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11話 人類侵略した生活


 マリアの転送魔方陣とかいうやつで私は数日ぶりにエルシアドの街に戻ってきた。


 以前は目立たないよう街から離れた場所に転送されたけど、今回は領主館(りょうしゅやかた)の敷地内へと送られたようだ。



「えーっと、神様は館の中にいるのかな?」


 街の様子も気になるが、とりあえずは神様に話を聞きに行こう。

 何か私に用があるらしいけど……。


「ワシと一緒に美味しいオヤツを食べようぞ!」とかそんな話なら大歓迎なんだけど違うんだろうなぁ。



 神様はずっと街に常駐しているみたいだけど、何をしてるか細かくは知らない。


 領主さまの代わりにこの辺りの領土を取り仕切っていたゲスポルスって人とは話が出来たのかな。



「あっ、ヒナ様! おつかれさまですワン!」


「えへへ。ソチラこそご苦労様!」


 正面玄関の扉の前で健気に番兵をしてるコボルトさんのイヌ頭とアゴを「よーしよしよしよし……!」と両手でわしゃわしゃナデまくってから私は館の中へと入った。



「おかっ、おかえりなさいませ、ご主人さ……んああああああああ!? ヒナさんッス!?」


「あれ、アルサだ! 元気?」


 玄関で出迎えてくれたのはメイド服に身を包んだ勇者アルサだった。


 このコは強靭な力を身に付けているので神様の監視下に置いておくとは聞いてたけどメイドさせられてたんだ(笑)。



「ぐぬぬ、その節はよくも騙してくれたッスね……! ここで会ったが100年目!! 覚悟しやがれッス!!」


 ゴチンッ!


「痛いッスぅあ!?」



 私に食って掛からん勢いで詰め寄るアルサの頭にゲンコツが落ちた。


 おや。彼女は確か、エルシアド侵略の夜に私を部屋まで案内してくれたメイドさん、メルティちゃんじゃないですか。



「アルサ! お客様を恫喝するメイドがどこにいるの!?」


「が、ぐ……でも、だけどメルティ先輩っ! この人のせいで街が侵略されちゃったんスよ!?」


 ゴチンッ!


「痛あああいっ!」


「アルサ! お客様を指差さないの!」


「うぐぅ……ご、ごめんなさいッスぅ……」



 おお……私たちが束になってもボコボコにされたアルサが殴られるがままだ!


 まぁメルティちゃんが強いというより職場の先輩には逆らえないって感じっぽいけど。


 アルサ、ノリが体育会系だもんね。

 上下関係には厳しそう。



「ほらっ、アナタは掃除でもし直してきなさい。2階の大広間、さっき見たらかなり雑だったわよ?」


「は、はいッス! 失礼するッスー!」


 アルサはメイド服のスカートをフリフリさせながら慌てて走り去っていった。


 メイド服姿、案外、似合ってて可愛いじゃん。



「ウチのメイドが大変失礼いたしました、ヒナ様。お許しくださいね」


 メルティちゃんは私に向かって深々と頭を下げる。


「いやあ、別に気にはしないけど……メルティちゃんは怒ってないの? 私は街を侵略しちゃった魔王軍の手先だったワケでして」


「……最初は正直ビックリしました。他のメイドさんも魔族なんかの元で働けない! って言って辞めちゃいましたし」


「そうなんだ……ごめんね」


「でもその分、役職が繰り上がってなんと私がメイド長になっちゃいました! お給金も3倍ですよ! えへへっ♪」


「そうなんだ、おめでとう」



 メルティちゃんは



 権力と金の亡者でした。



 彼女に案内されて神様が待ってる3階、領主さまの執務室へと向かう。


「メルティちゃんや」


「なんでしょう?」


 道すがらメルティちゃんに話しかける。

 彼女は人懐っこい雰囲気を醸し出していて話しかけやすい。


 その時点でなんだかメイドとしてすごく優秀な感じだよね。

 いくらお仕事が出来ても側にいてプレッシャーを感じさせるようではいけません。


 と、個人的には思うのです。



「アレから街の様子はどうかな? 不便になった事とかない?」


「うーん、一言では表しにくいです。魔族の兵隊さんに怯えてる人がいるのも確かですし……」


 あちゃー、やっぱり怯えさせてるんだ。

 それは良くないね。



「でも私たちに危害を加えたりはしないし、お店で食事する時もちゃんとお金を払ってるみたいですし、その上よく食べるからちょっと景気がよくなるんじゃないか、って話もあるみたいで」


 なるほど、オーク君たちも相撲取りみたいにバクバクとよく食べるもんね。

 パワー食堂で食べまくったらパワーさん商売繁盛しちゃう!


 ブタ顔のオーク君たちがブタ肉を喜んで食べるかは知らないけど。



「あと、奴隷制度もいきなり廃止になっちゃって」


「あれっ、そうなの!?」


 聞いてないよ!

 神様やるぅ!



 私は汁まみれになって貝殻を拾ってた奴隷の少女の事を思い出した。


 もうあのコはあんな惨めな想いをしないで済むんだね。


 私は結構嬉しくなった。



「あ、でも奴隷という身分じゃなくなったら、その人たちはどうなっちゃうんだっけ?」


「それなんですよねー。正当な報酬で雇い直してもらう、っていうのが理想的でしょうけど、そんな高い給金なら雇えないと元々の主人に解雇される人も多いみたいで」


「うわぁ、奴隷から失業者にクラスチェンジかぁ。世の中甘くないね」


「まぁ、ずっと奴隷でいるより希望がもてるとは思うんですけど。でも奴隷がいたから生活が成り立っていた部分もあるわけで。しばらく街は混沌としちゃうと思いますよ」


 混沌、という不吉な言葉を使いながらもメルティちゃんはなんだか楽しげだった。



「ところでメルティちゃん。すっかり忘れていたんだけどリジッドさんってどうなったか知らない?」


「あぁ……なんか……自室で下半身丸出しで幸せそうに寝てたところを魔族の人に捕獲されたって……」


「そ、そうなんだ」



 あの夜、私と握手したあと「よからぬ事」をするんじゃないかって衛兵さんたちに噂されていたけど、下半身丸出しで一体ナニをしていたんだか……。



「でも好きなんだ? 彼の事」


「いやいやいや、さすがに幻滅しました……イケメンだからってナニをしても許されると思ったら大間違いですよ!」



 こうして一つの恋の物語が儚く終わりを迎えたのだった。


 よかったよかった。

 



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