第2話「焦燥」
「マキ・グランファートン、お前の母親がいる」
「…はぁ?」
こいつは何を巫山戯ているのだろう。だって母親はリトルバーク、旧バーク大国を恨んでいたし、第一国王に認められる様な人間なんかじゃない。それなのに、なんで…。
「俺はお前が欲しい。お前の強さも、実力も、全て買ってやるつもりだ。さぁ、いくらだ?いくら欲しい?」
「…かない」「あぁ?」
「僕はあんな奴のためなんかに行かないって言ってるんです。用事が終わったなら帰って下さい」
少々強引にレートを追い返し、僕は仕事に戻った。だが、焦りと動揺は僕の手を狂わせる。中々集中出来ずに今日分の仕事が終わった。
「痛っ…てて…。全く、何なんだよ、アイツ…」
「大丈夫か?なんか今日のネジ、ネジっぽくなかったぞ?」
「なんだよそれ…」
「なんていうか、ネジ、ネジにあらず、みたいな?」
「それを言うなら、心ここに在らずだろ」
「それだ!それ!」
馬鹿みたいな会話をしながら、僕達は帰路についた。
□■
家に帰ると、ナロクとラナが待っていた。そして俺は、さっきレートに言われた事を2人に話した。
「えっ!?じゃあ、ネジのお母さんは生きてるって事でしょ!?行こうよ!」
「待て。僕は母親に会いたい訳じゃないし、多分行っても会えるとは限らないだろ」
「そっか…」
そう、アイツは「手下にいる」と言っただけで、別に会わせてくれるとは言っていない。だが、僕が焦燥に駆られているのも間違いではない。
会ったら何か変わるのだろうか。でも、会いたくないほど恨んでいる。僕は、葛藤していた。
「でも、ネジくんは母親に言いたい事とかあるんじゃないの?その、なんで捨てたの?とか…」
「それもそうだよな。ネジを捨てるなんて、どうかしてるもんな!なんか理由があるはずだ!」
確かにそうだ。仲良し親子としてちょっと有名だったのに、どうしてだろうとは思っていた。
「でも、ネジは会いたくないんでしょう?」
「あぁ、消したいくらいアイツは嫌いだ」
会ったら会ったできっと僕は欲望をぶつけるのに精一杯になってしまう。話どころではない。
「だから僕は会わないし、レートの話にも乗らないって事にしたから…」そんな事を話していると、家の扉が勢いよく開かれた。
「大変だよ、アクロ君、ネジ君!城下町の広場で乱闘が起きてるんだ!」
「ラーテル様!?ど、どうしてここへ!?」
「いいから早く!女の子達はここで待ってるんだよ!」
僕達は、広場へと走った。
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「いいぞー!」「やっちまえ!」「いけー!」
広場はとても騒がしく、人々が乱闘をしていた。
僕はその人垣を掻き分けて、騒ぎの中心であろう噴水広場へと向かった。
そこには、華奢な高身長の男の姿があった。
「…ん、君は?君もこの雑魚達と同じなの?」
「僕はネジ、傭兵だ。お、お前は誰だ!」
「私は、レン。ナルスの者。」
「ナルスって、西のナルス国か!何だってこんな所に来た!何が目的なんだ!」
「うるさいよ、さっさと消えて」
レンと名乗る男は、そう呟くと攻撃の構えを取り始めた。
「危ない!アクロ君、ネジ君!」
「ラーテル様!?」
ラーテル様は僕達を庇い、レンの蹴りをモロに喰らい、僕達の後方へ吹っ飛んでいった。
「俺はラーテル様の治療をするから、任せたぞネジ!」
「はぁ!?あのなぁ、僕は今戦える状態じゃ…うおっ!」
「早く、私を楽しませてよ」
焦燥が消えないまま、僕はレンと戦うことになった。
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「あ゛っ…がはっ…!」「もう終わり?私はまだ楽しめてないんだけど」
あれから5分も経たない内に、僕はボコボコにされていた。忍術なのか、はたまた全く知らない拳法なのか、僕は理解できないまま、相手のペースに持っていかれていた。
「なんだ、あの人の息子ってぐらいなんだからもっと期待してたのに。ガッカリだな」
「……んだと…?」
あの人の息子?期待?ガッカリ?なんだ、僕は憎み恨んでいる対象より下なのか?
そう思うと、痛みより怒りが湧き上がってきた。
「…っぺん…みろ…」
「ん?なぁに、負け犬さん?」
「もう一辺言ってみろって言ってるだろ!異国の雑魚めが!」
そう言って僕は相手に向かって走り出した。