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11話 人類侵略した生活


 メルティちゃんと人生やオトコについて語り合いつつ、領主の執務室の前にやって来た。


 メルティちゃんがコンコンッと扉をノックする。


「ソロモン様。ヒナ様がお見えになられました」


 彼女がそう告げると扉の向こうからトタトタトタッとカーペットの上を裸足で駆けてくる音が聞こえた。



 ガチャッ


「おお、ヒナよ! よく来てくれたのう。ま、ま、中に入るのじゃ」


 扉を開けて嬉しそうに神様が飛び出してきた。

 この前はアダルト神様だったけど今日は幼女神様に戻っている。



「こんちわー神様。今日はチビッコ仕様なんだね」


「ふむ。ワシはこの格好が一番落ち着くのじゃ。まぁ歳を重ねても精神年齢はいつまでも子供のままというところかの」


 そのわりには、高齢者みたいなしゃべり方なのはどういう感覚なんだろう。

 その辺は幼女の姿のまま長生きしないと分からないものなのかな。



「あ、そうだ。神様、おみやげもってきたよ。美味しいやつ」


「ほう、いつぞやの超なんたらフレンチトーストか?」


「今日はシンプルにフルーツサンドイッチにしてみました」


 手提げ袋からサンドイッチの包み紙を取り出して見せる。


 神様は幼女のわりにはインド象のようにたくさん食べるのでセーレさんに多めに用意してもらっていた。



「ほうほう! そなたは気が利くのう。難しい事ばかり考えとったからちょうど頭が甘~いものを欲しておったのじゃ。早速いただくとしよう」


「では私、紅茶を淹れてまいりますね」


「うむ、ありがたい。頼めるかの?」


「はい!」


 失礼します、とニコリと笑ってメルティちゃんが退室していった。


 あの様子だと神様とはうまく付き合っていけてるみたいだね。

 


「それで……気になるから早速聞いちゃうけど私に用があるって……」


「ああ、うむ。その話なのじゃが……そうさのう。とりあえずワシがなぜ人間の街を侵略したか、ちゃんと話そうと思う」


「はぁ」


 神様は執務室のソファに座るよう、手で私に促す。

 長い話になるのかなあ。



「ふーむ、どこから話そうかのう……」


 神様は腕を組んで目をつぶって考え出した。


「あのー、神様。出来れば簡潔に……」


「そなた……、さては面倒くさいと思っとらんか?」


「やばっ! バレてる!」


「コイツめぇ~!」


 神様はほがらかな声とともに立て掛けてあった刀を抜いて私の首を切断しようとヒュィンッと振り抜く。


 あぶねぇ! 死ぬ! と焦った私だが、思ったほどヤバさを感じなかったので親指と中指薬指だけでパシリと白刃を受け止めた。



「おお、なんかカッコいいぞ私」


 キツネさんみたいな手で真剣白刃取りをしてしまったのがカッコよさを著しく損ねている気もするけどご愛嬌ということで。



「むむ、今のそなたをビビらせるにはもうコレでもモノ足りんのか」


「まぁおかげさまでレベル50ですし! てへっ」


 いやぁ私も強くなったもんだなぁ~。

 


「では、これならどうかのう」


 神様の持つ刀からメラメラメラッと真っ黒な炎が吹き溢れてきた。



 仮にアレがただの炎ならさほど恐怖を感じなかったと思うけど、あの黒い炎は絶対に喰らっちゃいけないヤツだ! と直感的に分かっちゃった。



「すいません、調子コイてました。本当に申し訳ありませんでした、ごめんなさいませ」


 私は指先をピーンッと伸ばしたレベル50の土下座をした。



「あ、あの、私が紅茶を淹れている間に何があったんですか……?」


 土下座したまま扉の方に顔を向けると不安そうにメルティちゃんがひいてる。



「やれやれ、頼りがいが出てきたかと感心しておったのに、敵に簡単に降伏するようではいかんのう」


「だって死にたくないもん!」


「ふうむ……ヒナよ。では一つ尋ねるが、もしもここにそなたの手下のオークどもがおって、そなたが負ければオークは皆殺しだとしてもそなたは降伏するのかの?」


「ええ?」


 いきなり何を言い出すんだこの神様。


 んん? えー……私が負けたら皆殺し?

 それってたぶん降伏してもオーク君たちは殺されるんだよね。


 うーん、そんな事いきなり言われましてもねぇ。



「降伏などせず、全員で玉砕。潔く散ろうとは思わぬか?」


 火の玉アタックかー。

 むざむざ殺られるよりはスッキリするかもだけど……。


 オーク君たちの命を預かってる責任を放り出して、考えるの面倒だから突撃するぜぇええ! って事だしねぇ、玉砕って。


 気持ちは分かるけど何かこう……何かないかなぁ。



「えー、玉砕するくらいなら私たちを生かしとけばお役に立ちますぜ、って一生懸命交渉するかな。オーク君たちは力があるから畑仕事でも荷物運びでも役に立つし、私はそうだね……お風呂上がりに毎日、足つぼマッサージをすると約束して……」


「それでも殺すと言ったら?」



「土下座しながら相手の心が動くアイディアを提案し続けるよ。殺されるその時まで。見た目の上では降伏してても、それが私にとって最期まで戦い続けるって事なのかな」

 

「ふむ……」



 シャコンと刀を鞘に納めて、神様は窓際まで歩いていって、外の景色を眺め、黙りこんだ。



「ヒナ様、今のお話、なんだったのですか?」


 土下座していた私を気遣うように近くにしゃがみこんでくるメルティちゃん。


「さぁ、私もよく分かんな……あっ!」


「何かお心当たりが?」


「玉砕とか土下座とか……もしかして恋愛心理テストだったんじゃないかな!?」



 五年付き合った彼氏が別れを告げてきたら怨み言ぶつけて玉砕するか、土下座してひき止めるか、とか!



「玉砕はともかく土下座という単語で恋愛をイメージする人生を歩みたくないですね……」


 確かに。



「よし、決めた。もうワシは決めちゃったぞ」


 考えがまとまった様子の神様はクルリとコチラを向いた。


「泉ヒナ。そなた、今日からこの街の領主になれ。決定」


「は?」


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