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無音の令嬢  作者: お狐
2章 『無音』の令嬢
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苛立ち

ハルがスティック状の野菜を持ってきてくれたけど、野菜が花のように広がり、ニンジンなどは薔薇のようにカットされ皿を彩っている。………いや、本当に有能すぎやしないかい?


まぁ、そのお陰で王族に出せるギリギリのラインはクリアしてる……かな?

ということで、いざ実食。


整った薄い唇に近づけられていくキュウリ……もとい、キュウカマー。シャクリと一口、一拍おいて、目を見開いて……



「お………おいしいっっっ!!!!」



どうやら、お気に召したらしい。よかったねぇ。



『お気に召されたようで、嬉しいです。』


「あぁ、本当に美味しいよ!実は生野菜があまり好きではなかったんだが、まよねーず?をつけるとすごく美味しいと思ったよ!ライラ!素晴らしいアイディアだ!これならいける!作り方もシンプルだから量産についても申し分ない。」


『では、先ほど話した通りで宜しいでしょうか?』


「あぁ、後は私が進めよう。」




マヨネーズを作りながら決めた話は、


・卵は数量限定のプレミアムバージョンとして虹の不死鳥のたまごを使う。

・通常バージョンは普通の鶏卵を使う。

・商業ギルドに申請してマヨネーズ工房を作り、レシピを商標登録する。

・道具一式はライラが作り、その他は人力で済ませる。

・目標を達成し終わり次第、レシピを一般公開し広め、その後の運営は商業ギルドに一任する。





というものだった。何故全自動のマヨネーズ製造機を作らないのか、というと雇用場所を増やしたいというのがリュカ様の考えのだそうだ。素晴らしい考えだ。また、私が考えたものはオーバーテクノロジーになるらしい。……リュカ様は最近私への認識が酷い気がします。


でも、終わったらギルドに丸投げってちょっとどうかと思うけど、これはこの世界と私の考えの違いなのかなぁ?あと、レシピを一般公開したらマヨネーズ売れなくなるんじゃないの?……よく分からないから、あとでハルに聞いてみよう。


ともかく、細かいことはリュカ様が全てやると言うことで、私はこれでお役御免だそうです。……ちょっと寂しい。



「あぁ、そうだ。ライラ、今は忙しくて無理だが、終わったら一緒に演劇でも見に行かないか?」


『演劇ですか?』


「あぁ。最近凄く流行ってる劇団の恋愛ものなのだが、お礼にと思ってね。勿論、他に希望があれば言って欲しい。」



演劇かぁ。前世でも夫と一回しか行ったことが無いなぁ。

恋愛もの……リュカ様は私に気を使ってくださったのかな?じゃあ、それなら……



『では、2つほど希望が。』


「あぁ、なんでも言ってくれ!」



断られるとでも思っていたのかな?パッと輝くような笑顔を浮かべながら、嬉しそうにリュカ様が答える。



『1つ目は美味しいケーキを食べることができるカフェに行きたいです。2つ目は、リュカ様が見たいと思っていらっしゃる演目を見たいです。』


「1つ目はとっておきの店に連れて行くことを約束するけど………2つ目は私に気を使っているのかな?」



リュカ様は少し語気を強めながら聞いてくる。あ、あれ?何かまずいことでもしてしまったのかしら?


ちよ、ハル、ステイステイ。飛びかかろうとしないで、やめてやめて。


うーん。リュカ様は気を使われるのが嫌なのかな?でも、これは私の本音なのです、リュカ様。


嫌われるのは恐ろしい。リュカ様の苛立ちなんて今まで見たことが無いから、少し怖い。でも、きっと。



『いえ、リュカ様ならきっと英雄譚などをお選びになると思ったので。……演劇などは2人で楽しみ、終わった後に何が良かった、どこが好きだったと話すから楽しいのだと私は考えています。私も英雄譚は好きなので、それなら2人で楽しめると思ったのですが、お嫌だったでしょうか?』



リュカ様はハッと、何かに気づいたように目を見開き、泣きそうなほどに顔を歪ませたあとに……男性に使うのはおかしいかもしれないが、花が綻ぶように笑った。とても、自然な笑みだった。



「あぁ、そうだね。……先程は強い言い方をしてしまってすまなかった。実は、私も英雄譚を見たいと思っていたんだ。一緒に観に行ってくれないだろうか?勿論、とびきりケーキをご馳走させて貰おう。」


『えぇ、勿論喜んで。』


リュカ様の中で何かが変わったみたいね。良かったわ。

それにしても、楽しみだわ!






《リュカ目線》


まさか、ライラにこんな風に気を使わせてしまうほどに、立場的な格差が開いているとは思わなかった。そのことに考えが及んでいなかった、気づいていなかった自分が恥ずかしいし、何より、何より………


「2つ目は私に気を使っているのかな?」


違う、こんな風に言いたいわけじゃ無い。

ライラにそんな顔をさせたいわけじゃ無い。


あぁ、違う。違うんだ。私をみて、私をみて!!

リュカ王子じゃない、()()一目惚れしたライラには、私と接して欲しいんだ!




………もう、これで終わりなのかな。







『演劇などは2人で楽しみ、終わった後に何が良かった、どこが好きだったと話すから楽しいのだと私は考えています。私も英雄譚は好きなので、それなら2人で楽しめると思ったのですが、お嫌だったでしょうか?』






……………え?


なんで、なんで、そんな風に私の欲しい言葉を君はくれるのかな?


なんで愛らしいんだ、なんて愛しいんだ。

少し困ったようにこちらを見る目は、リュカ王子に媚びる目と似ているようでまるで違う。()を《・》心配している目だ。


そんなことに一瞬でも気づけず、苛ついた私はなんで愚かなのだろうか。


彼女の隣にいる資格は私にはないのかもしれない。





太陽のように眩しくて、月のように優しく、花のように甘く、蝶のように可憐な君の。


そんなことは分かってる。それでも。


太陽に近づこうとする愚か者がいてもいいと、思わないかい?







……ほうら、優しい彼女のこんな笑顔は今だけだとしても、私のものだ。


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