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11話 人類侵略した生活


 オーク君に領主様やアルサをかついでもらって館を出ると夜が明けていた。


「うぅーん、ひさしぶりに徹夜しちゃったなぁ……」


 背伸びをしながら昇ったばかりの黄金色な朝日の光を浴びる。


 睡眠は充分にとりたいので徹夜とか極力したくないタチの私だが、ひと仕事終えて美しい朝焼け空を見る、ってシチュエーションは嫌いではない。

 コンビニで缶コーヒーでも買いたいところだね。



「みんなもお疲れ様だったね、大丈夫?」


 エッチさんもライ君もオーク軍団もズタボロだ。

 アルサにボコボコにされたのと、夜通しの作業で肉体的にも精神的にも疲弊している事だろう。


 だけど、みんなスッキリした顔をしていた。



「大丈夫ではないッスけど、なんかやりきった感はあるッス」


「あー、早くひとっ風呂浴びて思いきり寝たいスね」


「オレは小腹空いたスなぁ。寝るならうまいモンたらふく食ってからにしたいス!」



 オーク君たちは普段、その辺に勝手に生えてる野菜や木の実を適当にとったりしつつゴロゴロして、基本的にはダラダラと生活しているらしい。


 そんな彼らにとって、珍しく何かをやり遂げた一日なのかも知れない。



「というか私たち、もう勝ちって事でいいのかな? 人々からのリアクションが無いからイマイチ実感が湧かないんだけど」


「ですよね……体力が残ってればこの翼で飛んで様子を見てこれるのですけど」


 エッチさんも力なく背中の羽をパタつかせてピンと来てない顔をする。


 そうなのだ。

 領主の館の衛兵たちも未だにグーグー寝てるし、街の方も静かなもんだし、侵略開始ビフォアーとアフターで特に何かが変わった印象はない。


 などと思いながら、敷地を抜けて館の門に近づいていくとワイワイと何やら声が聞こえてくる。



「あっ、ヒナさん! ヒナさーんっ!」


 領主の館前の広場に魔王軍のコボルト兵や鳥人間兵のみなさんが集まっていた。

 その中から魔王マリアが手を降りながら飛び出してくるよ。



「やあ、マリア。領主さん捕まえてきたよ」


「きゃあっ!? ヒナさん、大丈夫ですか!? 唇から血が! 膝も腕も、アチコチ擦りむいて……」


「うん、正直わりと痛い」


 子供の頃、自転車で坂道を下ってる時に自転車ごとコケて、ザラザラのアスファルトで体中スリむいた時の感じを思い出すね!


 あの時は不覚にも大根おろしの気持ちを理解してしまったよ。

 


「もしよかったら私とキスしたら全快しますよ」


「ところでさ、私たちって勝ったの?」


「スルーしないでください! 分かりましたよ、治しますよ! 癒しの風のいたずらっ!」


 マリアがバッと腕を振り上げると辺りに旋風が巻き起こり、私のスカートがパンツ丸見えになるくらいめくれあがった。



「おい」


 マリアに殴りかかろうとしたけれど、フッと体のヒリヒリとした痛みがなくなったのを感じてかろうじて踏みとどまる。


「あっ、傷がなくなったッス! すげえス!」

「魔王さま、あざーっす!」


「うふふっ。みなさんもご苦労様でした!」


 私の傷だけではなくオーク軍団全員のダメージも回復してくれたようだ。

 ぐぬぬ、これでは怒りにくいじゃないか。

 なんという策士だろう。



「マリア様、非常にナイスでした。ナイスパンツでした」


「でしょ?」


 エッチさんとマリアがパァンッとハイタッチする。

 なんだコイツら、アタマ痛くなってきた……。



「よう、泉。難儀な仕事押し付けられた上に変態に絡まれてご苦労なこったな。本当にお疲れさん」


 やれやれだぜと天を仰いでいるとイベっちがやってきた。

 イベっちはイベっちで問題児だけど、まともに労ってくれたので今は女神に見える。



「って、あれ? イベっち何おいしそうなモノ持ってるの?」


 彼女はお茶碗を持ってて、器の中はクリーム色の野菜スープっぽいもので満たされている。

 それに頭には黒い三角巾が。


 ゴスロリ服と家庭的な三角巾がミスマッチして妙に可愛いぞい。



「炊き出しさ。街は完全に制圧完了。館の方も魔力の動きが感じられなくなったって魔王が言い出したから、勝利宣言出して兵どもに振るまってんだ。ほら、これはアンタの分」


 イベっちが持ってた器とスプーンを渡してくれた。

 戦乙女的には食べなくても平気らしいけど、疲れていると脳が栄養を欲している気がする。


 私はスプーンでスープをすくってパクっと口に含む。

 口の中と舌にコーンポタージュのほのかな甘みと塩気がじゅわぁ~っと染み込んでいく。



「ああ~……うまいっす……」


「へへ。まぁ、ゆっくり食ってな。あ、パンもあるから持ってきてやるよ」


「むぉ~、ありがと。イベっち優しい!」


「なっ!? クリームちゃん、なにヒナさんの好感度あげちゃってるんですか!? ひそかにヒナさんエンディング狙ってるんですか!? いやらしい! いやらしい!」


「クリームって呼ぶんじゃねぇ!? あと、女を狙うとかありえねーし! そしてスカートめくりする香具師(ヤシ)にいやらしいとか言われる筋合いは無ぇ!」


 マリアとイベっちが競いあうようにパンをとりに行ってくれた。


 あー、このノンビリした空気感落ち着くわぁ~。


 オーク君たちもみんな炊き出しをもらいに並びにいったようだ。


 おや? 炊き出し作ってるのセーレさんじゃん。

 これ、食べたら手伝いに行こっかな。


 コーンポタージュをすすりながら、いつものふんわりとした雰囲気が戻った様子を確認して私の緊張もとけてきたようだ。


 あ、そういえばマルバスさんやイポスさんどうしてるんだろう。


 特に用事もないけど、どこかにいないかな~と辺りを見回してみると


 地べたに転がっている領主さん、アレクサンドラと目が合った。



 この人、ついに目が覚めちゃったのか。


「あの~、そこのアナタ? これはどういう状況なんでしょう。私は何故、縛られているのかしら」


 キョトンとした表情で本当に不思議そうに尋ねてくる。



「えーっと、まぁなんか、あの~、魔王軍に侵略されちゃったみたいですよ、この街」


「えっ!? それは大丈夫なの!?」


「大丈夫じゃないんじゃないかなぁ。あ、でもやっぱり大丈夫。みんな、そんなに悪い人たちでもないので……」


「そう! ならいいけれど」


 いいのか?

 自分で大丈夫って言っといてなんだけどそんなに安心できる状況とは思えませんよ領主さま。



「あら? 待って。アナタ、イズミヒナ? お料理上手のイズミヒナね! シェフのアナタが何故、甲冑を?」


「はぁ。まぁ色々と諸事情ございまして」


「そうなの? よく分からないけれど、とりあえず縄をほどいてくださらない? ちょっとこの体勢キツくって……」


「領主様。それが私、実は魔王軍なので勝手にほどいたら怖い人に怒られちゃうので無理です。ごめんなさい」


「ええっ、そうなの? 怖い人に? それはかわいそうねぇ。なら仕方ないわね……はぁ」


 納得してくれたよ!

 良い人だなぁ。


 良い人だけど、こんな人が領主で大丈夫なんだろうか。


 いや、大丈夫じゃないから、今この人は地べたに転がっているという事なのかしら。



「やれやれじゃ。下衆な権力者なら一思いに首でも落としてやるものを。こういう輩はやりづらいのう」


「あ、神様」



 湯気のたつコーンポタージュが注がれたお茶碗を携えて、魔界の神様ソロモン様がテクテク歩いてやってきましたよ。


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