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13話 帰ってきた異世界生活


 優しいメルティちゃんが紅茶を淹れてくれたよ!


 ルビーサファイアとかいうすごく高級そうな安っぽいネーミングの真っ赤な宝石のように輝くお紅茶。


 紅茶の善し悪しは分からないけど、心なしかありがたい香りが漂ってくる。


 甘く、豊かな……あの、とにかく深い味わいが口のいっぱいに広がりました。



「ふむ。香りは良いのだが……これ、メイドよ。いささかカップのサイズが小さいようだが我輩にふさわしき大きい器はないものか」


 床に正座させられているモーちゃんがメルティちゃんに注文をつける。

 確かに巨漢の彼には普通の紅茶カップではお猪口(ちょこ)みたいで物足りなさそうだね。


「あっハイ! 失礼いたしました。少々、お待ちくださーい!」



 彼女はパタパタと走り去ったかと思うと紅茶がなみなみと注がれたバケツをガトンッ! とモーちゃんの前に置いた。



「やった!」


 モーちゃんは牛みたいにバケツに顔を突っ込んでジュパジュパ紅茶を舐めすすり始める。


 これから首を切断される罪人みたいな格好だが本人が満足してるならいいか。



「ところでイベっち。さっきモーちゃんの言う事に一理あるって話してたけど、それって言うことを聞かない貴族、商人たちを力づくで屈服させるって話?」


「まぁな。と、言っても当然、武力行使ってワケじゃねぇ。あくまでビジネスでひざまずかせるって話だ」


「ビジネス?」


 ほうほう。

 よく分かんないけど戦争(どんぱち)しようって話じゃないらしい。


 軍師の話をしてからイベっちは調べたい事があるからと、ウチに遊びに来なくなったからどんな計画を練ってたかなんにも知らないんだよね。


 

「ズバリ、この街の特産品としてチョコレートを世界中に輸出する。つまり、チョコをアタシたちの武器にする」


「チョコレートが武器? っていうか作れるの? この世界でチョコを」


 私もコッチでスイーツが食べたくて食材に一通り目を通したが、使えそうなのは小麦粉、砂糖、果物、ハチミツくらいで特殊な機材も無く、チョコや生クリーム系スイーツは作れないと割りきっていたのだけれど。



「アフリカみたいに暑いらしい、灼熱のドランド大陸ってとこにカカオっぽい木の実がある事は調べがついててな。実は一ヶ月前、元の世界に戻る前に取り寄せさせてたんだ」


 そう言うとイベっちは麻袋から黄色くて巨大なアーモンド型の木の実をいくつか取り出してテーブルのうえにゴロンゴロンと転がした。


 確かによくチョコのパッケージに印刷されてるカカオそっくりだね。

 


「すごーい! でも、なんで一ヶ月前にこれを? その時はまだ軍師の話はしてなかったよね」


「そこは偶然さ。何か面白いモンがないかと人間のフリして港町をブラついていた時に、滋養強壮の薬として売られてたコイツを見つけてな」


「え? 薬って扱いなんだ、カカオが」


「ああ。食べるとなんだか元気が出る苦い豆ポルム。それがこの世界でのカカオの認識らしい。魔法のポーションみたいに効果てきめんってワケじゃないから、あくまで物好きな金持ちが趣味で買う程度の稀少品だがな」



 イベっちが調べた感じ、南の大陸ではタダ同然でいくらでも手に入る木の実なので、商人に頼んで安く大量に取り寄せてもらったそうだ。



「ま、大量に、ったってあくまでアタシが個人的にチョコを食べたくて取り寄せた程度だから交易品にするにはまだ全然足りないけどな。

 ここにあるカカオで試作品チョコを作る間に、あらためてカカオを買いつければそのうちチョコの大量量産体制が整うって寸法よ」


「ふーん、チョコをねぇ。それで交易が始まったとして、それで貴族や商人との問題が解決するんだっけ?」


「甘味ってのは麻薬みたいなもの。菓子類の少ないこの世界でチョコは爆発的に売れるさ。そしてそのチョコレート様が手に入るのはエルシアドを通してだけ。

 となりゃ、相手が魔族だろうがなんだろうが欲深な貴族や商人が儲け話を無視できるハズがなく、向こうからコッチにすりよって来るってワケよ」


 ふーむ。

 それがビジネスの力でひざまずかせるって事か。


 正直、私なんか魔族一同で街のゴミ拾いをしたり、おばあちゃんの畑仕事を手伝ったりして魔族のイメージアップをしよう! 程度の計画しか思い付かなかったのでイベっちチョコ作戦はやけに壮大で本格的だと感心しちゃったよ。



「いや、イベっちいいよ。すごいよ。それ、早速とりかかろう。私はまず何をすればいいかな?」


「カカオの手配や試作はアタシの方でやれる。泉は運び込まれたカカオをチョコに加工する人手を集めといてくれ」


「オッケー。ちなみにソレどれくらい必要なの?」


「ん……とりあえず30人くらいでいいか。軌道にのってきたら必要に応じて増やしてくってことで」


「わかった。了解であります軍師殿!」


「うへへ、よせやい!」


 私がビシッと軍人っぽく敬礼するとイベっちは嬉しそうに照れまくった。

 


 ま、商売を軌道に乗せるなんて簡単ではなさそうだけども。

 どうやってエルシアドの街を侵略してやろうかーなんて考えていた時に比べれば随分、前向きで明るい未来が見えてきたもんだ。



 食文化で人類侵略、いいんじゃない?



 とりあえずの方向性がサクサク決まって気をよくした私はクッキーをサクサク食べて英気を養う。



 さーて、まずはチョコ作りの人手の確保かー。


 街の人は魔族に対して不信感を募らせてるみたいだけど協力してくれるかな?


 クッキー食べ終わったら街の様子を実際に見てまわろうかしらね。



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