最後の会話
老師に試練を行うことを宣言されてから早4日。
学園に入るにあたっての基礎知識の確認と、通常の魔術を確認したり……としていたらあっという間に過ぎたなぁ。
あぁ、見得切ったはいいけど明日の朝が憂鬱だぁ。
なんか、雨がやばいし。余計気分沈むわ。
コンコンッ
ん?こんな夜中に誰だろう?
「はい。今開けます。」
「こんばんは。夜遅くにごめんね?」
へっ!リュカ様!?
寝巻き……ヤバイな。うん。
「いえ、こんな格好で申し訳無いです。」
「いや、とてもかわいいよ。……と、少し話してもいいかな?」
「はい。どうぞお入りください。」
わぁ、緊張するな。
夜遅くにイケメンと2人きりって……美味しいポジションだね!
……まぁ、絶対何も起こらないと思うけど。
「それで、話っていうのはね……特には無いんだ。明日からライラの声が聞けなくなっちゃうし、学園の入学式もあるから少し心配になってね……」
……うっ!その照れ顔の破壊力!ヤバイ!
「ふふっ、リュカ様でも心配になる事なんてあるんですね。……私は大丈夫ですよ?」
「そうかい?……僕だって心配になる事もあるよ?」
「……ホットミルクはお好きですか?私、落ち着かない夜はホットミルクを飲んで眠るんです。」
「そうなのかい?…うん。頂こうかな。」
本当に心配してるみたい。一人称が『僕』に変わってる。
……殆ど老師(私)のせいだと思うけど。
「どうぞ、あったまりますよ。」
「あぁ、ありがとう。………美味しいよ。温まる。それに、いい香りがする。」
「ふふっ。ありがとうございます。少し香辛料と蜂蜜を加えてるんです。」
「あぁ、そうなんだ。……落ち着くよ。」
「それは何よりです。」
雨と風の音が絶え間なく聞こえる中、沈黙が流れた。
……それでも、なんだか心地いい静かさだなぁ。
リュカ様も落ち着いたようだし。
「………ライラは、どうしてそんなに魔術を極めようとしているんだい?そんな……声が出せなくなるなんて、茨の道を通ってまで。」
あぁ、やっぱり。私が心配させてしまってるんだ。
……リュカ様はあまりにも優しすぎるな。
禿げてしまったりしないかしら?……なんてね。
「ん?ライラ?なんで笑っているんだい?」
あっ!やばい!顔に出てた!!
すっごい訝しげな顔をされてる!
「いっ!いえ!………えっと、私はずっと力が欲しかったのです。……また、私は冒険者になりたいという夢を幼少期から持っています。そのためにも、力が欲しいのです。」
あぁ、そうか。私は、ライラは、力が欲しかったのか。
魔術を死にそうになりながら極めたのは、ただ趣味だからだと思っていたけど……
ただ、純粋に夢を叶えるためにやってたんだ。
……なぁんだ。それなら。
どうしても、人生の全てを捧げるほどに魔術に打ち込めなかった。
どうしても、老師に張り合う形になって、教えを乞うことは出来なかった。
どうしても…………要らないプライドが捨てられなかった。
一つのことに打ち込めないのが、そんな自分が嫌だった。
「あぁ。リュカ様……ありがとうございます。」
「ん?何がだい?」
「いえ、リュカ様は私のことを心配して此方に来てくれたのですね。」
「へっ!?いや、その……」
「ふふっ。リュカ様が焦ってる姿をみて元気が出ました。」
「な、な!?」
「ふふふっ。」
真っ赤になってる〜。……多分からかわれた事なんて無いんだろうなぁ。
おっと、からかいすぎないようにしないと。
「もしかして、からかったのかい?」
「ふふっ!それはどうでしょう?」
「……あははっ!そうか。………ライラ、僕は、何があっても、君の味方だと誓おう。」
時間が止まったかと思う位に真剣な顔。
そして……悲しそうな顔。
「では、良い夢を。……ライラと話せてよかったよ。」
窓に当たる雨粒の音もさっきよりも大きくなっているようだ。……止む気配は無い。
そんな音にかき消されたのか、リュカ様の声は私に届かなかった。