文官ワイト氏、パワハラに対抗する。
文官ワイト氏、3月15日に書籍化! 詳しくは活動報告で!
今更だけど記念に一本UP。
──勇者よ、目覚めるのです……勇者よ……
勇者は、その声に呼ばれて目が覚めた。
家庭を持ち、その家庭と、王国を守るため、騎士として日々訓練に明け暮れる勇者は、休日に特に用もなく起こす奴は魔王をも超える邪悪だと判断して、不機嫌に体を起こした。
「なんだよ……今日は休……み……?」
その姿は、何故か見覚えがあった。
金髪の、女性だ。とても高貴な雰囲気を纏い、柔らかな慈愛の雰囲気を持つ、大事な式典などになるとうっかり噛んでしまいそうな女性……端的に言って、聖女だ。
「聖女? ちょ、ここ俺の家……」
「勇者よ! 目覚めましたか! さあ! 善行を積みに出掛けましょう!」
──誰だこいつ。
勇者は素直にそう思った。聖女と言えば、お淑やかで、貞淑で、なんかそう姫様っぽい性格をしていたはずだ。
だが、目の前にいる聖女っぽい何かは、寝間着らしい白いナイトローブを身に纏ったまま、それはまあそれなりのサイズの胸を張ってふんぞり返っている。
「……誰だお前?」
「聖女です! 正確には数代前の聖女です! 死後こうして天使となり、数百年に一度の聖なる日にこうして臨界しました! 一番聖女らしく純粋な頃の人格なので、多少子供っぽいのは見逃してください!」
……聞いたことがある。聖女が歴代聖女の手記を読んで語っていた。聖女は死後聖霊に魂を拾われ、女神の眷属である天使になるという。
そして、数百年に一度……たまに一週間くらいの間で訪れる『聖なる日』と呼ばれる日に臨界し、その文明を見定めるのだとか。
「えっと、じゃあ……文明を見定めに?」
「そんな大それたことはしません! 悪いことをしている人にお説教します! そして、苦しむ人に施しを与えます! さあ! 勇者よ! 献身に行きましょう!」
「お、おう……えーっと、その、今日は休日でな?」
「日々労働に精を出し、休日に奉仕する。素晴らしいですね!」
駄目だこいつ全く話を聞かない。勇者は寝起きで痛む頭を押さえて、絶望した。休みが潰れることが確定した瞬間だった。
そして、悲劇というのは往々にして重なるものである。
勇者の妻は、実家の母親が腰を痛めたということで、一時的に実家に里帰りしていた。そして、今日戻ってくると言っていたのだが……
「ただいまー! 今帰ったわ……よ……?」
現状を整理しておこう。
ここは寝室である。そして、勇者も無論寝間着を着ており、天使を名告る聖女は、ナイトローブ……比較的締め付けの緩いラフな服装をしている。
妻のいない間、夫が寝室で女と二人。しかも、その女は誰もが知っている美女。さらに救世の旅で命を預け合った仲間だ。結論は一つに集結する。
そして、戦場で培った瞬時の思考力でそれを悟った勇者は、咄嗟に土下座の姿勢をとった。
「信じてくれ! 何もしていない!」
「い、いや、その、あの……」
「あっ、勇者の伴侶の方ですね! 聖女です! そしてそちらは……勇者の子供ですね! わー! 可愛らしい!」
「え、え、ああ、あの?」
勇者が自分もよくわかっていない事情を説明するのに要した時間は、僅か五分だった。それくらい、今の聖女は、浮気相手としては三流だなっと思うようながっかり具合だった。
◆◆◆
聖女の施しは、まあ普通に施しだった。貧しいものにはパンを。富めるものには天使として宗教的な、王女として政治的なお願いで寄付を募り、勇者家でもて余していた極東の国からもらった黄金の像も売り払って金に変え、孤児や貧しい労働者に分け与えた。
これだけならどれ程良かっただろう。『聖女様はお優しい』『王族として傲慢にならず下々の者の事を考えている』。そう評判になり、勇者の家庭内に不和が生じかけた以外はどこにも迷惑をかけず、良い結果で終わったはずなのだ。
しかし、現実はそうはいかなかった。
「そう言えば勇者、何でも王国内に良くない物が住み着いているとか。聖霊の声は漠然としか聞こえないので詳細はわかりませんが、こともあろうにお城に住み着いているらしいではありませんか」
勇者は絶句した。だいたい理解はできていた。しかも予想もできていた。
本来ならば勇者の大敵。騎士の間では『骸の魔王』や『社畜の王』、『文官最終形態』などと呼ばれる死霊……ワイト氏。聖霊の言う良くない物など、それしか無かった。
「せっかくです! 天使として裁いておきましょう!」
シュッシュと勇者でさえ見切れないようなシャドウで意気込む聖女。
勇者はそれを見て、一方的にとは言え共に魔王と戦った中だと思っているワイト氏に、心の底から申し訳なく思った。
「ワイト氏……止められなくて、ごめん」
「勇者、何か言いましたか?」
「いや、なんも……」
そうして勇者と聖女は王城に入る。
まずは勇者に会わねばと窓からエスケープしてきたらしい聖女を探して、王城内は上へ下への大騒ぎだったが、聖女が戻ってきたことで無事に収まり、勇者は王に今回の事情を説明していた。
「……つまるところ、我が娘は天使の依代となり、どうしようもないアホの子……もとい無垢な子供のようになっていると?」
「はい」
「そして、王城内の邪悪……あのどこのヒトの骨かもわからんワイトを討伐しようとしていると?」
「はい」
「……聖女よ」
「はい! なんですか髭のおじさま!」
娘に髭のおじさまなどと言われて、王のメンタルに何かが刺さる。髭は威厳を表していたのだが、翌日には剃られていることだろう。
「……宜しい。やってくだされ。存分に」
「はい! 任されました!」
「っ! 王よ! 一体如何なるおつもりか! ワイト氏は、この国の恩人! この国をただ一人との約束すら守らない国だとするおつもりか!」
「……我も、詳しい事情は知らん。だが、ヤツが来てから明らかに仕事とトラブルが増えた。正直宮廷魔導師の一件とか今思い出しても胃が痛い。ついでに宰相の頭皮の砂漠化も進行している……国の長として、娘の父として、この決定は覆されん」
「? よくわかりませんが、行きましょう勇者! 正義執行です! とりあえず向こうから邪悪な気配がするので、あっちに行きましょう!」
「くっ……!」
「あっ、勇者よ。二次被害で場内の備品が壊されると宰相が怒るし最近会計課がそういうの許してくれないからそこら辺よろしく頼む」
「魔王城と同じ目にあわせてやる!」
つまるところ真っ二つだ。
そして、聖女はぐんぐんと進んでいく。資料を運んでいた死霊を聖なる光で消滅させ、連絡事項を運んでいた死霊を殴り砕き、ついにとある事務室……王国財務部会計課の事務室に辿り着いた。
「粛清の時間ですおっらーん!」
乱雑に扉を開き、聖女が飛び込む。
そして、聖女は自分の直感が間違いではないことを確信した。 疲れ果て、痩せ細り、社会から搾取された労働者の姿。健全な労働とはかけ離れたその光景に、怒りの炎を滾らせた。
「見つけましたよ諸悪の根元! 数多の死霊を操り、この者達に拷問のような労働をさせる悪魔! さあ、その化けの皮を脱いで、正体を現しなさい!」
そうして、指を指されたその男は、ゆっくりとデスクから立ち上り……
「……勇者様、姫様どうかしたのでしょうか?」
疲れた様子で疑問を呈していた。
その男こそ文官長。拷問のような労働。それを要求する上層部と苦しむ部下の緩衝材として、十年以上も戦ってきた勇者だった。
「ふふ、惚けても無駄です! 私は生前、最上級の死霊を使役しておきながら、最下級の死霊に擬態する魔族を見破ったことがありますから! 貴方なんてあの魔族に比べれば何段も劣ります……いえ、雰囲気が似ているので眷族ですか? だとしたら尚更誅罰です!」
「あー、なんだその……おたく、姫さんじゃねえな? 明らかにワイトの事を言ってるが……その、俺、一応生きてるぜ?」
「嘘です! そんなに生気の無いヒト族がいるわけありません!」
「聖女……いや、天使様。限り無くそれっぽいだけで生きてるヒト族です。立派な労働者です」
「え!? だってこんなに……はわわ! ご、ごめんなさい! 貴方もここの死霊に支配されていたのですね!」
「いや、支配されてた訳じゃ……」
その瞬間、空間が揺れて、虚空からぼろ布を纏った白骨死体が現れた。
「帝国に確認してきました。やはり帝国からの拉致というのは考えにく──」
「っ! ワイト! 伏せろ!」
「エンジェルフラーッシュ!」
閃光が会計課を襲った。
文官達はひっくり返り、咄嗟に重要書類を庇うことしかできなかった。
衝撃でたくさんの資料や書類が舞い上がり、近くの書類はあまりの光量に発火し、炎上する。
これが、天使の光。邪法でこの世に残る亡者を救済する、女神の御業だった。
「ああああああああああああ!」
「いあやあああああああああああ!」
「ギヤアアアアアアアアアアあああ!」
職場が荒らされた上司の悲鳴。仕事が大幅に増えたことを理解した文官の絶叫。そして命の危険を全身で感じ取った死霊の叫びが、王城全域に轟いた。
「貴方は! 忘れもしません……! あの時の死霊ですね! あの日の雪辱……ここに果たしましょう!」
「お前は……! 社長じゃないな……! くっ、天使か! 忌々しい……! 何度も言っているだろう! 俺は非戦闘員だ! 戦争のルールに則り保護されるべき存在だ!」
「生死常世の理に反して存在しておきながら、ルールによる保護を語るとは言語道断! さあ、貴方の眷属を呼びなさい! あの時は不覚をとりましたが、勇者と二人なら……! 行きますよ! 勇者!」
「っ……!」
その瞬間、誰よりも早く動いた男がいた。
勇者は、聖女がいなければ勇者になら無い。ワイト氏からそれを聞いている。故に、どれだけ気に食わなくても、聖女に逆らえない。逆らえば、勇者の力を失うから。
上司に逆らって出世できなくなったその男と同じだった。だからこそ、それよりも早く動けた。いつか、誰かが自分と同じことをすれば、クビを賭けてそれを守ると決めていたから。
その男──文官長は、聖女を押し倒して押さえこんだ。
「くっ……操られて……!?」
「勇者、聖女、どちらも動くな」
万年筆を自分の首に宛がい、動けば自分を殺すと脅して、ワイト氏に視線を向ける。そして、睨み付けるように逃げろと訴えた。
ワイト氏はそれを見て即座に空間魔法を編みながら、窓から飛び出す。そして、空間魔法を発動し、その空間から離脱した。
「ホーリーバインド!」
「ぐおっ……!? お、オレハイッタイナニヲシテイタンダー!」
「あの死霊……! ええ、決着をつけましょう! この体の主も、あの死霊に並々ならぬ感情を抱いているようですし!」
その場の文官、そして勇者は同時に思った。
──感情の意味がちげーよ。
◆◆◆
「見なさい! あの禍禍しい城を! 正しく悪鬼羅刹! 魔王の城! 戦士達よ! 奮い立ちなさい! 貴方達は今宵、英雄となるのです!」
王都の側にある毒の沼地。そこに聳え立つのは、巨大な人骨を骨格として建立された、死霊の城。呪怨死霊一夜城墨俣。ワイト氏の、ワイト氏による、ワイト氏のための対天使籠城要塞だ。
一晩の内に現れたその城砦から送られた死霊は、王城にたいして一枚の書状……パワハラの抗議書が届けられ、今回のことはそれを理由としたストライキだと、記されていた。
早い話が休職の理由作りである。どこまでも真面目であった。
「あはははははは! お腹痛い! ワイト、ぷくく……やばい、ツボに入った……ふううううう!」
「おい! 自重しろ守護騎士! 確かに少しよくわからん状況だが、あの城本気だぞ! 魔王をぶち殺した奴の全力だぞ!」
戦力として召集されたエルフと竜人族。その代表である守護騎士と姫武将。しかし、どちらも戦意には乏しい。姫武将に関しては、呪いなどというよくわからない非物理的な手段をとるワイト氏は天敵だ。そのうえ、姫武将は誰よりも仲間意識が強い。できれば戦いたくない。
「これはあれだね? エルフの方でヘッドハンティングして良いよね?」
「いや、できればやめてやれよ……本人の希望しだいだけどな?」
「ふーん……でも、ヒト族も乗り気じゃないの? 宮廷魔導師は?」
「ああ、宮廷魔導師様なら──」
「擬態死霊ー! 人質を解放して投降しなさい! 貴方は比較的話のわかる死霊だと信じていたのに!」
『待ってくれ! 人質とか知らな……お弟子様ー!?』
『戦争上等です! かかってきやがってください! 何が天使ですか! お師匠様! 魔王殺しの大魔導師の本気、見せつけてやりましょう!』
『はっはっは……長生きはしてみるものですね。ええ、ええ。争いましょう。諍いましょう。魔道を、叡知を削り合いましょう……!』
「──ワイト陣営で孫と一緒に楽しそうにしてるよ」
「わーお。この国の戦力の三割くらいがあっちに行ったのね」
「そのせいで宮廷魔導師様のご子息……軍部の長官がぶちギレてなぁ……この通り王都の出せる全戦力がここに集まったよ」
王国の常備軍の全て。それが毒の沼地に集い、骸の魔王を討伐するためと意気込んでいた。
なお、この中に骸の魔王=ワイト氏だと思っている人間はおらず、知っている人間も、死霊使いとしての道を極めた大魔導師が天使から異端判定を受けたと説明されている。
「……なあ、守護騎士。竜人族は裏切るから、エルフでそれを止めるって脚本はどうだ?」
「あっ、良いね。共に戦った仲間を裏切れないって体なら外面も傷付かないし。お互い、ヒト族のゴタゴタに巻き込まれたからそういう建前の訓練にするって身内には伝えておこう。と言うことで勇者君、ヒト族代表で頑張って」
「お前ら……ブレーキの聖女がああじゃなあ……」
「わかりました……見損ないましたよ骸の魔王! 貴方はやはり悪でした! 誅罰です! さあ、全面戦争です! 先陣を切りましょう! 勇者様!」
「う、うい……」
開戦を告げる号砲が鳴り響いた。
毒耐性の聖女の加護を施された数千人の戦士達が、雄叫びをあげながら突撃する。
相対するは死霊の軍勢。そして、キメラとガーゴイルの群。その最奥に控えるのは、最上級の死霊、ゾンビ・ケルベロスと、鋼鉄の竜、ドラゴンゴーレムだ。
「魔王軍より魔王軍してんなおい!」
「動きも戦略的、戦術的です! 長期戦になると負けますね! かと言って短期戦で勝てる相手でもありません! 私達が魔王を倒せねば全滅です!」
そもそも戦う必要も無かったのだが、原因を作った聖女側にそんな意識はない。そもそも、この程度でこれだけの軍ができてしまったのだ。天使がなにもしなくとも、何れこうなっていた公算は高い。
「やはり共に魔王を倒した同胞を裏切ることはできない!」
「見損なったぞ姫武将! 武士の忠義はどうした! この筋肉胸板! ゴリラ! 鎧と体重が同じ! 体位によっては重い女!」
「貴様、守護騎士、気にしていることをォォォォォ!」
守護騎士の方も予定通りの茶番を始めたのを確認して、勇者は騎馬に乗り駆け出す。
新たなる魔王、骸の魔王の討伐戦が、ここに始まった。
◆◆◆
「んで、この落とし前どうつけんのよワイト?」
呪怨死霊一夜城墨俣の本丸にて、作戦本部とは名ばかりのただただ広い地下室にて、三人が集まっていました。
一人はワイト氏。自分の天敵、天使を迎撃するための城砦、呪怨死霊一夜城墨俣を現出させた張本人です。
なお、この城は、普段は極東の最北の地の湖に沈んでいる、超巨大な死霊なのです。中身の無い動く鎧や、肉がないのに動くスケルトンのように、数多の怨念が集まって、墨俣城を作っています。
二人目は文官長です。ワイト氏が招いたわけではなく、ストライキを起こした部下を説得しに行くという名義で普通に徒歩で訪れて、警備の死霊たちが同じ死霊だと勘違いして素通りさせてしまったため、ここにいます。
「骸の魔王……魔王……?」
「魔王は魔王でも、お師匠様の場合は魔道の王ですね! さいきょーです!」
最後の一人は、宮廷魔導師様のお孫様。紆余曲折あり、ワイト氏に弟子入りしている軍部の長官の娘さんです。
なお、本来ならば宮廷魔導師様もいるのですが、魔道の真髄を探しに、天使に殴り込みに行ったので不在です。
「……時間を稼いで社長が正気に戻るのを待ちます。そして、対外的には骸の魔王として死にますが、まあ、私を見て骸の魔王なんていう仰々しい名前は思い浮かばないでしょうし、ほとぼりが冷めたら出勤しようかと」
「時間を稼ぐって……具体的には?」
「聖なる日は長く続きません。二日か三日、私の見立てでは、もう一時間も無いかと」
「一時間ねえ……まあ、むしろなぜ今まで隠してきたのかと聞きたいレベルの戦略拠点があるんだ。余裕だろ」
「天使用の切札な上に、極東でいう天使である天女対策に妖怪が作り上げた共有財産を借りてきたものなので……」
「妖怪ってのも大変なんだな」
「でも、お師匠様ならこんなもの必要ないですよね? 天使だって真っ正面から堂々と闇討ちで倒せますよね?」
「…………実を言えば、まあ、勇者様がいないなら、手段を選ばなければ、そうですね。ですが、今回はこうして正面から迎えなくてはいけない事情がありまして」
「そうだろうな。極論、落ち着くまで極東に逃げとけば良いんだ。何でわざわざこんな城ぶっ建てた?」
いくら天使と言えど、極東まで逃げられては、追跡するのは困難です。物理的な距離に関係無く移動できる天使だとしても、空間魔法で飛び回られて、世界中を範囲にした鬼ごっこになれば、ワイト氏を見つけるのは不可能と言っても過言ではありません。
「……私は、死にたくはありません」
「まあ、見てわかるわ」
千年生きた白骨死体が今更死にたいと言っても誰も信じないでしょう。
「ですが、仕事に関して、仕事にたいしては、文字通り粉骨砕身の覚悟……命だって懸けています。尊敬できる上司のいる職場を守るためなら、多少は自分の首をかけた無茶もします」
ワイト氏は立ち上り、地上からこの部屋に続く階段に向かって、威圧するように呪いを高めました。
すると、その階段を一歩ずつ踏みしめるように、聖女様……白い翼と、光輪を備えた、天使が降りてきました。
「社長は、恐らく今回のことにお心を痛めるでしょう。だから、だからこそ、私は、逃げることができません。社長に、証明しなくてはいけないのです。貴女の存在は、私にとって尊敬できる上司であり、天敵……命を脅かす存在にはなり得ないと」
それだけ言うと、ワイト氏は二人を王城まで強制的に移動させました。この部屋自体に仕掛けられた、脱出用の魔法です。もちろん追いかけられないように一度使えば二度と使えなくなっているので、残ったワイト氏が利用することはできません。
「さあ──何百年ぶりだ? 聖女」
「過去を懐かしむ間柄でも無いでしょう──貴方と交わすべきは、言葉ではありません」
「そうか……前は、話ができたんだがな。最近、運動不足でな。空間魔法に頼りきりで、自分で歩くことがない……長生きの秘訣は適度な運動だろう? だから──付き合ってもらうぞ、天使。聖なる日の終わりまで……!」
その姿は、やっぱり最下級死霊のワイトに過ぎません。
けれど、だけども、企業のため、仕事のため……敬愛する上司のために戦うその姿は、戦士のように勇ましいものでした。
(宮廷魔導師様とかお弟子様とか書籍版のキャラを使ってのステマ……しめしめ、誰も気づいていないな? 気付かれたら土下座もんよなあ)
後日
社長「本当っに申し訳ありませんでした! 貴方を保護すると、権利を約束すると契約した私自身が、貴方を直接的な脅威に晒してしまうなど……!」
ワイト氏「いえ、お顔をあげてください! むしろ公務員のくせにストライキ何てものをやらかした私を許してくださったことにお礼を……」
社長「いえ、それも私の責任で……」
ワイト氏「ですが規則として……」
土下座無限ループ。