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月夜の鬼  作者: 南河原 候
3/5

「………」


私の前に新しい主人が居る。


新しいっと言ってもこの人が初めてのご主人様だけど。


黒色の髪に黒い瞳………黒鬼だ。


私達鬼人族には髪の色や瞳の色でどの鬼かある程度分かる。

たまに違う鬼同士で誓いを交わして混合した鬼人族が生まれることもある。

その場合は男性の方に分けられる。


「おい、えっと、名前はあるか?」


新しいご主人様からお声が掛かった。


私は怒らせない様に直ぐに返事を返す。


「いえ、名前はありません。よろしけれぱご主人様が付けては下さいませんか?」


「ふむ、そうか………」


こうして置けば私は多分傷つかずに済む。


周りを見れば直ぐに分かってしまう。質の良さそうな畳や襖、高そうな掛け軸とか色んな物がある。


この人はお金持ちだから、今日から私はこの人に酷い事をされる。


怖い………………だけど、それが私の人生であり生きるために必要なこと。


黒鬼のご主人様はこっちに歩いて来て私の前でしゃがんだ。


「えっと、そんなに俺って怖いか?」


「へ? い、いえ、そんな事は………」


「いや、その、良く知り合いから目付きが悪いから怖いとか、背が高いからとか、いや、すまん。何でも無い」


(何で、この人はそんな事を聞くの? 意味が分からない………………あ、もしかして)


自分が震えてることに私は気づいた。


(この人は、私が震えてるから心配したの?)


「ふっ、うふふふふ!」


「へ? 何かあったか!」


「あ、ごめんなさい。その、ご主人様が私を心配して下さったと思うと………………その、ごめんなさい」


私は少しおかしくなってしまいご主人様を不快に思わせてしまった。


ご主人様は私の方に歩いて来た。これはお叱りが来る。


あぁ、何で笑ったんだろう。


「ふぇ? あの、ご主人様?」


ご主人様は手で私が流していた涙を拭き取ってくれた。


「あのなぁ、どう思ってるか知らないが、俺はお前に酷い事はしない。信じられないかも知れないが俺はしないと約束する。それと、お前の名前は(さち)だ。意味はまぁ、これから幸せなことがあります様にだ」


何で、この人は優しくするの? 奴隷の私なんかに何で優しくするの………………?


意味も分からない。もしかしたら優しくしてからのどんでん返しかもしれないけど私には分かる。


こんな優しいお顔をなさるお方がそんな酷いことをする気は無いと私は思う。


「はい。ありがとうございます、ご主人様」


「あとなぁ、ご主人様は止めろ。俺は月夜だ」


「えっと、その、月夜様?」


「まぁ、それでも良いが。身近にそう呼んで来る奴が居るからな」


この人は何なんだろう? 本当に………………。


こんなに優しく話しかけてくれたのはこの人が初めてな気がする。


「それと、幸の奴隷印紙は消したからな」


「へ? あれ、ほんとだ」


今気づいたけど、前まであった首辺りの違和感が無い………。


何で、そんな事をするの? 何で、私は何も出来ないって判断されたの? まだ、何もしてないのに。


嫌。そんなことは嫌だ。こんな優しい人から酷い事をするご主人様に変わるのは絶対に嫌だ。


「あの、何故、私から奴隷印紙を消したのですか?」


「ん。普通に邪魔だろ、そんなもの。それにこれでお前は自由だ。好きに生きろ」


「好きに生きろ?………………」


そんなこと初めて言われた。今までは主人に従って生きることを強いられてきた。


だったら、好きに生きて良いなら………………。


「あの! 私は月夜様のもとに、側に居たいです! 私は貴方の側に居たいです! 何でもします、雑務でも夜の奉仕でも私は貴方の側に居たいです!」


こんな人が主人なら私は良い。それにここを出て行ったとしても直ぐに捕まって次は酷い事をする主人なら多分、私は耐えられなく死んでしまいそうだから。


「え。あぁ、そうか………良いのか?」

「はい」


もし、これだけ真剣に頼んで駄目なら………。


「はあ?! いや、何で脱いでる!?」


「その、私は初めてですけど、満足はさせられると思います! ですから、お側に置いて下さい」


私は服を脱いで月夜様に余り無い胸を押し付ける様に寄り添った。


「わ、分かったから服を着てくれ! それと胸も当たってるから離れろ!」


ん? 反応的に………………こういうの馴れてない人?


幸はさっきまで酷い顔をしていたのに今はニヤッと悪い事を思い付いた悪戯の顔をした。


「月夜様、私はその、まだ誰ともした事がありませんから、私のここはまだ新品ですよ」


「ふぇ!?」


月夜様の手をそっと私の下辺りに当ててあげると可愛らしい声をだした。


「月夜様、ほら、早く布団に行きましょう。私我慢が出来ませんよ」


「わぁぁぁぁぁぁ!? や、止めろぉぉぉぉ!?」


幸は月夜に無理矢理離されてげんこつを食らった。


           ☆


「たっく………何するんだ」


「ふぁい。ごめんなさい」


なんなんだ、いきなり………別にそんな事をしなくてもって、それを強く強いられてきたから今のは仕方ないのか。


「すまない。痛くないか?」


幸にはそういったことではないと許せない環境に居たんだから今のは許してあげないと駄目だよな。


だけど、これからはそんな事をしないでも良いって教えてあげないと。


「じゃあ、今日はもう良いから、用意した部屋で休んで来い」


「は、はい。月夜様はお休みにならないのですか?」


「まぁな。仕事が残ってるから、片付けないといかん」


「そうですか。あの、それでは今日は休ませて貰います」


寂しいのか? 暗い顔だ。そうか、今まで一人だったから寂しいのか。


だったら、結月を………………駄目だ、あいつ呼んだらまた変な方向に話が行く。


だからっと言っても、結月以外の女性の知り合いは居ないし。


「あ、幸。お前が良いなら、少し待っててくれるか?」

「へ? 何かありましたか?」


「いや、その、なんだ。もし寂しいなら、俺が一緒に寝てやるから、直ぐに仕事を終わらせるから待っててくれ」


「あ、はい」


そうと決まれば俺は直ぐに仕事を終わらせて幸が待ってる部屋へと向かった。


           ☆


「「……………」」


(って、えぇぇぇぇぇ!? 俺何言ってんの!? いやいやい、ありえん。何やってんだよ。俺は………………。これじゃあ、襲わないっと言って本当は襲う気だったと思われるじゃねーか!)


俺は今更ながらも気づいて直ぐに布団を出ようとしたが。


幸はおれの服を掴んでいてそんな小さな手からでも伝わって来る震え。


月夜は出るのを止めて恥ずかしいながらも幸の方に身体を向けた。


「怖いのか?」


幸は震えながらもコクりっと頷いて。


「もし、俺とが嫌なら、他の者を呼ぶが?」


幸は直ぐに首を横に振って俺に抱き付いて来た。


小さな身体が震えている。何でこう言った弱者を残酷に使うことしか頭に無いんだ。


弱者は強者が守る存在だ。その強者が弱者に対して残酷な仕打ちは許される事ではない。



だけど、これは俺の綺麗事にしかならない。


それでも、俺は自分の手が届く範囲なら全ての弱者を助けたいと思う。


「幸。泣きたいなら泣いて良いんだ。俺はお前をもう離す気は無い。ずっと俺の側に居ろ」

「はい。月夜様」


幸は泣くことは無かった。それは多分強がりだと俺は思う。もしかしたら俺が思ってるよりも幸は強い子なのかも知れないが……………………。


そして、その日は幸と抱き合う様に一緒に寝た。


           ☆


「月夜様~♪ 月夜様~♪ 起きてくだ………………さいぃぃぃぃぃ!?」


早朝に月夜を起こしに来た結月は抱き合う様に寝てる幸と月夜を見て驚いた顔で腰を着いた。


「ん。うるさいぞ、結月………………? あ、これは違うぞ!? 何もしてないからな!」


「うっ、うぅぅぅ!! 月夜のへんたいぃぃぃぃ!!」


バチんっと結月は月夜の頬を叩くと泣いて走って行ってしまった。

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