11話 人類侵略した生活
「ほいっと」
神様が指をクイクイッと動かすと領主を拘束していたロープがシュルシュルとほどけた。
あのロープ、マリアが魔法を解くか専用の魔法アイテムを使わなきゃほどけないって説明受けてたのに簡単に外しちゃうなんてさっすが神様。
地面に打たれた楔に結びつけられ、起き上がれなかったアレクサンドラは戒めが解けて、うぅ~っんと背伸びをする。
「はぁ~……あなたが助けてくれたのですね、ありがとうございます。このご恩は領主として必ずお返しいたしますので……」
彼女は神様に深々とお辞儀する。
「なあに、礼には及ばぬ。なにせ、お主をそのように拘束するよう命じたのは、元をただせばワシなのじゃからの」
神様はふてぶてしい表情でニヤリと笑う。
「ああ、はぁ。左様でしたか。わかりました」
そういうと領主さまは微笑みを浮かべ、スッと前を見据えて沈黙した。
「……」
「……」
「……?」
神様は彼女の次の言葉を待っているようだが、領主さまは笑みを浮かべているだけ。
「いや、笑っとらんでワシに何か言うことはないのかの」
「ええ!? すみません、ごめんなさい! ありがとうございます!?」
「いやいやいやっ! なぜ、そこでお礼を言うのじゃ。 だから、ワシはお主の街を侵略したのじゃぞ?」
「えっ、そうなんですか!? これはこれはそうとは知らずに失礼な事を……!」
彼女は泣きそうな顔で礼儀正しく会釈する。
一方、神様はアタマを抱えていた。
「ヒナよ、こやつはなんなのじゃ。一体どういう意図で自分の街を侵略した相手にこんな珍妙な態度をとるのじゃ……? 同じ人間同士のそなたになら分かるか?」
「え? さぁ……こんな状況だしテンパっているのでは」
領主さまはもうどうしていいか分からずオロオロしている。
話が進まないので仲介をしてあげようか。
「えーっと、領主さま。こちらの偉そうな魔界の神様は領主さまとこう……カッコいい感じのやりとりをしたいみたいのでピシッとなさった方がいいと思いますよ」
「お、おまかいのかみさ……は、はい」
言われた通り、彼女はピシッと背筋を正した。
「で、領主さまからあの人に質問とかありませんか? なんでこの街を支配したんだー、とか一人称が『ワシ』の幼女って萌えを狙っちゃってるのかよ(笑)とか」
「おい、これ、ヒナよ。そなた、ワシに何か言いたい事でもあるのか? んん?」
神様がいつもの怖い殺気を向けてきた。
「あっ、いやいや! 私はそのっ、領主さまが疑問に思いそうな事を羅列してっただけで私の個人的な思いなんてちっともありませんよ?」
「ふん……で、どうなのじゃ、領主よ。ワシに何か言いたい事はないのか」
「あ、はい……えっと」
アレクサンドラは口元に手をあてて一生懸命考えてる様子だ。
「あの……、あなたはどうしてそんな変テコなしゃべり方をしてるのですか?」
神様は両手を上げて、私と領主さまの鼻をキュッとつまんで腰の高さまでアタマごとグイッと引き下ろした。
「ひぅっ!?」
「か、神様! 痛い痛い痛いって!」
私は鼻を引っ張られたまま、抗議の声を上げる。
「ワシは人をおちょくるのは好きじゃが、おちょくられるのはガマンならん」
わがまま神様だなぁ。
「雷よ、眼前の不埒者を穿て!」
「ッ!?」
向こうの方から誰かの声が聞こえたかと思うと
パチンッッ!
と、神様につままれてる鼻の方から全身にかけて静電気の実験のヤツみたいに電気ショックが走って目から火花が出た感覚だ!
ってか痛いよ!
「いったぁあああ!? 神様!! 酷すぎるよ!!」
「今のはワ、ワシの仕業ではないわ! というかワシも痛いのじゃ!」
神様がキッと後ろを振り向く。
「コラッ、マリア! お前、どういうつもりじゃ!」
そこには両手いっぱいに丸っこいパンを100個くらい抱えて髪を逆立たせたマリアがいた。
とりあえずパン持ってき過ぎだよ。
私、どんだけ食べるイメージなんだよ。




