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10話 人類侵略する生活


 謁見の間を出て、割りとすぐの場所に領主のお部屋があった。


 いよいよ、クライマックス!

 領主を拘束すればこの戦いも一段落つくんだ!


 警戒しながら部屋の扉を開け、部屋の中に入るといかにもって感じの天蓋つきのベッドで領主、アレクサンドラ・なんとか・かんとか様がスヤスヤとのんきに寝ていらっしゃった。



「よしよし、とりあえず縛っちゃおうか」


 と、早速ロープを取り出したけど、領主さまったら寝間着というか結構な薄着だね。

 肌も(あらわ)、というかおっぱいの谷間がムキ出しだぜ!


 このあと、しばらく縛られっぱなしだろうし、せめて上着くらい着せてあげようね。



 ネムリタケで寝ている者はちょっとやそっとで目覚めない事はなんとなく分かってきたので、私はアレクサンドラの上体を起こし、その辺に畳まれていたサラサラ生地のガウンを着せる。


 荒れ知らずのすべすべ肌だ。

 良いモノ食べてストレスのない暮らしをしてるんだろうなぁ。



「お姉さん」


 ヒカリがすべすべ領主をじっと見つめながら声をかけてきた。


「この女、これからどうなるの?」


「え? あーっと……知らない。私は降参させろーとしか言われてないし。まぁ、とりあえずマリアの元に連れてくけどさ」


 とはいえマリアだって領主を引き渡されても実は用も無いだろうし、最終的には言い出しっぺの神様が処遇を決める事になりそうだ。


 でも、神様もどうする気なんだろうね。

 人間を支配してイバりちらしたい性格でもなさそうだけど。



「偉い人たちに渡したら、もう私が近づける機会はないかも。今のうちにお腹つねってもいい?」


「ああ、そういうアレか……」


 そんな話もしてたっけ。

 

 お腹を10秒つねってスッキリするなら好きにさせてあげたいけど、正直ヒカリの感情は読みきれないところがある。


 信用できない。

 というよりも、真っ直ぐすぎる部分がちょっと怖いのだ。


 近付いた瞬間、隠し持ってるナイフでシュパッと喉元を切り裂く可能性も否定しきれないんだよなぁ。



「やっぱりダメって言ったらどうする?」


「えっ、約束が違う」


「いやホラ、アルサみたいに暴れまくるならちょっとビシッとやっても仕方ないけど無抵抗の人を痛めつけるのってよくないかなぁって」



 ごまかすための方便、ってワケでもない。

 戦争映画で捕虜をいたぶる姿というのはなかなかイメージが悪いものだ。



「まぁ、あとで神様に頼んでみてあげるから」


「……本当は私が領主を殺すんじゃないか、って疑ってる?」


「えっ!? あっ、はい。まぁ、そうです。ごめんね!」


 図星をつかれて焦った私は正直に謝った。

 言葉だけで謝るのも軽いと思って、改めてちゃんと謝ろう。



「ヒカリ、本当にごめん」


 私は頭をしっかり下げた。


 ヒカリからすれば領主の悪政のせいで家族と引き離されて、暗殺組織なんて後ろめたい場所で生きていくハメになったのだ。

 直接、恨みを晴らしたいと思っても無理はない。


 せめてお腹をつねらせてもバチは当たらないと思うけど、それすらなんとなく許可しないんだから申し訳なさでいっぱいだ。



「やめて。お姉さんが謝る必要はない」


「ヒカリ……」



 私が頭を上げるとヒカリがナイフを構えていた。



「えっ!?」



 シュコンッ!



 ヒカリの投げ放ったナイフが壁にかけられていた肖像画にビィィィンッ……と突き刺さる。


「疑って正解」


 そういうとヒカリは寂しそうにクルリと後ろへと振り返り、部屋から出ていった。


 声をかけたかったけど、うまい言葉が見つからない。

 というか「うまい言葉」なんかかけたくなかった。



 肖像画に描かれている人物は立派な衣装を身に纏っている。

 もしかしたらアレクサンドラのお父さんとかご先祖様なのかな。


 この絵の人物にナイフを突き立てる事でヒカリの溜飲が幾分か下がってアレクサンドラが命拾いしたのだとしたら、肖像画になった甲斐があったね。



 彼女は死なずに済んだし、ヒカリも人を殺めずに済んだ。



 私は絵からナイフを引き抜き、手を合わせてお参りした。




 そののちエルシアドの領主アレクサンドラは魔法のロープで拘束され、かつて戦乙女ラヒルダによって守られた街は魔王軍の使いっパシリ戦乙女たちの手によって完全に陥落したのであった。



 まぁ、みんな寝てるから、街の住民はその事実にまだ誰一人、気付いていないんですけどね。

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