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10話 人類侵略する生活


 全身が光に包まれ、まさしく稲妻のように私へと槍を向け、突撃してくるアルサ。


 この一撃で失神出来れば楽チンなんだろうけど、かろうじて見切れるんだよね、戦乙女子力(いくさおとじょしりょく)で!


 私は胴を狙ってくるアルサの槍先に自分の槍を思いっきり叩きつけた。


 パキィィンッとカン高い金属音が鳴り響き、アルサがズザザッとブレーキをかけ踏みとどまって突進を中止する。



「ぐぬぬっ……本気の稲妻突きを止められたのは初めてッス!」


 体勢を整えつつ、アルサが驚いた顔をする。



「本気の……? そういえば、街の外でならず者相手にも稲妻突きぃーっとかやってたけど、全然違う感じだよね」


「あの時は三日三晩走り続けた状態だったので気力ポイントがほぼゼロだったッスから!」


「ええ? そんなヘロヘロな状態だったのに私たちを助けてくれたんだ! あらためてありがとうだよっ」


「えっ……まぁ当然ッス!」


 アルサはデヘヘっと嬉しそうな顔を


「だァーッ!? ダメッス!! ヒナさんは敵ッス! 魔王軍ッス! てりゃああああッス!」


 やっぱり嬉しそうな顔をキャンセルして襲い掛かってきた。



 鉄の棒をチアリーディングのバトンみたいにビュンビュン振り回して私に連続攻撃をしかけてくる。


 私は目をこらして、とにかくアルサの槍の先端を弾く事だけに集中する。


 すごいスピードなハズなのに槍の動きがちゃんと見えて自分でも不思議な感覚!



 顔、脚、胴、腕、とアルサが次々と狙ってくるが一つ一つ丁寧にサバいていく。


 と、ここで再びアルサの全身がフォオオオッと光り出した。


 気合いゲージが溜まったのか。



 超必殺技を使ってくる気がする!



 アルサが地を蹴って跳んだ瞬間、私は大きく体を真横にのけぞらした。


 すると一瞬前まで私の体があった空間を


 フュオッ!


 と新幹線が通りすぎるような空圧とともにアルサが駆け抜けていく!


 そして彼女は勢い余ってパルテノン神殿みたいな偉そうな柱をボッキィィンッ!! と恐るべきパワーでヘシ折ってしまった。



「あーっ! 高そうな柱を! アルサいいの!? それ、いいの!?」


「えっ!? ……い、いや、こんな、よくある事ッスよ。大丈夫ッスよ、絶対……」


 と言いながらアルサは不安そうに無惨に砕け散った柱の破片を拾ってカチャッと柱に戻そうとする。


 


「スキありっ!」


 

「はっ!?」



 柱に気をとられて私から目をそらしたアルサに後ろからガッと組み付いた。


「なっ……ぐぎぎッ! 放すッス!」


「エッチさんッ! こっち来てぇッ! 早くッ!」


「え、あ、は、はいっ!!」


 固唾を飲んで闘いを見守っていたエッチさんが慌てて駆け寄ってくる。


 距離にすればたった数歩分だが、そのわずかな合間にもアルサは凄まじい力でグイグイと私がロックしてる腕を振りほどこうとする。


 体の奥から強烈な戦乙女パワーが噴き出してきて、万力のように締め上げているつもりなのに、それでも闘争本能に火が点いたゴリラみたいに暴れ続けるアルサを完全に抑え込む事は出来そうにない。


 あと3分もたないだろう。


 エッチさん早く……!



「はいはい! ヒナ様、なんでしょう!」


 エッチさんが目の前に到着した。


「くッ!? な、、何をする気ッスか!?」


「エッチさん! あの、お腹を、みぞおちをエイッ! ってやって気絶させるヤツやって!」


「……はい?」


 エッチさんは何も分からない無垢な子猫みたく首をかしげる。



「いや、だから武術の達人がやるヤツあるでしょ! お腹にビシッと一撃くわえて気絶させるヤツ!」


「あ、ああ……なんとなく分かりましたけど……そんなのやった事ないですよぉ」


「そこをなんとか!」


 純粋なパワーならオーク君の方がありそうだけどエッチさんの方がテクニックありそうだし、怪力過ぎて殺してしまうって事もないだろう。

 たぶん。


「では僭越ながら……エイッ!」


「ふんすッス!」


 エッチさんが拳をアルサのみぞおちにお見舞いするや否や、アルサは気合いの声を張り上げる。


 するとゴキィンッ! と高校野球の金属バットを彷彿とさせる打撃音が辺りに鳴り響く。


「あッ……痛い……!?」


 エッチさんは拳を押さえて苦悶の表情を浮かべる。


「だ、大丈夫、エッチさん!?」


「ざまぁみれッス! 自分の鉄っ(ぱら)は刃物すら弾きかえすッスよ!」


 やだ! このコ、マジもんのバケモンんじゃないッスか!?


「戦乙女さま、ここは俺たちが!」


「エッチの姐さんは下がっててくだせぇ!」


「アニキの仇だ! 喰らえっ!」


 オーク君たちが集まってきて一斉にアルサに殴る蹴るの暴行をくわえる!



「むぐぐッ! 悪の攻撃など効かんッス!」


 こらえるアルサ!

 そして、その衝撃で逆に私のアルサへのロックが緩んでしまった。


「わわっ、キミたちちょっとストップ! ストッ……」


「チャぁああああンス到来ッス!」



「あっ」



 アルサは拘束をふりほどくと、私の腕をひっ掴んで背負い投げ!

 暴行してきたオーク君たちに私の体を叩き付けた。


 バァアアアアンッと総崩れになるオーク軍団と私。


「いっ()てて……」


「やぁああああああっ!!」



 ガツンッ!



「はぅっ!?」


 体を起こそうとした私の頭をアルサがサッカーボールみたいに蹴っ飛ばした。


 ごろごろと私の体がすっ転がっていく。


 戦乙女兜をかぶってるので生身を蹴られたわけじゃないが超痛い。

 目の前が、脳みそが、ぐわんぐわんした。

 耳の奥がキィィィンっと鳴って、みんなが叫んでる声が遠くに聴こえる。


 視界がぐにゃぐにゃになりながら、なんとか立ち上がろうとするも脚に力が入らない。


「はぁ……はぁ……」


 今日はひどい日だ。

 もうこのまま目を閉じて、オデコと蹴られて痛い所に冷却シートをぴたっと貼って寝ていたい。


 いざとなればマリアや神様がなんとかしてくれるでしょ。


 とは思ったものの、目の前でオーク君たちがアルサにボッコボコに叩きのめされてる光景を見ると、そうも言ってられなくて。


 でも、立ち上がりたいのに体が言うことを聞いてくれなくて。


 みんなを助けてあげたいのに何も出来なくて。


 涙が溢れてきて。



 気がつくと私の背中から、白い翼が生えてきました。



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