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10話 人類侵略する生活


 なんか背中の……肩甲骨あたりがポカポカするな……って鼻水をスンッとすすりながら振り返ると、背中から翼が生えてるっ!

 戦乙女ってそういうオプション機能もあるんだね。


 でもこれ、寝る時ジャマにならないかな……。



 ああ、いや、そんなことより!


 翼っていうからには空を飛んで、アルサにフルボッコされてるみんなを助けにいけるんじゃないかッ?


 とりえあず鳥みたいにパタパタ翼を動かそうとしてみるが、ちょっとピクピク動く程度で手足みたいに上手く動かせない。


 私は次に「むぉおおお飛べぇ~っ」っと念じてみると前方にギュンッと()んだ。


 思ったよりすごいスピード!



「……って、速すぎィイィイッ!?」


「へ?」



 ガッツゥウウウンッ!!



「かはっ!?」


 私の絶叫に振り向いたアルサの胸部に思いっきり頭突きが直撃!


 そんなつもりではなかったんだけど。


 とにかく私の頭もチョー()ってえけど、アルサも兜ごと頭突きがメリ込んで効いたのか、胸を押さえてさすがによろめいた。



 チャンス!


 と、言いたいが先ほど頭を蹴っ飛ばされたダメージ&今の頭突きで私の意識も遠のきそうだ。


 私は落下しながらアルサの体に絡み付いて羽交い締めにするので精一杯。



「誰か、なんとかして!」


 私は気を失いそうになりながら叫ぶものの反応がない。


「ぐぬ……無駄ッスよ。もう残りはアンタだけッス!」


「え……?」


 グチャグチャの視界で辺りを見ると、オーク君たちもエッチさんも全員、地べたに倒れ伏していた。


 みんな、息も()()え。

 とても立てる感じではなさそうだ。


 と、アルサが体をぐいぐい揺すり始める。

 体力は落ちてるようだが、それでもまだまだ馬力が残っている。

 この拘束が逃れたら今度こそオシマイだ!



「好機」



 薄暗い謁見の間の闇に紛れてヒカリがゆらりと現れた。



 おおっ、姿を見なかった気がしたけど機会を伺って隠れてたんだ。さすがだね!


「なっ、まだ仲間がいたッスか!?」


「お姉さん。この人、殺したら怒る?」


 ヒカリはナイフをアルサの胸に突きつける。



「わあ、だめだめ! 戦う事になっちゃったけど、アルサは友達だから!」


「なっ……なにが友達ッスか!? ふざけんなッス!」


 アルサは羽交い締めにされながら怒気を(あらわ)にした。

 体をさらに激しく揺する。


「くっ……!! ふぅ……はぁ……まぁアルサは別に私をフレンド登録から解除していいけど、私はアルサが困っていたら助けたいよ。アルサの事、嫌いになれないもの」


「う……うう、何をっ……」


 はっはっは。

 私の甘い言葉で動揺しているね。


 はぁ……はぁ……。


 ああ あたまがいたい。



「だったら今まさに困ってるこの状況をなんとかしろッス! 放すッス! そしたらブン殴ってやるッス!」


「ええ……? さっき私のアタマ蹴っ飛ばしたじゃん……。まあ、でもいいよ……全部終わったら改めて殴っていい……よ……」


「全部終わったら……って、そんな事になったら手遅れなんスよ……!」



「えいっ」


 私たちが言い合う中、ヒカリが唐突にアルサのお腹を殴った。


 またもやガキィィンッと金属音が鳴り響く。


「無駄ッスよ、落ちてたモノを拾い食いしまくって鍛えたお腹は無敵ッス!」


 腹筋って拾い食いで鍛えられるのかよ!?


 やっぱりお友達やめたくなってきた。



「ヒカリ! 手、大丈夫?」


「平気。備えあれば憂いなし」


 ヒカリの指には昭和の不良のマストアイテム、カイザーナックルっぽい金具がハメられていた。

 さすがに抜け目がない。

 しかし、これでも効かないとなると……。


「こうなったら最後の手段」


 ヒカリがガッとアルサのおっぱいを掴んだ。


「わひぁああ!? 何するッスかこのエロがきんちょ!」


「こちょこちょこちょこちょ」


 訂正。

 おっぱいを掴んだのではなく、脇をくすぐりたかっただけのようです。


 あー、よかった。

 変態はマリアとエッチさんだけで十分だよ。


「ひゃ、ひゃひゃひゃ! やめ、うひゃはひゃは! はぁ、ひゃはあははは! ひゃひゃっ、うひゃひゃひゃひゃひゃ、はぁっはぁっ……!」


 ズンッ!


 両手でくすぐり続けつつ、ヒカリは膝蹴りをアルサのみぞおちに突き刺した。


 あれ?


 さっきみたいな金属音がしない……?


 そしてアルサの体からガクッと力が抜けた。


「すごい、ヒカリ! 効いたよ! でも、なんで……?」


「思いきり息を吸うと腹筋がゆるむ瞬間がある。そこを狙った」


「それでくすぐったんだ。賢いねぇ。物知りヒカリだね!」


「えへ」


 私も元の世界で痴漢にでも襲われたら試してみよう!

 そんな日が来ないといいけど。



「くぬっ、まだッス……まだ終わらんッス!」


「あっ!?」


 ドンッ!


 油断したスキをつかれてアルサは私の拘束をふりほどき、背中を私にぶつけてきた。

 

 なんてことない攻撃だけど、すでにフラフラの私はたまらず倒れ込む。



 アルサ、暴れまわって呼吸(いき)も上がってるのにしつこいな……。


 でも、漫画とかだと勇者って倒れても倒れても立ち上がってくるからねぇ。

 ちょっと魔王がゲンナリする気持ちが分かった気がする。



「ヒカリ……勝てそう? もちろん殺さずに」


「……正直、殺すつもりでも厳しい。防御力が高すぎる」


 先ほどまでと同じ、無表情なヒカリの顔だが若干、焦りが浮かんでいるのを感じた。


 だったらこれはもう……せめてヒカリには逃げてもらった方が良いのかも知れないな……。



「たぁあああっ!」


 えっ?



 ぷちゅっ。



「むぐゅっ!?」


 私の頭に撤退の文字がよぎったその時、倒れていたエッチさんがアルサに飛びかかって



 接吻(くちづけ)をかましました。



 吸い付くエッチさんの唇とアルサの唇。


 絡み合う舌と舌。



「うわっ、エッチさんいきなり何してんの!? えっち! 不健全! ふしだら!」


 私は最後の力をふりしぼって立ち上がり、ヒカリにサッと目隠しした。



「フ、フフフ。これぞサキュバスの奥の手です!」


 ちゅぽんっとアルサから唇をはがして笑みを浮かべるエッチさんはバシィンッ! とアルサからビンタされて


「ふぎゃっ」


 とか言って鼻血を垂らしながら張り倒された。


 まぁこれは私もフォロー出来ないね。

 エッチさんがいけない。



「こ、この……よくもは、はじめてのキスを……!」


 顔を真っ赤にして涙目で怒りに震えるアルサ。


「ぐぐ……姐さんに手を出すんじゃねぇ……!」


 足元に転がっていたオーク君がエッチさんにトドメを刺そうと近寄るアルサの脚に組み付いた。


「わひゃんっ!?」


 その途端、アルサが悲鳴をあげた。



「は、放せ……ッス!」


「放してたまるか!」


 オーク君がなおも脚を押さえようと力を込めると


「ひゃっ! ひゃぅんっ……!」


 ん?

 なんか悲鳴の質がなんか変な気が……。



「これぞサキュバスの奥の手、淫堕(いんだ)への誘い! 私の体液を体内に含んだ者は男女問わず……思春期の男子みたいに服がこすれただけで感じまくるいやらしくも敏感なカラダになってしまうのです!」


「んなっ……!?」



 え、思春期の男子って常にそんな危うい状態なの?


 真偽のほどは分からないがオーク君をふりはらわずにクネクネしているアルサが正常な状態でないことは分かる。



「ふぅ……今の体力が落ちてる状態なら魔法抵抗力の強そうな勇者にも効くのでは! と賭けた甲斐がありました。さぁヒナ様、チャンスです!」


「あ、はい。じゃ、じゃあオーク君たちは最後の力をふりしぼってアルサにそのぅ……おさわりしてくれるかな?」


「うす! そういうことなら……」


「うおおおおっ!!」


「だぁああああっ!? ちょ、待つッス! そ、そんな優しく触るなッス! あ、あ、ああああああああああああああざあああああああああ!?」




 アルサは、あの、詳しく説明することがためらわれる程度には大変な事になった。



「お姉さん、どうなってるか気になる。ちょっとだけ見せて」


「だめです。まだ5年は早いです」


 私がヒカリを目隠ししている間に大変なことになったアルサは魔法のロープでぐるぐる巻きにされた。



 力を入れようにもずーっとテクニシャンのエッチさんにおさわりされているのでアルサもグッタリしている。


 こうして私たちは勇者に勝ちましたみたいですよ。


 勝ったどぉー!


 と、(とき)の声を上げたいところだが、後味の悪い勝利だな……。

 なんか、もっとこうカッコよく勝ちたかったような……。


 まぁいいか。


 アルサの拘束はエッチさんに任せ、私とヒカリ、まだ体の動くオーク君を数名引き連れ、領主の部屋へと向かった。



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