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11話 人類侵略した生活


「お姉ちゃんこそヒナさんをイジメないで……! すぐにヒナさんから離れてーっ!」


 おや?


 不機嫌そうなマリアから、何やら気になるワードが飛び出したような気がするよ?


「お姉ちゃん? えっ、それって神様のこと?」


 問われたマリアはむぐぐ……と口をつぐむ。



「お、そなたは知らんかったかの? そうじゃよ、いかにもこのワシはマリアの実の姉上様じゃよ」


 神様がいたずらっぽく笑みを浮かべ、えっへんと胸を張る。


「えええ!? そうだったの!? 知らなかった! へー! へー! 言われてみれば口元とかちょっと似てるかな、へ~!」


 ここにきて新事実発覚。


 そうかー、神様であるソロモン様と魔王マリアは姉妹だったんだー。


 それじゃあ仲悪いって話も深刻なヤツじゃなくて、姉妹ゲンカレベルの話なのかな?



「でもアレだよね。神様の方がお姉ちゃんなのにチビっちゃいのは魔族的には普通の事なの?」


「ふむ、そこはアレじゃ。魔力が肉体を凌駕すると外見は精神年齢に引っ張られるからのう。ま、その気になれば自由自在じゃが」


「にくたいをりょうがって何か小難しい話……ん……あれっ?」


 私がパチクリとまばたきした間に神様はロリ幼女姿から妖艶な美女に一瞬で変貌を遂げる。


 胸はデカいわ、手足はスラリと伸びて腰にくびれがあるわ、顔も結構な美人だわで変身前とは比較にならない凄まじい戦闘力だぜ!



「う~ん、ビックリした。神様大人バージョンかぁ、やるなぁ~。着物からのぞく艶やかなおみ足がまたセクシーっすね」


「ふふ~ん、そうじゃろ? よしよし、ヒナは正直でういヤツよのう」


 アダルト神様が私を抱きよせ頭をうりうりとなでてきた。



(いかずち)よ、眼前の不埒者(ふらちもの)穿(うが)て!」


 パチンッ!


「痛いっ!?」


 またもやマリアの電撃が私と神様を貫いた。

 アタマをなでられてたせいか私の髪が静電気でクッシャクシャに逆立った。


「ちょっ、マリア!! それ、私も痛いんだけど!? というかたぶん私だけが痛いんだよ!!」


 さすがに神様は防御力だか耐性だかが高いようで私ほど(こた)えている様子はない。



「だ、だってヒナさん、お姉ちゃんとイチャイチャしてデレデレして……!」


「やれやれ、まったくマリアは相も変わらず子供じゃの。お友だちがとられて悔しいのか? ほれ、姉上様がヨシヨシしてやろうぞ」


「あっ! くっ……」


 神様が無理やりマリアを抱きよせ強制的にアタマをなでて「ヨシヨシ」と可愛がる。


 神様への反抗的な態度とは裏腹にナデナデされること自体はとても気持ちいいようでマリアには抗えないようだ。

 恥ずかしそうに目を閉じて悶えている。


 

「うぅ……あぁ……ヒナさん、私を見ないで……」


「ん、見ちゃダメなの? 神様の事、嫌ってるようだったから心配してたけど、すごく仲むつまじくて微笑ましいじゃん」


「そうじゃろそうじゃろ。マリアときたら昔はどこへ行くにもワシのあとをひっついて離れん甘えん坊さんでのぅ」


「う、うううううう……!」


 マリアの持っていたパンから電撃がピリピリッとスパークしたかと思うと、それをガッと神様の口にねじ込んだ。



「むぐ? ごくん……っんぶるぉおおおうぅううううぉおおお!?」



 雷を帯電したパンを飲み込んでしまった神様は、体内からブルルビリリリリィッと見た事も聞いた事もないような震え方をしてブッ倒れてしまった。


「お姉ちゃんのおたんこなす! とうへんぼく! もう知らないっ!」


 悪口が昭和だなぁ。

 マリアは捨て台詞を吐いてどっかへ走り去っていった。



「あ、あの、大丈夫ですか……?」


 最初の巻き添え電撃で痺れまくっていた領主さまがヨロヨロと地面を這いつつ、神様の近くまでいって様子を伺う。



「ふん、ちょっと食道と胃と十二指腸あたりが痛かっただけじゃ。問題ない」


 神様は倒れたまま両足を垂直にスッと上げ、一気にふり下ろすその反動で上体を起こしてその勢いで立ち上がる。


「あ、いえ、貴女はきっとスゴいお(かた)なので体の方は丈夫だと思いますけど、心の(ほう)が大丈夫かしら、と思いまして」


「心じゃと?」


 神様は訝しげに地を這う領主を見下ろす。



「あの妹さん、心から貴女を嫌っているようには見えませんでした。第三者から見ればそれは分かるのですが、家族にひどい事を言われた本人は動揺して心が傷付いているのではないか、と」


「ほう……」


 神様は腕を組んで少し考え込む。


「あやつ……ワシの事を本当に嫌っとらんのかの? 自分なりに可愛がってやっておったつもりじゃったが最近はいつも怒ってばかりでの」


 マリアが走り去っていった方向を見つめる神様。

 おどけた感じでマリアの事をいじってたけど神様なりに色々と思うことはあるのかな。


 自分が人間の街に侵略するって言い出して、マリアが怒り出した事をどう思っているんだろうか。



「妹さんが怒っている理由は私には分かりませんけれど、もし心当たりがあるのなら例えあなたが正しいとしても一度、素直に謝るべきです。少なくとも私は領民に対して常にそのように接しています。すぐに和解出来なくても、キチンと言葉にして謝るのはとても大切なことなのです」


 先程までフニャフニャしていた人とは思えないような凛としたオーラを醸し出す領主さま。


 頼りなく見えたけど立派な人じゃないか。



 でもアレだよね。

 常に謝っているという事は常に謝らなきゃいけない事をしでかしているという事では……という疑問が即座に湧いてくるのは私の心根が歪んでいるからかにゃ?



「エルシアドの領主、アレクサンドラよ」


「はい」


 神様が手を差しのべ、領主さまはその手をとって立ち上がる。


「ワシはそなたが私利私欲にまみれ、悪政で民を苦しめていると聞いていたが、どうも思っていたのと違う人物像だのう」


「はぁ、えっ? 悪政とはひどいですよ! ゲスポルスはよくやってくれています」


「ゲスポルス? なんじゃ、その者は」


 誰だか知らないけどなんだかゲスっぽい名前だな。

 いやいや、誰だか知らない人にそんな失礼な事を考えてはいけないぞ、私。



「若くして領主になったものの統治に関しては右も左も分からない未熟な私の代わりに全部やってくれる人なのです」


「なに、全部やってくれるのか。いいのう」


「はい、全部やってくれるんです。いいでしょう」


 領主は閃光のようにまぶしいドヤ顔をキメた。



「ちなみにそなた自身は領主としての仕事は何をやっておるのかの?」


「民に手を振ったり、微笑んだり、謝ったりしてます」


 ざっくりしてるなぁ。



「神様、神様」


 私は神様に耳打ちする。


「私もこの街の良くない所を色々と見聞きして領主さまファックって内心思ってたけど、もしかして悪いのはそのゲスなんとかさんの仕業では……」


「典型的な傀儡(かいらい)政権というヤツかのう」


 二人して改めて領主さまを見返すと、人の良さそうな顔で微笑み返してきた。


「やばい、この人の笑顔を見てたらなんでも許しちゃいそう」


「ワシも」


 神様はこの街の政治に関して一言物申してやるつもりだったみたいだけど、これはそのゲス(なにがし)って人と会ってみないと話が進まないのかもね。


 とりあえず私たちはマリアが置いていったパンを3人で仲良く食べたのであった。



 というかもう限界っす。

 色んな事がありすぎて脳がボーっとしてきた。


 寝なくても平気なハズの戦乙女ボディだけど眠ってはいけないという規則はない。


 食べるもん食べてお腹がふくれたら私は休ませてもらお~……。



 私は朝日を浴びながら明け方に吹く涼やかな風にたゆたって目を閉じた。



 

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