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14話 アルパカとおさんぽする生活


 ささやかなティータイムも終わって、私は街を散策する事にした。

 エルシアドが魔族に乗っ取っられてから初めて街の様子を見に行くのでちょっとドキドキするね。


 魔族に怒ってる子供とかに石をぶつけられたら悲しいなぁ。



 コボルトさんたちが「護衛します!」と申し出てくれたけど、あまりものものしい雰囲気醸し出すと街の人が怖がるかもしれないのでお断りしといた。


 それに私、強くなったもんね。

 例え、元兵士の人が襲いかかってきたとしても指先一つでダウンさせられる事でしょうよ。



「ヒナ様! お待ちしておりました!」


 館から出るとエッチさんが番兵コボルトさんの頭に大きなおっぱいを乗せてくつろいでいた。



「こらーっ、そこはおっぱい置き場ではないよ!」


 私はシッシッとコボルトさんの頭から失礼なおっぱいをおっぱらう。


「あっ、すいません。最近デスクワークが多かったもので肩が凝ってしまって、胸を置くと楽なものでつい……」


 エッチさんは申し訳なさそうな顔してコキコキと肩を回す。

 うーむ、肩が凝るくらいの巨乳なのか。


 別に羨ましくはないな。


 巨乳は得だ! とか聞くけど別に安く映画が観られるとかお買い物の際に卵を一パックもらえるとか露骨なサービスがあるわけじゃないですし。


 むしろ調子にのっている巨乳族への嫌悪感が高まり、彼女らが迫害される時代も来るかも知れない。



「あなたも変なもの頭に乗せられて……嫌なら嫌って言っていいんだよ? 私が許すから」


「とんでもない! 50年生きていて今が一番幸せでした!」


 意外と年配なコボルトさんはエッチさんに深々とお辞儀した。


 50年も生きててもっといい思い出は無かったの? 




「やれやれだよ……」


 あんな犬みたいな顔したかわいいコボルトさんまで人型おっぱいが好きなのか、と遠い目をすると少し離れたところに、アルパカがムシャムシャと草を食べてる姿を目撃する。



 ってアルパカ!?

 


「えっ、なんだアレ!?」


 私はネコまっしぐらな感じで、その白くふわふわした体毛の癒されアニマルの元にダッシュした。


 アルパカは急に走ってきた私にちょっとビクッとしつつも、私が特に危害も加えないので安心したのか引き続き、草をモグモグしている。



「わぁ~カワイイ~♪ ねぇ、キミどこから来たの? ずっとここにいるの? 草おいしい? ニンジンとか野菜食べる? あああかわいいカワイイかわいい!!」



「フフッ、ヒナ様がそこまではしゃぐなんてご用意した甲斐がありましたね」


 エッチさんが得意気におっぱいを揺らしながら近づいてきた。


「エッチさん、この天使のようにつぶらな瞳をしたアルパカちゃんは一体……?」


「マリア様からの贈り物です。領主としてあちこち移動するなら足があった方が便利だろうと。あと絶交宣言を取り下げてほしいって泣いてました」


「ああ……アレは冗談だったんだけど。コッチの仕事が落ち着いたらお礼に行くってマリアに伝えておいてくれるかな」


「了解です。というかヒナ様の様子はおはようからおやすみまで見られてますからお礼は既に伝わってると思いますよ魔王さまに」


「えっ」



 ハッとして周囲の様子をうかがうと、確かに何か……不自然な魔力の流れが空中に滞留しているのを感じる。


「あそこがカメラ位置かな?」


 私は何かを感じる一点を指してエッチさんに尋ねる。


「さぁ……魔力隠蔽スキルが使用されているので私程度には分からないです。でも今のヒナ様のレベルなら見抜けるのかも知れないですね」



 ふぅむ。


 私はしばし考えたのちに、投げキッスをチュパッと飛ばしてみた。


 すると空中からプシッ! と赤い液体が噴き出して地面にポタポタと落ちる。


「わ、なにアレ、怖い」


「た、たぶん魔王様が鼻血を出されたのでないかと」


 

 性的に興奮して鼻血を出すヒト、本当にいるんだなぁ。



「やっほー、マリア。聞こえる? 日中、仕事してる時は別に私のコト見ててもいいけど夜、プライベートな時間まで監視してたら好感度下がるから気をつけてね」


 仕事中は領主の命を狙う怖いヤツとかいるかも知れないからね。

 むしろマリアに見ててもらった方が安心とも言える。



 と、前方の空間から突如、ズポッと黒手袋をはめた白くしなやかな腕だけが突き出された。

 あの高そうな手袋はマリアのものだね。


 そして親指と人差し指でマルを作る。


 OKのサインだろうか。



「おお、面白いね。魔法ってこんな事も出来るんだ」


 私はその手をとって握手してみる。

 するとマリアの腕も優しい手つきで私の腕を握り返してきた。


 そしてしばらくすると、サヨナラ。といった感じで手をフリフリと振って静かに腕は消えていった。



「なんだか喋らないとすごくマトモなヒトみたいだね、マリアも」


「いやー、私たちに対してはわりとマトモなヒトなんですけどね本当に」


 エッチさんは地面に染み込んでいく鼻血をしみじみと見つめていた。



「それで……足に使えって話だけど、このちっちゃいアルパカちゃんには乗っちゃっても大丈夫なの?」


 体をなでてもされるがままでアルパカは特に動じることもない。


 人に慣れているように感じるけど、体格は小さな子馬くらいだ。


 背中に乗ったら潰れちゃいそうだが……。



「このアルパカはマリア様の創造した幻獣なので見た目通りのスペックではありません。人を乗せたまま、この大陸の端から端まで駆け抜ける強靭さを持ち合わせていると聞いています」


「へぇ、すごいねぇキミ!」


 私が頭をなでるとアルパカは「ふーん!」って鳴いた。


 アルパカってこんな鳴き声なんだ。


 ふふっ、もっとキミの事が知りたいな。



「それじゃそろそろ街の中へおさんぽに行こうね」


 私はアルパカの背中をポンポンっと優しく叩いて一緒に歩き出した。


「あれ? 乗っていかないんですか?」


「いや、やっぱりなんか悪い気がして……」



 慣れたらそのうち乗ってみたいけど、今日のところは同じ目線で歩いてみよう。


 それに背中に乗るとアルパカちゃんのかわいいお顔が見えにくいもんね。



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