異世界ビルダーズ
想像したことはあるでしょうか。
この地球とは別の、人や様々な生き物が住む星のことを。現在の地球の技術では観測されていない世界のことを。
もしかしたら空想でしかない魔法が実際にあったり、地球よりはるかに発達した科学技術をもっていたり、または人間という生物が存在しなかったりするかもしれません。
もしもそんな世界が作れるとしたら、あなたはどんな世界にしますか?
「……、ここは?」
けだるい体を起こすとそこは、すべて白に統一された部屋だった。
自分が寝ているベッドや、テーブルにソファー、天井に吊るされた照明や壁さえも真っ白に塗りつぶされている。 かすかな影で淡く輪郭が見分けられる。
見えないだけなのか、出入り口が見当たらない。
ただ壁掛けのテレビの画面が黒く浮かんでいるように見える。
「目がちかちかする。どうしてこんな趣味の悪い部屋にいるんだ」
思わずつぶやいた途端、テレビがブゥンという音を立てて映った。
「はいはーい、お目覚めですか? 体の調子はいかが? 再構成は上手くいったと思うんだけど?」
鮮やかな金髪を青いリボンでポニーテールにまとめて、白いワンピースを着ている。
その中でリボンと同じ透き通るような青い瞳が綺麗に映えている。その姿は思わず清楚な印象を抱いた。
今流行のVtuberってやつか、なんて思ったりもした。
しかし確実に残念な雰囲気を持っていて、まだ起きたばかりのテンションじゃついていけず固まっていると……。
「ふむふむ、なるほど? そういえば自己紹介がまだでしたね。ハローっ、はじめまして! ミラ」
「ストップすとおおおっぷ! や、やめろよそういうのぶっこんでくるの!」
危ない、確実に破滅の道をたどるところだった。おかげでしゃっきりとしたが心臓に悪すぎる。
「もう、人の自己紹介を途中で止めるなんて失礼しちゃうわ。私は『ミラ』よ!」
「なっっんだ、そうだったのか。未来でも明かりでもなんでもないんだな……。よろしくでいいのか、ミラさん」
ん、そういえば。どうして俺はこんなところにいるんだ。最期の記憶は。
「あっ!」
「うむうむ、察しのいい子は好きだぞ。何を隠そう、君は私の手で生まれ変わったのである! パチパチパチ~」
またしてもついていけないテンションだが、きっとタダで生き返らせたわけじゃないんだろう。
それが出来る超常的な存在であることも注意しなければいけない。
「そうそう、私はすっごいんだけど、ちょっとやりすぎちゃってめんどくさいことになったんだよねぇ。とどのつまり、星を造んなきゃいけないのよ?」
「星を、造る? それに、俺がどう関係してくるんだ?」
「そう、そこで君に白羽の矢が立ったのだ!」
ばばーんという効果音を鳴らしながら指をさしてくる。
「私としてはめんどくさいからやりたくない、だったら好きな人にやらせればいい。ウィンウィンの関係ってやつだね」
うんうんと頷き、自分だけ納得しているミラがそろそろウザくなってくる。
「おっと、前置きが長くなっちゃったね。それではあちらにどーぞっ」
彼女が後ろを指さすと、今までなかった扉が奥へ開いていた。
相も変わらず白い廊下の数メートル先には、また違う部屋があるようだ。
「ミラはどうするんだ? あっちにもおっきなテレビがあるのか?」
「それはだねぇ……」
よいしょっと、スポンという音とともにミラが画面から出てきた。
「なっ……っ!?」
「いい顔いい顔! ドッキリ大成功っ」
唖然とする自分を置いて、彼女は隣の部屋へと歩いていく。
置いていかれたことに気付いて、慌てて彼女を追った。この扉もいつまで開いているか分からない。
進んだ先の部屋に入ると大体一辺が約十メートルの正三角形のような形をしていた。ちょうど入ってきたところが一辺の真ん中あたりだろうか。
向かいの角から四メートルほどは、大きな円卓を六等分にしてはめ込んだように一メートルほどの高さがあった。
「さて、説明しよう。ここが君の創星の間さっ!」
「はぁ……」
「つれないわねぇ、まっいいから早速あのコンソールに両手をつけてみなさい」
そうミラが言うと、俺の手をつかみながら部屋の隅へ誘導する。柔らかい手の感触と優しいにおいに動揺した自分が恨めしい。
扉からおよそ五メートル弱、若干名残惜しくもミラから手を放し、コンソールというよりだだっ広いテーブルに両手をしっかりつけた。
『起動。主を天野光に設定。思考を読み取りシステムの最適化、及び主へ情報のインストールを行います』
手をついたところから部屋全体に光があふれると、聞き覚えの無い声が頭の中に直接聞こえてくる。
それと同時に情報が濁流となり頭を駆け巡る。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
何時間もたったように感じるが、一瞬だったんだろうか。全身から脂汗を流しながらも姿勢は両手をコンソールにつけたままだった。
フラットだった部分はキーボードやホログラムディスプレイ、各種描画ツール等々あらゆるデバイスが広がっている。
「適合完了ね。 ついでにやり方も分かったと思うけど改めて説明は必要かしら?」
ミラが満足げにこちらを見ている。
「知識は身に着けたらしいが、どこから手を付けていいかいまいち理解できない。チュートリアルってものがあるならお願いしたいよ」
「殊勝な心がけね、やり直しはきくからまずは自分の住んでた星をベースにするといいわ。一から何もかも造るよりは改造した方が感覚はつかめるよ。もちろん、本番は一から造ってもらうけどね」
「分かった、やってみる」
自分の左側に浮いているホロディスプレイを目の前に持ってきて画面を操作する。
「プリセットをロード、対象は『地球』」
『呼出完了。年代を指定してください。指定が無い場合は主の記憶の最後が参照されます。また表示後でも改めて設定することも可能です』
「とりあえず指定は無しで」
『適用します』
音もなく目の前に直径二メートルほどの地球が出現した。
「なるほど、まさに地球だ。折角だから過去の地球も見てみようかな」
数値で何年前かを指定してもいいが、連続的な変化を見たいから金庫についているようなダイヤルを出現させる。
キリキリとゆっくりダイヤルを回していくと直ぐに人の営みの後が消える。
「本当に人間なんて地球の歴史のほんの一部にすぎないんだな……」
さらにまわしていくと海の色が変わったり、全てが白に染まるような時期があったりこれだけでも面白い。
「これは……、本当に大陸変動っていうのは起きていたのか!」
少し早めに回すと明らかに各大陸が動いている。
「ちなみに未来を見れないのは知っているんだが、その理由はあるのか?」
『同位の存在による介入は予測不可能なため未来の開示は許可されておりません』
「なるほど、地球にも俺みたいな存在がいるってことか……」
「そりゃそうよ、じゃなきゃ生命の誕生も、その生命がずっと続いていくなんてありえないわ」
ミラが当然とばかりに頷いている。
「奇跡でもなんでもなかったってのを知ると、ちょっとばかしがっかりな気持ちだ」
でも、気落ちしてなんかいられない。地球を自分なりに改造したくてうずうずしている。
「まずは大きさ、それに伴い質量の増加、その材料はどうするのか。一つ調整しようと思ったらいくつものパラメータをいじらなきゃいけないのか。改造だけでもいつまでかかるか分からない」
大きくしようとしてそれをどの物質で補うか、水分を多くすれば各大陸の距離が離れる。
さらに、質量の増加に伴い重力の増加。それだけで環境ががらっと変わってしまう。
「うんうん、楽しそうで何よりね!」
もうミラの声さえ聞こえず俺は没頭した。
「これで、完了だ!」
何日、いや何年もたったんだろうか。
地球を改造するだけでシャレにならない時が経った。
「よしよし、完成したわね。でもこれはまだ練習。本場はこれからよ?」
ミラのセリフとともに、部屋の左右の壁が音も立てずに消え去った。
そこには、似たようなコンソールを操作している。
そして地球とは似ても似つかない星が五つ並んでいた。
「さぁ、あなたたちは異世界ビルダーズ。私を楽しませてね」




