恋慕
今回はハルがメインの回となっています。
ハル好きには堪らないですね!(……いるのかな?)
普段より長めなのでご了承下さい。
今日は待ちに待った演劇の日!ワクワクします。
10の鐘が鳴った頃に私の私室にリュカ様が迎えに来てくれるそうなので、それまでにおめかしをしたいと思います。
……といっても、この時代の流行なんて分からないし、どうしましょう。
「そう思って、ライラック商会の呉服屋にて、洋服からメイクまでできるように整えております。」
ぬっと、ドレッサーの前で悩んでいた私に急に影がかかった。
ひゃぁぁぁぁぁっっ!び、びっくりした。ハルか。
急に背後に立たれたから、反射的に殺しそうになっちゃったよ。
ふぅ。冷静に冷静に。
『ありがとう!嬉しいわ。流石はハルね。』
「ありがたきお言葉。本当はこちらに人員を呼びたかったのですが……」
『えぇ、そういうのはやめてね。私が移動した方が早いもの。』
「存じております。」
『じゃあ行くわよ。場所はライラック商会の本店でいいかしら?』
「はい。」
ハルが頷くのをみてから、シュン、と景色が変わって、緑に囲まれた中庭の様な場所に出た。
ここが、ライラック商会の本店裏庭だ。
どうやら、空間魔法で瞬間移動はロストテクノロジーらしいので、一応ひと目につかない様に移動している。
ちなみに、マヨネーズ商店の物資もここから運びました。(ギルド経営の店は主力商品の名前で呼ばれます。)
という訳で、店に入ると、やっぱり凄く歓迎されました。みんな忙しいだろうに。
用件はつたわっていたようで、すぐに呉服屋の入っている店舗に案内してもらえました。
美人なお姉さんを中心として、10人くらいの男女が綺麗なお辞儀をしてくれるものだから、私が偉い人になった様な気分になりながらお姉さんと挨拶する。
「ライラ様。ご来店を心よりお待ちしておりました。今日はカフェにて昼食を取ったのちに、店をまわり、演劇鑑賞のあとにディナーという日程と聞いていますが、途中でお着替えされると思うので、午前中用に動きやすい服装にしたいと思っていますが如何でしょうか?」
『え?何故途中着替えるのでしょうか。』
「演劇鑑賞をする際には正装であることが求められます。また、ディナーでもドレスコードがある店が多いので、演劇の会場の横には着替えのスペースが用意されており、そこで男性側が用意したドレスに着替えるのが慣習となっているのです。」
『成る程。説明ありがとうございます。……えぇ。それで構いません。』
「了解致しました。それでは、細かいところを決めていきましょう。もう鐘3つ分しか時間は残されていませんから。さぁ、最初は入浴とマッサージですよ!」
………え?鐘3つ分しか?十分じゃない?
と、思ったその瞬間に2人のお姉さんに連行されました。
………連行されてから、お風呂にマッサージ、香油を塗って服を何回も脱いだり着たりして、メイク、髪型まで揉みくちゃにされながら仕上げました。
つ、疲れた………。
でも、仕上がりとしては元々ライラは可愛いですが、めちゃくちゃ可愛く、美人になってます。
薄紫色の生地にお花が散りばめられ、何重にもレースを重ねたフワッとした可愛らしい膝丈のドレス。
髪型ら編み込んでゆるく纏めた薄紫色の髪に小さな青い花が沢山挿されています。
メイクの方は少し粉を叩いて紅をさしたくらいですが、それでもかなり大人っぽく見えます。
お姉さんたちも、ふぅと満足そうに息を吐いています。
……私を着飾っている間のお姉さんたちの笑顔は忘れません。
「お気に召していただけたようで、私達も嬉しいです。思いの外遊んで……こほん。時間がかかってしまったので、急いでお戻りになられた方がよろしいかもしれません。ハル様をお呼びしますね。」
『分かったわ。ありがとう。』
暫くしてからハルがやってきたが、ライラに目を向けた瞬間に時が止まったように動かなくなった。
『ちょ、ハル?どうしたの?具合でも悪いの?………おーい、はるーーーー』
焦点の合わない目で歩く途中の姿勢のまま笑顔で固まっていて動かない。
『…………そんなにこの姿、変だったかしら?』
思わずそう呟いだがその言葉に反応するようにハルが動き出した。
「そんなはずがございません!!天使のような愛らしさと
、高嶺にある星の様に手の届かなそうな高貴さが同居していて、概念としての完全体、そう、つまり、神!!美しき女神が降臨なされたかと思いました!!!!紫色の髪に合わせた洋服と→¥8☆○×€¥%」
微妙に白けた空気の中、
『……行きましょうか。』
「ええ。そうなされたほうが宜しいかと。」
そう言って私は『瞬間移動』と唱えたのだった。
ところ変わって自室にて、リュカ様を待っています。ハルの謎の讃歌も、終わったようで一安心です。
そんな、自室に戻った安堵感と心地よい静寂が支配する空間を破るように、ハルがぽそり、と言葉を発しました。
「……ライラ様。」
おそらく、聞こえないと思っていたのだろう。それくらい小さな声ではあったが、常時身体強化を使って感覚が研ぎ澄まされている私には、余裕で聞こえてしまった。
『なぁに?』
私が反応すると、ハルは肩をびくりと震わせてから、ゆっくりと私を見た。
そして、ハルは心配で、それでも期待を滲ませる声で、本音が溢れてしまったように声を発した。
「私は、ライラ様のその美しい姿を他の者に見せたくはありません‥…と言ったら、貴方様はどのように思われますか?」
…………うーん。前からそんな気はしてた。多分私のことが好きなんだろうなぁって。鈍感ヒロインでも無いしね。いい年だし。
でも、それは、私が彼をどん底から助けたから勘違いしてるんじゃ無いかって思ってたけど……。
『あら、私の考えてる事は分かるんじゃなかったの?』
そう言って少し揶揄った事を書いてみたらハルは少し驚いた顔をした。
そして、急にソファに座っている私の手を取って、鼻先が触れる距離まで顔を寄せてきた。
ふわりと、息が顔にかかる。
膝をソファーにかけたのだろうか。ギシリ、と音が鳴る。
少し顔を赤くして、それでも初々しくは見えない、余裕と色気を放ちながら。
その鋭利な美しさを持つ顔がグッと近づくものだから、私はびっくりして動けなくなってしまった。
そこに畳み掛けるようにして彼は言う。
「ライラ様。私は貴方に助けていただいたこの感情と恋慕の情を勘違いしているわけではございません。本当に、本当に………貴方のことが好きなんだ。」
ひゅっと、小さく息を飲んだ。
彼の刺すような目は、あまりにも真剣で、子供だ子供だと思っていた男の子の本気を見てしまった。
私にはそんな覚悟はなかったし、何より……
………私はそっと、両の手で彼を押し返した。
何か大切なものを落としてしまったような、取り返しのつかない事をしてしまった、深い悲しみと絶望の表情を、見たとしても。
今まさに項垂れて、どんな顔をしているのかもわからない、としても。
そして、そっとハルを抱きしめる。
『ハル。今日の先約はリュカ様よ。あなたなら分かるでしょう?』
バッと顔を上げ、捨てられる前の子犬のような顔をしながら、ぽそりと。
「…………全てはタイミング」
『そうよ。流石、私の執事ね。』
そう言って無責任に、私は満面の笑みを浮かべた。
廊下で金色がチラチラと光っているのも知らずに。




