14話 アルパカとおさんぽする生活
アルパカちゃんを手綱でひいて街の中をおさんぽ開始。
街人の様子を観察するコトが目的なので特に目指す場所は決まっていない。
えーっと。
とりあえずは活気のありそうな市場に向かってみようかな。
人がたくさんいる場所なら、みんながどんな感じか分かりやすいだろう。
ああ、でもせっかく大勢の人前に出るなら新しい領主として挨拶の一つもした方がいいのかしら。
そういうの苦手なんだけど。
まず「はい、注目! 領主の話を聞いてくださーい!」って人々にアピールするのが偉そうというか誰もお前なんかに興味ねーよと思われそうというか。
なんかどこかでサラッと挨拶済ませられたらイイんだけどな。
などとブチブチ考えながら館を出て数分も歩いてみると通行人がチラチラとコチラの方に視線を向けてくる。
ものものしい戦乙女鎧を着ている私に警戒しているのか、それともアルパカが物珍しいだけか……。
あ、後者だな。
大人は遠巻きに観察してるだけだが、子供たちは素直!
パタパタとアルパカの周りに近寄ってきては興味津々といった表情ではしゃいでいる。
「すげーっ! お姉さん、これナニ?」
活発そうな男の子が物怖じもせず、アルパカを指さして私に尋ねてきた。
「これはねぇ、アルパカって言う動物だよ」
「へーっ、すげーっ!」
「あの……このコお名前あるの?」
今度は大人しそうな女の子がモジモジと物怖じしながら遠慮がちに聞いてくる。
名前……名前かぁ。
犬ならポチ、ネコならタマと定番の名前があるけれどアルパカに付けるとしたらどんなのが定番になるだろうか。
うーむ……。
「名前はまだ決まってないけど、キミたちならどんな名前をつける?」
スッと出てこないので、ここは子供のインスピレーションを参考にしてみよう。
「エーッ、名前!? オレが付けていいの!?」
「私が……いや、このコが気に入ったら採用してもいいよ」
ヨシヨシとアルパカちゃんの頭をモフモフなでる。
事態が分かっているとは思えないけど、子供たちの方を向いて「いいお名前を頼むよ!」という感じで見つめている。
「じゃあオレに弟が産まれた時のために考えておいたとっておきの名前があるよ!」
「へぇ~、どんなの?」
「冥界龍王ヘルハザード!」
「わぁ~予想外にカッコよかったけど絶対に却下で」
「なんで!?」
だって龍じゃないですし……。
というかそんな名前つけられたら弟くんグレちゃうよ!
「ふーん! ふーんっ♪」
しかし、なんと、あろうことかアルパカちゃんは嬉しそうに首を伸ばして男の子の顔に頭をスリスリこすりつける。
「ほら! コイツも気に入ったって!」
「いやいやいやダメだから。お母さん認めませんよ!」
「ふーん……」
すると私の言葉が分かったのか、シュンと首を下に垂れるアルパカちゃん。
そんなに冥界龍王とやらと呼ばれたかったのかい?
ふわっふわで真っ白な毛に覆われているのに?
「ねぇ、お姉ちゃん。このコって男? 女?」
下に垂れてきた頭をおそるおそるナデながら、女の子が尋ねてきた。
そうだそうだ、女だったらもっと可愛い名前をつけてあげなきゃいけないぞ。
「エッチさん、このコの性別って知ってる?」
「いえ、魔王様から特に聞いてはいませんが……あ、オスですね。ついてますよ、これ」
「ふっ、ふーんっ!?」
エッチさんはアルパカの股間についてるアレを鷲掴みして私たちに見せた。
「セクハラぁあああッ!」
ガシッ!
私はエッチさんの弱点である頭に生えた小さな羽根を掴んでブルブルブルブルッと小刻みに震え揺らし続けてみた。
「おひぃいいいぃいぃいい」
もはやお家芸だね。
エッチさんは白目を剥いて気絶し、地面にぱたりと倒れこむ。
「まったく、子供たちの前でなんて事をしでかすんだろう、この破廉恥秘書は」
すると意識を失い、ノーガード戦法をとっているエッチさんのぷるんぷるんの胸の谷間を男の子がガン見しているではないか。
いや、男の子だけではない。
見回すと、周囲にいる大人の男どもまでエッチさんのおっぱいに大注目している。
まったくどうしようもないな!
あ、でも、待てよ。
このビッグウェイブにあえて乗る、という手はあるね。
「オッス! オラ、領主!」
頼んでもいないのに勝手にコチラの方に注目してくれた心の汚れた大人たちに自己紹介する。
しかし私の言葉を聞いて、辺りはシーンと静まりかえってしまい、まるで私がスベった感じになったので、この数秒間の出来事は潔く無かったことにした。
「みなさん初めまして。アレクサンドラさんに代わってこの度、エルシアドの領主に就任させていただいた泉ヒナと申します。今回、色々とご迷惑をおかけしたと思いますが、皆さんの住みやすい街にしたいと本気で思ってますのでお困りの事があればお気軽に領主の館までお越しくーださい」
「え……あれが新しい領主……?」
「前の、ソロモンって名前の魔族より怖そうじゃないな……」
「というかチョロそうだな……」
「さっきオラとか言ってたのはなんだったの?」
「まぁ子供たちとのやりとりを見るに極悪魔族ではないのかもしれん……」
などというヒソヒソ話をレベル50の地獄耳で拾い集める。
怖がられてはいないようだけど、もうちょっと心を許してもらえる関係性になりたいところだね。
「おおっ!? オッパイの気配がするから拝みに来てみりゃ……ネェチャンじゃねぇか!」
「そんな気配が感じられるの? すごいよパワーさん」
少しずつ増えてきた人だかりをガッと力づくで押し退けて、全身から熱いエネルギーを迸らせる熱き料理人、パワー食堂のパワーさんが私の前に姿を見せたのだった。




