11話 人類侵略した生活
領主さんをとっ捕まえてから数日が経ちましたよっと。
エルシアド攻略をやり遂げ、燃え尽き症候群を発症した私は魔王城に戻ってゴロゴロしたり美味しいモノ食べてゆったり休暇中。
今は温泉宿みたいにだだっ広いお風呂に入って身も心もお洗濯中です、はい。
ちゃぽぉ~んっ、と天井から零れた水滴のお湯を打つ音が耳奥へと心地よく響く。
「っはぁ~……、脚を伸ばせるお風呂はいいねぇ。なんかこう、体が温かなお湯にトロけてゆきそうな……っはぁ~」
元々、魔王城にお風呂はあったけど一人用の狭い風呂桶に花を浮かべてお湯を継ぎ足していく昔の貴族が入ってそうなスタイルだった。
それをマリアに頼みこんで温泉チックな入浴施設をこさえてもらったのさ。
ありがたやありがたや。
「あぁ~、ヒナさんの成分がとけ込んだお湯に浸れるなんてお風呂場を新築した甲斐がありましたよ~ゴクゴク」
「ちょ、迷いなくお湯を飲むのやめてね」
「大丈夫、すごく美味しいですよ!」
「そういう問題じゃないんだよ!」
温泉を作ってもらった代償として私が入浴する時は大体マリアが乱入してくる。
明らかに私の身体を視る目付きが性犯罪者の二歩手前だが、背中を流してくれるのは地味に気持ちよいので多少のセクハラ行為には目をつぶろう。
カレシでもいれば別だろうけど、背中をすみずみまで洗ってもらえる機会なんて大人になるとなかなか無いもんね。
はふぅ~極楽ごくらく。
「ところでさー、エルシアドって今どんな感じになってるの? 特にトラブルとか起きてない感じ?」
頭をシャンプーでシャカシャカしあったり、背中を流しっこしたりしながら世間話をする。
面倒事には関わりたくないけど、パワーさんとか顔見知りもいるしね。
魔族の支配下に置かれてヒドい目にあってないかは気になるところである。
「そうですね~、さすがに皆さん戸惑ってる様子ですけど、基本的には普段通り生活を送ってもらっているので大きな問題は起きてないです」
問題ない、か。
でも街にはコボルトさんたちや骸骨戦士がウロついてるらしいから落ち着かないんじゃないかなぁ。
彼らも中身はわりと良い人たちだが見た目がね。
合コンとかに来たらギョッとする顔だよ。
「あ、兵士の人達は? スキを見て街を取り返そうとかって暴れだす気配はない?」
「あります。超あります。野獣のようなギラギラした怖い眼をしてますよ。とはいえ、街の人全員が人質みたいなものですから迂闊な行動には出ないでしょうけど……」
兵士のみなさんは武装解除して各自の家々でゆっくり過ごしてもらってはいるけど心中穏やかじゃないだろう。
しかも全力を尽くしてケチョンケチョンにやられたならともかく知らない間に縛られて無条件降伏だもんね。
さぞ悔しさエネルギーが有り余っている事は想像に難くない。
「なんだか前途多難だね。というか前途ってなんだ。結局、神様はあの街をどうしたいんだろうね」
「ああ……その事でヒナさんに話があるとかヌカしてましたよアイツ」
「えっ、私に? うぅ……またやっかい事を押し付けられる気がしてならないよ……」
贔屓目抜きに見ても、ここ1ヶ月ほどで魔王軍の誰よりも絶対に私が一番コキ使われているぞ。
便利で扱いやすいお調子者だとでも思われているんだろうか。
と、それにしてもそうか。
そろそろ1ヶ月経つんだね。
今後、どうなるかはよく分からないけどここらで一度、元の世界に戻ってみたいね。
久々に自分の部屋でのんびりしたいし、あとレベルアップ効果ってのがどれくらいのものか確認してみたいし。
「大丈夫ですか、ヒナさん。考え込んじゃってるようですけど……。よかったら私とよからぬ事をして元気を充電しましょうね」
マリアが背中からピタッと抱きついてきた。
お互い服を着てるなら大した事ないスキンシップだが裸同士で肌を合わせるのは何やら不気味だったので私は肩越しにマリアにデコピンをビシッ! とお見舞いする。
「んきゃっ!?」
あまり深く考えずに放ったデコピンだが、くらったマリアは
ドシュゥゥウウウンンッ!
っと10メートルくらい勢いよく吹き飛んでいって温泉施設の観賞用の一枚岩にどかーんと派手に激突した。
「はぅう……」
ずるり、と崩れ落ちるマリア。
岩には漫画みたいな人型の跡がクッキリと刻まれている。
「あぁっ! ごめん! ガチでごめん! レベルアップした感覚にまだ慣れなくって……!」
そうなのです。
街の支配に貢献したり、勇者アルサと死闘を繰り広げた事で私はめでたくレベルアップしたのです。
しかも初心者応援キャンペーン期間とかで通常より経験値が何倍入って一気にレベル50になったんだって。
参考までに聞くと私の初期レベルが10でエッチさんやライ君でレベル5らしい。
そう考えるとレベル50って上がりすぎな気がするけどいいんだろうか。
「うぅっ……だんだんヒナさんにイタズラするのも命懸けになってきました……」
「うん、イタズラしなければいいだけだと思うけど……ちなみにマリアってレベルどんだけなの?」
「私の戦闘レベルは53です」
「えっ!? 私、魔王とレベル3しか変わらないの!? 私すぐこんなに強くなってて本当に計算あってるの!?」
「そこはホラ、私は天候を操ったりモノを生成したり色々出来るので……その点、ヒナさんは戦闘面にステータス全振りしてるからそんなものだと思いますよ」
そういうものなのか。
どちらかというと私も好きなだけオヤツを生成したり会社に行きたくない日に台風を呼び出せる万能タイプな魔法使いになりたかったなぁ。
やれやれ、とため息をつきながら私は脱衣場へと向かった。




