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11話 人類侵略した生活


 神様が突拍子もない事を言い出したので私の頭がフリーズする。


「えー、あー……うぅ?」


「ほほう、喜びのあまり言葉も出んか」


「いや、いやいやいや!! ……私が知る限り、そのセリフ言われて本当に喜んでるヤツは一人もいなかったよ! というか、え? 冗談とかではなくて、マジなやつなの?」


「マジなやつじゃ」


 私の眼を見て即答する神様。



 領主?


 私が、領主……ですと?


 むりムリ無理!

 絶対無理!!


 クラスの学級委員どころか班長にすらなった事ない私が領主って……!!


 そんな大それた役職、私なんかに務まるワケがない!



「メルティちゃんもなんとか言ってやってよ。こんな愚かで哀れで矮小(わいしょう)で卑屈な人間の絞りカスを集めてぎりぎりヒトのカタチを形成している私ごときに領主なんか無理だって!」


「えぇ……? えーと、愚かで、哀れで……? 油断して婚期を逃して最期は孤独死しそうな…?」


「婚期を逃すくだりは言ってないから!!」


「はうっ! ご、ごめんなさいっ」


 どさくさに紛れてなんて事を言うんだ!? まったく!



「まぁまぁ落ち着けヒナ。ほれ、紅茶じゃよ」


「あ、ありがとう。ぐびぐび」


 私は神様から紅茶のカップを受け取ってイッキ飲みした。

 はぁー、あったかいお茶おいしー。



「じゃあ、そういう事でよろしく頼むぞ」


 ニッコリと微笑みながら神様はガシリと私の両肩を掴んだ。

 ちっちゃくて可愛らしいお手々(てて)だけど、その握力はマウンテンゴリラのように強力で、逃げようとしてもビクともしない。



「た・の・む・ぞ?」


 だ、駄目だ。

 これはなし崩し的にノリと勢いだけで私が領主にされてしまう流れ!


 面倒くさい、とかそういう理由で逃げたいんじゃない。


 統治の事なんかサッパリ分からない私がバカ殿領主をやると街の人たちに多大な迷惑がかかっちゃう!


 神様が相手とはいえ断じてノリで押しきられるワケにはいかないぞ!



「いや、無理だって。領主だよ? どういうアレで私をそんな、いやホントごめんなさいムリ」


「そうパニクるでない。そなた一人で何もかもやる必要はない。小難しい事は補佐役でもつけて任せればよかろう」


「それなら、その補佐役の人が領主やればいいんじゃないの?」


「……」



 私が頑なに領主就任を拒否し続けると神様が黙りこんだ。


 両肩を掴まれたまま、真正面からジーッと眼を見つめられる。


「うっ……」


「……」


 眼をそらそうとしても不思議な輝きを放つ神様の虹色の瞳が逃がしてくれない。

 熱を帯びた視線が絡みついてくる。


 ものすごいプレッシャーだよぉ!



 と、私がMP(マジックポイント)を削られていると不意に神様の薄くキレイな桜色の唇が開かれた。



「ほれっ、じゃーんけんっ……!!」


「ん、んんっ!?」


 じゃんけんだと!?


 えーっと、えーっと……じゃんけん……!


「ホイッ!」




 とっさに私はグーを出し、神様はチョキを出していた。


 うおおおおお勝ったどーー!




 ヒトは突然、じゃんけんを求められると反射的にパーを出してしまう率が高いとバラエティ番組で見た覚えがあった。


 手を握ってグーを作ったり、チョキのカタチにするよりパーが一番、ヒトにとって自然な手のカタチに近いからかも知れない。



 だから、そのパーに対して相手はチョキを出すと勝率が上がる。


 だからこそ、さらにそれの逆手をとって突然じゃんけんを求められた方はグーを出せば一糸報いられる! という検証結果がなんとなく印象深かったのでつい実行した次第である。


 まぁ神様に作戦勝ちしたのか、それともただの偶然の勝利なのかは分からないけど、とにもかくにも勝ちは勝ち!



「やった、勝っちゃった! 私が勝ったんだから領主の話は無しってことで……」


「いやはや、このワシに勝つとは見事よな。まさに領主にふさわしき器。この街のことは任せたぞ」


 ポンッと私の腰を軽く叩いて神様はウンウン、と納得したようにうなずいていた。



「ちょ、ま! じゃあ私が負けたら領主にならずに済んだの!?」


「そうじゃのー、でも勝ったからには仕方ないのー」


「絶対ウソっぱちだあああ!」


 頭を抱える私を一切スルーしてテキパキと指示を出し始める神様。

 

 一体あのじゃんけんはなんだったんだ!

 攻略法まで持ち出した私がバカみたいだよ?



「ではメルティ。そんなワケでこやつがこれから領主となるので色々と教えてやるのじゃ。それとアレとコレの書類を用意してそれから……」


「はいっ、お任せあれですー!」


「ねぇちょっとウソだよね? 私が領主なんて冗談だよね? ドッキリなんだよね? 今頃、あわてふためくこの私の痴態を魔法か何かで魔族のみなさんに晒してお楽しみいただいているんでしょ!?」


「カカカッ。これからのそなたの活躍を楽しみにしておるからの」



 神様には私の痴態をご堪能いただけたようで、おみやげのフルーツサンドイッチを満足げに頬張るのであった。


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