なのは勿論知っているがそんな事まで頼めるものなのか。到底信じられなかった。


だが、当のアレクトは、


「いいよ」


あっさりと承諾した。まるで事も無げに、日常の雑用を頼まれた程度の気楽さだった。


「おっ、助かるわ」


答えを受けとる側も似たような軽さである。自分が知らないだけで簡単な話なんだろうかとキーアが考えているとアレクトが頭の上でもぞもぞと蠢いた。


「その代わり一つ条件がある」


アレクトが振り返る。ウサギのくせに人間みたいなイヤらしい笑顔が浮かんでいた。


「スオに観戦席を用意してやってもらいたい」


「なっ」


驚きの声をあげるスオ。


「オッケー」


「なっ」


軽々しく了承するのはユガも同じであった。


「何なんだよ、お前、いきなり勝手な事……」


思わず抗議を口にするが、アレクトの笑みは崩れない。


「後学のためだ。行ってきな。カウツも同じようにさせるだろうさ」


「む……」


師の名前を出されては口をつぐむ他にない。それに、正直なことを言えば興味もあった。小さく息を吐いてキーアの顔を見る。少し不安げな表情をしていた。それが、自分がキーアの側を離れることが原因なのか、危険なところに赴くスオを案じたものなのか、断定できない。


(おそらく後者だろうけど……)


仕方ないとばかりに立ち上がる。キーアが危なくないのならそれが一番いい。が、


「あ、あの私も付いていっていいですか?」


とんでもないことをそのキーアが言い出した。


「い、いいわけないだろ。お前に何かあったらどうすんだよ」


「多分だけど、アレクトと一緒にいれば大丈夫なんでしょ?スオも一緒にいればいいじゃない」


「だからってなあ……」


「まあまあ。夫婦喧嘩はなんとやらだぜ子供達」


『夫婦とかじゃないんですけど』


「オーケー、とにかくなんだ。列車にゃ被害いかせねえようにするけんさ。ウサギにゃ頼んだが出番はねえように張り切るからお前らで固まってりゃ皆安心大丈夫い」


いまいち信用のおけないサムズアップで保証するユガに思わず疑惑の目を向けるスオ。その腕をキーアが取った。その表情には意思を曲げない決意があった。


「分かったよ……ユガさん、どうかお願いします」


仕方なしとスオが折れた。


「はっはっは。まあ、任せとき」


凄く心配だった。

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