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こびとの棲む街

作者: とみ

何だか憎めない顔をしているなぁ。


小人の悪戯をたしなめる町人は心が広い。

ダメなことは叱るけれど、ちょっとしたことなら「こらこら」と笑ってたしなめる。



ある晩。

思い詰めた表情の男が、路地裏の扉に手を掛けた。

鍵を壊し、中に忍び込み、金庫に手を掛けた瞬間――。


「こらこら」


男はぎょっとして金庫から手を離した。

確かに誰もいないはずだった背後には、にこやかに笑んだ小人が佇んでいた。

小人が喋るなんて、見たことも聞いたこともない。


戸惑う男に対し、小人は笑みを崩さず言った。

「こらこら」


悪意なく深まる小人の笑みに、何故か今まで感じたことのない悪寒が男の背筋を駆け上った。

生活に溶け込んでいて気がつかなかったが、人ならざるものの底しれなさが男を恐怖させた。


男が瞬く間に小人の姿は掻き消えていた。


「だめよ」

続いて耳元で聞こえた女の声に、男はヒッと悲鳴を上げた。


振り返ると金庫の上には先程とは別の小人が腰掛けていた。小人が男に困った顔を向ける。

「だめよ」


その声を背に受けて、男は何も盗らずに逃げ出していた。



+++++



戦が始まった。

食糧が無くなった。


小人が干し肉を少し盗った。

「この泥棒!」

小人は憎めない顔で笑った。

しかし人々は小人を殴った。

小人は捕まると痛い目にあった。


次第に、小人は笑わなくなった。


街に現れる小人は多くの食糧を盗み、より悪質な罠を張るようになった。


血走った眼をした小人が去った納屋では鶏が息絶えていた。


小人を轢いた自転車は翌日馬車に轢かれた。


小人を沈めた井戸には毒が混じった。



+++++



街に火が回った。


親とはぐれた人間の子供が泣いていた。

誰も彼女に目を掛ける余裕がない。


小さな少女の膝ほどしかない人影が、どこからともなく現れた。


少女は泣き止んだ。


次の瞬間には、少女と小人の姿は夢のように掻き消えていた。



その時小人がどんな表情をしていたのか、少女を除けば誰にも分からない。



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